異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1568【最後は胆力】

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 紫煙を燻らせる=勝利。
 この見立てに間違いがないなら、俺が気になる事に話を戻させてもらおう。

「同じ質問になって申し訳ないけど、どうやって勝ったの? どうしてこの状況になったの? なんでベル達はふっとんでいないの?」

「矢継ぎ早だな……」
 俺の質問攻めにベルは些か困惑。
 で、先ほどまで喉元にレイピアを突き立てられていたベスティリスも、

「本当。そこはわらわも知りたいわね。とっておきである極位魔法ビランバを掻い潜るとか普通は無理。普通じゃない者であっても無理。でも剣神は発動から直ぐに妾の喉元へと切っ先を向けていたのよね……」

「威力が凄かろうとも――」

「術者の側は安全と判断した訳ね」

「はい」

「だからといって出来ることじゃないのよ……」

「タイミングを計るのは得意でして」

「得意とかって次元じゃないのよ……。妾の魔法と魔法の間は、刹那の間ぐらいしかないのよね。その間隙を突かれるとか……。自信が砕かれるわよ……」
 と、大層にベスティリスは落ち込んでいる。

「それに――」
 ここで花の中心で気怠そうにしているリンとオムニガルに目を向ける。

「貴女たちも大したものね」

「魔法において散々、差がどうとか言っていたけど、少しはその差も縮まったかしら?」
 不敵な笑みと共に返すリン。
 でも肩で息をしているんだよな。
 かなりしんどそうだ。
 
 隣では「も、もう……無理……」と、オムニガルはリンとは比較にならないくらいにしんどそう。
 リンもオムニガルもアンデッド。
 疲れを知らないアンデッドなのに、人間味ある脱力感に襲われている。
 そんな姿ではあるが、ベスティリスに対してどんなもんだ! と、下半身を花に沈めたまま胸を反らした姿勢にて見栄を張る。
 
「本来のビランバの威力を打ち消したのだから、今後も大いに誇っていいわよ。黒髪の――」

「リン・クライツレン」
 名乗れば、

「オムニガル・レイムレース」
 リンに続いての名乗り。

「リン・クライツレンとオムニガル・レイムレースね。――リン――ああ、聞いた記憶がある名前だと思ったら、ヴラインが手を組んでいたアンデッドね」

「別段、手を組んでいたわけじゃないわよ。こっちは利用していただけ」
 ベスティリスが口にしたヴラインが誰かと思ったけど、リンが利用していたと発言したところで、ヴァンパイアのゼノの名前だというのを思い出す。

「それで――」
 見合っている両名の間に入り、

「もしビランバが全力で放たれていたらどうなっていたのかな?」
 継いで双方に聞いてみれば、

「私達も含めて、ここの面子は間違いなく終わりと始まりの荒風が生み出す衝撃によってズタズタ――。体の原形が少しでも残っていれば埋葬できる幸運を得られたでしょうね」
 ――……。

「へぇぇぇ……」
 リンの説明内容が本当なのか? と、ベスティリスを見れば、小さく頷く。

「悔しいけど私とオムニガルの連携によるアンブレイカブルであっても完全には防ぎきれなかった。生物に影響を及ぼす、絶え間ない無数の風の斬撃と衝撃を受け止めるだけで精一杯。顕現した荒風自体を受け止める事は出来なかったのが悔しいところ」

「でもそのお陰で、俺達は闘技場から吹き飛ばされただけですんだわけだ」
 本来なら発動と同時に死んでいたと考えるべきだろうからな。
 死なずに済んだのはリンとオムニガルのお陰。
 そして外殻への落下を止めてくれたシャルナとミルモンのお陰。
 これにツッカーヴァッテという頼れる巨大カイコが駆けつけてくれたお陰。
 もし単身で外殻に落ちていたら、全方位から迫る雷の直撃で死ぬし、運良く外殻を抜け出せたとしても、高高度からの落下で地面と濃厚なキスをして死ぬ。
 そう考えると、とんでもなくギリギリのラインで俺とコクリコは生き残ったってことになる……。
 
 頼りになる仲間がいてくれることには感謝しかない。

「リン・クライツレンなる術者も凄かったけど、やはりなんと言っても――」
 ここでベルとゲッコーさんに目を向けるベスティリス。
 ベルを見る時間の方が長いのが、脅威度の差といったところか。

「エアリアルリージョンを解除してからの刹那の間によるビランバの発動に合わせて妾に接近。やはり人間の芸当ではないわね……」

「お褒めの言葉として受け取りましょう」

「称賛も称賛。妾の人生において、これほど他者を心底から称賛することはないわよ。ついでにおヒゲの中高もね」

「俺はついでか。まあ、わずかであっても強者からの称賛は喜ばしい。実際、俺自身もベルの動き出しには度肝を抜かれた」
 吸い殻を携帯灰皿へと仕舞いつつ、ゲッコーさんもベルの動きは神が宿っていると褒めちぎっていた。
 そんなゲッコーさんもビランバという極位魔法に耐えたんだからな。

 じっと見ていれば、

「俺の場合、リンたちのダンディライアンなる巨大な花に全力で守られたからな」

「それは俺達も一緒だったんですけど……」

「立っていた位置が良かっただけさ」
 と、微笑むハリウッディアン。
 同等と言っても過言ではないユーリさんが吹き飛ばされていたんだからな。
 ゲッコーさんが言うように本当に立っていた位置がたまたま良かったとも考えられるが、だとしても、

「ベルと一緒になって切っ先を突きつけた時点で凄いですよ」

「出来はしたが、俺の場合はビランバって魔法が弱まったところを見計らっての動き出しだ」
 背後から切っ先を向けた時にはベルが既に相手の動きを制していたとゲッコーさんは続ける。
 
 やはりベルが図抜けているってことか。

 ビランバがリンとオムニガルの活躍によって、本来の威力を発揮することがなかったにしても、それでも闘技場から一気に外殻付近まで吹き飛ばされる風の衝撃には耐えている時点でね……。
 まあ、ベルだからな。
 ベルという存在だからこそ、そんな芸当も出来ると思ってしまえば、それだけで納得もしてしまうんだけども、

「やはり理の外よね」
 と、リンが気怠そうに感想を述べる。
 エアリアルリージョンの消失とビランバの発動の刹那の間に合わせて、ベルは浄化の炎を体に纏ってから疾駆。
 これでベスティリスは詰んだ。
 術者本人も、極位発動に合わせてツッコんで来るなど想定してなかったそうで、その油断から無防備となった喉元にレイピアを突きつけられてしまったそうな。
 
 この世界の理を拒絶できるベルの炎だからこそ出来る芸当でもあるんだろうが、それ以上に勝利の結果へと繋げたのは、大魔法以上の魔法発動に対し、恐れを抱くことなく前へと駆け出せるベルの胆力だな。
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