異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1597【痕跡は内側から】

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「俺達が出来る事は、ツッカーヴァッテの速さを信じるだけだ」
 場を締めるようにゲッコーさん。
 低音によるその声は、ベルを落ち着かせるには十分な迫力だった。

「朗報をもたらす為に王都へと戻る道中で凶報が入るとは。勇者殿、必要ならばこのジージーの力を存分に使っていただきたい!」

「もちろん。頼らせてもらうよ」

「お任せを!」
 弦の張られていない自慢の十人張りからなる長弓を強く握りしめて意気込みを俺へと伝えてくる。
 本弭もとはずから末弭うらはずにかけてぶっとい弓。
 弓柄の部分だけがくびれているように細い。
 木材、獣の角や革が使用された複合弓は、打撃武器としても強そうな見た目だった。

「出来るだけ速く頼む」
 少し落ち着いたのか、ツッカーヴァッテの背中を優しく撫でるベル。

「キュゥゥゥン!」
 任されたとばかりに、短い翅を大きく羽ばたかせる。
 一気に速度が上がり、さっきまで立っていたコクリコは伏臥の姿勢へと変わった。

「速い。皆、落ちるなよ。後、全体に目を向けててね」
 落下をした者が出た場合、即、伝達。
 飛行能力のある者達がその救助。
 現状、その能力を有しているのが半数を占めているから、落下しても安心ではある。
 
 ツッカーヴァッテの背中に張り付いた姿勢で、王都を目指して西へと進む。

 ――――。

「見えてきた」
 伏臥の体勢から頭だけを起こして前方を見れば、見慣れた風景を視界に捉える。

「高度を少し落としてくれ」
 伝えれば、速度を落としつつ地面へと近づいていく。
 王都を囲むように築かれ、日々進化していく木壁を通過。

「見たかトール」

「見ました!」
 ゲッコーさんへと返しつつ、通り過ぎた木壁を再度確認するために後ろを見る。

「東側木壁の一部が破壊されていましたね」

「ああ、それも内側からだ」

「ですね」
 破壊された木片は、内側より外側に多く飛散していた。
 内側から破城槌を思わせるような衝撃が見舞われたと判断するべきだろう。

「一体、どうなってんだよ……」
 高難易度の天空要塞を終えたと思ったらこれだよ……。
 休息を相談するどころじゃなくなったな……。

「華麗に着地!」
 ツッカーヴァッテから皆してギルドの修練場へと飛び降りる。
 ここでも俺とゲッコーさんは顔を合わせる。
 修練場近くの厩舎の出入り口部分も荒々しく破壊されていた。
 それをザジーさんを中心としたギルドメンバーと、王都の兵達が協力して修復と片付けを行ってくれている。
  
 本当に、なんなんだ?
 
 近くにいるギルドメンバーに状況を聞こうとしたところで、

「主!」

「先生!」
 小走りで駆け寄ってくる先生。

「報告は届いておりますね」

「はい。ゴロ太のことですね」

「南の浄化が始まったので、本来ならば主達が難所の攻略を成し遂げた事を喜び、王都全体で祝うつもりだったのですが……」

「荀彧殿、労いはよいので説明をお願いします」

「ベル殿の心中を思えばそちらを優先いたしましょう」
 直ぐさまギルドハウスへと戻り、俺の部屋兼執務室へと移動。

「新しい顔ぶれもあるようですが、挨拶が後回しなること――ご了承ください」
 深々と頭を下げる先生。

「無論です。そちらが直面している問題に重きを置いてください」
 と、ミルディ。

「それでゴロ太は!」
 先生へと詰め寄るベル。
 大抵のヤツなら仰け反る迫力だが、そこは先生。

「残念ながら居場所は掴めておりません」
 微動だにすることなく冷静な声で返す。

「そ、そんな……」
 ショックのあまりベルは膝から崩れおち、それをコクリコとシャルナが支えてくれる。

「一体、どういった経緯で……」
 ベルの代わりに俺が問えば、

「それには見張りを行っていた方々の代表から」
 先生がそう言えば、発言に合わせるように執務室と廊下を繋ぐドアが開かれる。
 現れたのは眼窩に緑光を灯した存在。
 煌びやかなフルプレートに包まれたスケルトンルイン。
 ロマンドさんと同じ姿ではあるが、肩を落とした何とも力ない姿で入室してくる。

「チッ」
 入って早々、リンから舌打ちを見舞われるルイン。
 これにビクリと体を震わせていた。

「申し訳ない。護衛を任されていながらこの体たらく」
 深々と頭を下げるルインに、

「全くよ!」
 お怒りのリン。
 その体たらくで自分がどれだけ詰め寄られたか! という思いも爆発しそうになっていたけども、

「寝ずの番が可能な方々。しかもスケルトンの中でルインという最上位の存在が、子グマの後を追えなかったのには訳があるからですよね?」
 リンとルインの間に入って問う。
 ロマンドさん達の戦いっぷりは天空要塞で見ている。
 ベスティリスの精鋭であるストームトルーパーの中でも上澄みであろう生徒会長を倒せるだけの実力。
 そのクラスの方々が子グマの見張りに手抜かりがあるとは思えない。

「普段通りだった故に、その普段通りが我らの隙となってしまった……」

「普段通り――ですか?」

「ああ、勇者よ。夜中に子グマが寝惚けて外で用を足すのかと思ってしまってな。直ぐに対処はしていたのだが、それが毎晩と続けば油断を……」
 以前、そんな話を聞いたな。
 多分、目の前のルインと以前のルインは同一のスケルトンなんだろう。
 見た目で判断できないのがネックである。

「で、ついつい普段通りだったから油断していたら、本当に外に出てしまったと」

「その通りだ。主よ……」

「何がその通りよ! とんだ失態ね!」

「返す言葉も無い……」
 リンの叱責にますますヘコむルイン。
 眼窩の緑光が弱々しく縮小して灯っている。
 当人も任されていながらのこの状況に、激しく後悔しているようだ。
 ロマンドさん然り、やはりルインとか上位の面子はアンデッドだけども感情がしっかりとあるよね。

 だがしかし。
 
 これだけの手練れが油断したとはいえ、外に出てしまったゴロ太の追跡と保護が出来ないとはね。
 リカバリーすら難しい状況が発生したと考えるべきだろうな。
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