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驕った創造主
PHASE-1612【偽名でいきましょう】
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「そんなやり取りはどうでもいい。さっさと入ろうか」
俺とガリオンの間を颯爽と通り、こちらのやり取りを無理矢理に終わらせると、ベルはギルドハウスへと向かって歩く。
ベルの進む出入り口の上部分には、でかでかと看板が設置されていた。
――ゴールドポンド――ってのが、ここのギルド名のようである。
金の池ってことでいいのだろうか?
金銭に目がない連中の巣窟ってイメージが容易に浮かんでしまうな。
この辺だと俺達は新顔だからな。もめ事を起こすことなくフレンドリーに接していこう。
ベルの後に続こうとすれば、
「二人ともちょっと待て」
俺達を止めに入るのはガリオン。
「なんだよ?」
「子グマと触れずに情報を集めるにしても、目立つのは良くない」
「確かに」
ベルは美人だからな。
加えて艶のある長くて白い髪に白い軍服。
どんなヤツでも記憶に残る。
「ベルは待機させるか」
「断る」
速攻で拒否される。
「まあ別にそれはいいだろうが、勇者は外套を取れ。六花のマントなんて貴族の連中にしか分からんだろうが目立つからな。そして勇者と公爵って肩書きも口に出すなよ」
「了解」
勇者が活動しているとなれば、このゴールドポンドってギルドから一気に情報が一帯に流れる可能性もあるからな。
本名も口にしない方がいいとガリオンからの有り難いアドバイス。
本名を避けるとなると――偽名か。
「なんか影で活動するみたいで格好いいな。コードネームとなるとスパイみたいだし」
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと行くぞ」
「ベルはなんて名乗るんだ?」
「私は別に偽名を使うつもりはない」
「ゴロ太の為だ」
「うっ……」
言葉に詰まるも、ベルは真面目だからな。偽名とかを考えるというボキャブラリーはないと考えていいかな。
――はたして正にとばかりに、俺をじっと見てくる。
なんか考えろって事なんだろうな……。
自分のもまだ考えていないのに。
――ふむん。
どうしようかな。お胸様が特徴的な美人様でもあるので、その部分を使っての名前となると――絶対に殺されるので却下。
以前に胸のサイズが94だったことから、アサルトライフルのAN-94という隠語を使っていたのを思い出す。
そしてぶるりと体を震わせる……。
鮮明に甦ってくるあの時のベルとの試し合い……。
一方的にしばき倒された時の痛みと恐怖……。
「そこまで難しく考え込まなくていい」
「あ、はい。分かりました!」
「なぜそこで畏まる」
綺麗な直立からの典雅な一礼にベルは怪訝な顔。
過去の痛みと恐怖を振り払いつつ偽名を考える。
――他者から主に呼ばれているのは美姫。でも本人はその呼ばれかたを嫌っているので、胸ネタ同様に却下。
最近だとベスティリスに剣神と称されていたな。
――うむ!
「よし。この地でベルはアップ・ファウンテンと名乗るといい」
「アップ・ファウンテンだな。了承した。アップと呼んでもらおう」
「すんなりと受け入れるんだな」
「ゴロ太捜索の為ならなんでも受け入れよう」
「そうか」
由来とか聞いてくれると思ったのにな。
「ちなみにその様な名にしたのはなぜです?」
いいよジージー。そういったリアクションが欲しかった。
「その昔、新陰流の祖であり剣聖と呼ばれた上泉信綱という剣の達人がいてね。当時のお偉方から天下一と称されたんだ。有名なのだと柳生宗厳という剣豪との手合わせだね。その宗厳を相手に無手で対応。でもって相手の得物を華麗に奪い取る無刀取りにて実力差を見せつけてね。宗厳はその場で弟子入りしたんだよ」
と、中々に饒舌になってしまった。
それで、なぜアップ・ファウンテンという名になるのか? って大きなグレートヘルムの中では頭を傾げていることだろうと思ったけども、
「チンゼイハチロウだけでなく、カミイズミノブツナなる御方も、戦いに身を置く者としては信仰しなければならないようですな!」
テンションが高くなっているからか、全くその部分は気にしていなさそうだった。
姓を直訳しただけと言っても分からないだろうから、その部分が省けたので良しとしよう。
「では偉大なる先人の姓名に敬意を払い、使わせていただこう」
と、ベルも気に入ってくれたようで何よりだ。
「ガリオンはどうするんだ?」
「俺は本名のままでいい。二人と違って名が通っているわけじゃないしな」
「ああ、そう」
まあ、こんな強面の男が伯爵の名代である外交担当とは誰も思わないだろうからな。
「それで、お前はなんにするんだ?」
ミルモンに手伝ってもらいつつ、六花のマントを外して畳み、雑嚢に入れているところでガリオン。
――ふふん。
「オルト・エーンスロープと名乗らせてもらうよ」
「じゃあ、オルトと呼べばいいんだな?」
「おうよ」
「二人の名前が決まれば問題ない。お邪魔しようか」
ベルに代わって先頭を歩むガリオン。
――……あれ、今度はどうしてそんな名に? とかジージーは聞いてこないね……。
誰も俺の偽名には関心を抱いてくれないのかな……。
遠坂の遠を音読みの遠にして、更にエーンと伸ばし、坂をスロープと直訳しての姓と、亨のアナグラムでオルトって名前にしたんだよ。
――……心の中だけで皆に誇らしく説明を行う俺氏……。
心の中で誇らしく説明しているけど、実際のところ心は寒い……。
ベルの偽名に比べて凝っているから、由来をスルーされると余計に寒さを感じるってもんだよ……。
俺とガリオンの間を颯爽と通り、こちらのやり取りを無理矢理に終わらせると、ベルはギルドハウスへと向かって歩く。
ベルの進む出入り口の上部分には、でかでかと看板が設置されていた。
――ゴールドポンド――ってのが、ここのギルド名のようである。
金の池ってことでいいのだろうか?
金銭に目がない連中の巣窟ってイメージが容易に浮かんでしまうな。
この辺だと俺達は新顔だからな。もめ事を起こすことなくフレンドリーに接していこう。
ベルの後に続こうとすれば、
「二人ともちょっと待て」
俺達を止めに入るのはガリオン。
「なんだよ?」
「子グマと触れずに情報を集めるにしても、目立つのは良くない」
「確かに」
ベルは美人だからな。
加えて艶のある長くて白い髪に白い軍服。
どんなヤツでも記憶に残る。
「ベルは待機させるか」
「断る」
速攻で拒否される。
「まあ別にそれはいいだろうが、勇者は外套を取れ。六花のマントなんて貴族の連中にしか分からんだろうが目立つからな。そして勇者と公爵って肩書きも口に出すなよ」
「了解」
勇者が活動しているとなれば、このゴールドポンドってギルドから一気に情報が一帯に流れる可能性もあるからな。
本名も口にしない方がいいとガリオンからの有り難いアドバイス。
本名を避けるとなると――偽名か。
「なんか影で活動するみたいで格好いいな。コードネームとなるとスパイみたいだし」
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと行くぞ」
「ベルはなんて名乗るんだ?」
「私は別に偽名を使うつもりはない」
「ゴロ太の為だ」
「うっ……」
言葉に詰まるも、ベルは真面目だからな。偽名とかを考えるというボキャブラリーはないと考えていいかな。
――はたして正にとばかりに、俺をじっと見てくる。
なんか考えろって事なんだろうな……。
自分のもまだ考えていないのに。
――ふむん。
どうしようかな。お胸様が特徴的な美人様でもあるので、その部分を使っての名前となると――絶対に殺されるので却下。
以前に胸のサイズが94だったことから、アサルトライフルのAN-94という隠語を使っていたのを思い出す。
そしてぶるりと体を震わせる……。
鮮明に甦ってくるあの時のベルとの試し合い……。
一方的にしばき倒された時の痛みと恐怖……。
「そこまで難しく考え込まなくていい」
「あ、はい。分かりました!」
「なぜそこで畏まる」
綺麗な直立からの典雅な一礼にベルは怪訝な顔。
過去の痛みと恐怖を振り払いつつ偽名を考える。
――他者から主に呼ばれているのは美姫。でも本人はその呼ばれかたを嫌っているので、胸ネタ同様に却下。
最近だとベスティリスに剣神と称されていたな。
――うむ!
「よし。この地でベルはアップ・ファウンテンと名乗るといい」
「アップ・ファウンテンだな。了承した。アップと呼んでもらおう」
「すんなりと受け入れるんだな」
「ゴロ太捜索の為ならなんでも受け入れよう」
「そうか」
由来とか聞いてくれると思ったのにな。
「ちなみにその様な名にしたのはなぜです?」
いいよジージー。そういったリアクションが欲しかった。
「その昔、新陰流の祖であり剣聖と呼ばれた上泉信綱という剣の達人がいてね。当時のお偉方から天下一と称されたんだ。有名なのだと柳生宗厳という剣豪との手合わせだね。その宗厳を相手に無手で対応。でもって相手の得物を華麗に奪い取る無刀取りにて実力差を見せつけてね。宗厳はその場で弟子入りしたんだよ」
と、中々に饒舌になってしまった。
それで、なぜアップ・ファウンテンという名になるのか? って大きなグレートヘルムの中では頭を傾げていることだろうと思ったけども、
「チンゼイハチロウだけでなく、カミイズミノブツナなる御方も、戦いに身を置く者としては信仰しなければならないようですな!」
テンションが高くなっているからか、全くその部分は気にしていなさそうだった。
姓を直訳しただけと言っても分からないだろうから、その部分が省けたので良しとしよう。
「では偉大なる先人の姓名に敬意を払い、使わせていただこう」
と、ベルも気に入ってくれたようで何よりだ。
「ガリオンはどうするんだ?」
「俺は本名のままでいい。二人と違って名が通っているわけじゃないしな」
「ああ、そう」
まあ、こんな強面の男が伯爵の名代である外交担当とは誰も思わないだろうからな。
「それで、お前はなんにするんだ?」
ミルモンに手伝ってもらいつつ、六花のマントを外して畳み、雑嚢に入れているところでガリオン。
――ふふん。
「オルト・エーンスロープと名乗らせてもらうよ」
「じゃあ、オルトと呼べばいいんだな?」
「おうよ」
「二人の名前が決まれば問題ない。お邪魔しようか」
ベルに代わって先頭を歩むガリオン。
――……あれ、今度はどうしてそんな名に? とかジージーは聞いてこないね……。
誰も俺の偽名には関心を抱いてくれないのかな……。
遠坂の遠を音読みの遠にして、更にエーンと伸ばし、坂をスロープと直訳しての姓と、亨のアナグラムでオルトって名前にしたんだよ。
――……心の中だけで皆に誇らしく説明を行う俺氏……。
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