異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,645 / 1,861
驕った創造主

PHASE-1645【大商人】

しおりを挟む
 成果も兜もガバガバと言われるのは仕方ないし、俺もそう思っている。
 
 だから、

「最悪、ゲッコーさん達を喚ぼうかとも考えている」
 南伐の事を考えると南に対しての防衛は重要だから、それだけは避けたいんだけども、あの監視下の中で動き回るとなれば難しい。
 となれば欲するのは、ステルスミッションのスペシャリスト。

「いや、我々だけで解決しよう」
 と、ベル。
 南伐への準備と防衛は現状で最重要。
 南方の瘴気がなくなれば、それを知った蹂躙王ベヘモトの軍勢も動かざるを得なくなる。
 今までは小出しで要塞トールハンマーへと攻めてきたが、それこそ大軍勢で攻めてくる可能性もある。
 一騎当千の英傑は多ければ多いほどいい。
 だからこそ、ここの案件は自分たちで解決するべきだとベルは主張。
 やっぱりそういった考えになるよね。

「そういえば案内役はどうしたんだ?」

「期待に応えられなかったってことで落ち込んでてね」

「部屋に戻っていますよ」
 と、俺に続いてエマエスと同室であるルーフェンスさんがガリオンへと説明。
 防御壁の内側に入れただけでも良かったんだけどね。
 まあ、成果はなかったけど……。
 だが内部構造はわずかだが知ることができた。
 難しいのは同じ建物ばかりが建っていて、見分けがつきにくいこと。
 で、客人用以外は常に見張りが立っている。
 スニーキングスキルがなければ潜入は難しいので、別の切り口を考えないといけないわけだが……。

「なんか手はないのか?」

「ガリオン――あったらゲッコーさん達を喚ぼうという考えにはならないんだよ」

「まったく勇者のくせに知恵がないやつだ」

「うるせえ筋肉だな。だったらお前が――」
 知恵を授けて見せろって言いたかったけど、コイツは正面切って大暴れというのを実行するかもしれないので発言を中断。

「にしても内側は金持ち連中が凄く多かったぞ。ほぼ成金ぽかったけど」
 と、話をそらす。

「俺以外は皆、高そうな身なりの連中ばかりだった。そんな連中が不平をあまり漏らすことなく小一時間ほど列に並んでいたんだよな」
 継げば、

「あれだろ。ここに来た時にエマエスが言っていた不老だか不死だかの薬と関係してるんじゃねえか? 我が儘言うとそういった恩恵を受けられないんだろうよ」

「本当にそんなのがあるのかな? あればもっと大きな話題になっているだろうに」

「まあ、そうだな。タークの旦那もそういった情報は耳にしていないんだろう?」

「もちろんです」
 ルーフェンスさんの返事にガリオンは頤に手を当て、

「普段以上に内側の警戒が強くなっている。不老不死とは別に何かしらのお披露目があるのかもな」
 ガリオンはそう言いながらラウンジを見渡す。俺たちもそれに続く。
 金持ち連中が挨拶を交わし合い、ソファに腰を下ろして食事。
 さながら懇親会のようであり、お互いの関係性を深め合っている。
 金持ち連中の目的がガリオンの予想通りお披露目となれば――その対象はゴロ太しか考えられない。
 お披露目の内容が何なのかを察するベルは眉尻を上げる。
 直ぐさまミルモンがベルをなだめつつ、

「ここはオイラの出番かな」
 と、胸を張る。

「妙案でも?」
 問えば、

「この体を活かして潜入してみようと思うんだけど」
 エマエスを追跡し、見張りも経験しているから自分がスニーキングミッションをやると買って出てくれる。

「難しいだろうな。素人の追跡と見張りとは違う。製造所の連中、間違いなく手練れだ」

「ほう、そんなにか」

「ここの面子なら問題はない。問題はないが面倒だ」

「手間取るような騒ぎは起こしたくねえよな」

「そういうこと」
 ――ふむん。どう攻略するか……。

「皆さんして考え事ですかな?」
 聞き覚えのある声。
 振り返るよりも速く、

「なんだ爺さん」
 ガリオンの恫喝。

「強い目をお持ちの方だ」
 まったく効果なしで笑顔で対応してくるのは、

「貴男は」

「なんだオルト。知っているのか?」

「製造所で俺の二つ後ろにいたご老公」

「この年齢になると、並ぶのも一苦労でしたよ」
 職員とのやり取りからして、並ばなくてもいいようだったけどね。

「それで、なんの御用でしょうか? ご老公」

「なにかお困りのようでしたので」

「何かしらの知恵でも授けてくれるのか。爺さん?」
 やおら立ち上がり、老公を見下ろす筋肉ヤクザ。

「おい、ガリオン」

「オルト。いきなり話しかけてきた爺さんだぞ。名乗りもしねえのを用心もせずに懐に飛び込ませるつもりか?」

「正論。名乗るのが遅れて申し訳ない」
 ガリオンの圧を受けても柔らかな物腰に変化のない老公の胆力。
 ただもんじゃねえな。 

「システトル・モル・ムートンと申します」

「ムートン!? ムートンとはレリリオラのムートン家でしょうか」
 名を耳にすれば、ルーフェンスさんの声に緊張が混じる。

「そのムートン家で間違いないですよ」

「これは!」
 深々と頭をさげるルーフェンスさんの姿にただ事ではないと思ったので、パーティーを代表して俺が頭を下げる。
 と、同時に馴染んでいないレザーヘルムがゴトリと床に落ちる。

「はっはっは」
 余裕ある快活な笑い声が相対するほうから返ってくる。
 製造所でも同様の笑い声だったな。

「それでムートン家ってのは?」
 ソファにドカリと大股開いて座るガリオンが問えば、

「このロイル領における最大の豪商です」

「貴族じゃないが大商人様ともなれば、腰も低くなるってわけか。権力側ってのは金銭に弱いからな」
 ガリオンの言い様に苦笑いのルーフェンスさん。
 
 次には、

「いぎぃ!?」
 大股開いて座っているガリオンが脛を抱えて床に転がるという図。
 ベルからの修正が入りました。
 権力側とか余計な事を口にするから蹴られるんだよ。馬鹿野郎が!
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...