異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1656【しがみつく人、引き剥がす人】

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「オルト殿」
 ルーフェンスさんの声にはたと現実に戻る。
 壇上付近ではソドンバアムと数人の私兵が放つプレッシャーによって、成金連中が更に下がっていく。
 
 この時、ソドンバアムが「皆様が騒がれれば進捗に遅れが生じます。そうなると他の方々は我々ではなく貴方方に不快感を抱くでしょう」と、言いながらこちらサイドに手を向けてきた。

 こっちサイド――つまりは成り上がったのではなく、長い間この地に根付いて力を保っていた面々に目を向けるように促した事で、成り上がった連中は無理矢理に口を真一文字に結ばされるた。
 間接的に力のある面々を利用する機転からして、ソドンバアムってのは切れ者だな。
 ルーフェンスさんと肩を並べる騎鳥隊の隊長を務めていただけはある。
 そんなルーフェンスさんは、目深に被った兜で表情を隠しながらも、ソドンバアムの所作一つ一つが気に入らないとばかりに舌打ち。
 騎鳥隊としての矜持を捨ててここにいる事がよほど許せないようだ。
 もし俺たちの目的であるゴロ太にあの男が関係している可能性があると知れば、ベル以上に自分を律する事が出来なくなって躍りかかる可能性もあるので、全てが公となり、全てが無事に終わった後にでも教えてあげよう。

「皆様、些か進行が中断しましたが、今のやり取りで芽生えた疑惑は杞憂でしかありません。完成まであとわずかです。皆様が築き上げてきた権力保持のため、我々はこれからも全身全霊にて力添えする所存!」
 力説するムアー。
 疲れた表情とは真逆でよく通る声である。

 そして今の発言からして、

「不老不死とか眉唾な薬を作っているというのは、発言どおりなら事実と考えて良いみたいですね」

「ええ。これはターク様にも伝えておかないといけませんね」
 コソコソとしながらも作っている。
 噂程度でしか話が広がらなかったのは、箝口令もだろうけど、目の前の連中は隠し事をしながら活動をするのが上手いのかもしれない。

「皆様には我々の多岐にわたる研究過程をお見せしたいと思っております。皆様が欲するものは何も今の権力を保持する為の若さだけではありませんよね?」
 返事を待つかのように手を耳に当てて、こちらサイドの誰かが言葉を発するのを待つ姿勢。
 おどけた感じで待つ姿。さっきまでお怒りになっていた成金連中を煽るようにも見えるけど、不満の声は上がらない。

「見せてもらえるのか!」
 と、興奮した声を上げるのは、先ほど詰め寄った一人から。

「もちろんです。馬による移動や輸送とはまた違った経験と優越感を味わえることでしょう。今までは護衛が必要だったでしょうが、その出費も抑える事が可能ですよ」

「「「「おお!!」」」」
 興奮の声が上がる。
 馬による移動や輸送には護衛が必要だが、今後それが必要なくなれば、護衛の為に冒険者を雇わなくて済むと喜びの声。
 冒険者が必要じゃないほどに頼れる存在を提供してくれるってことのようだ。

「ですがまずはシステトル様から提供していただいております、傾国の美女による踊りで皆様の気分をいま以上に高めていただき、それを維持した状態で我々自慢の商品を見ていただきたいと考えております」

「「「「ィヤァァァァァァァァァァァァァア!!!!」」」」
 なんて気持ちのいい猛った声だろうか。
 戦場の喊声を彷彿とさせる。
 
 ムアーの言葉に場の皆様の興味はベルによる踊りと輸送に活躍する自慢の商品へと意識がもっていかれた。
 不老不死かどうかは分からんが、そういった薬の存在が今のやり取りによって頭の中から吹き飛んだようだ。
 それを狙っての発言と仮定すれば、不老不死の薬を製造しているというのはやはり眉唾物なのでは? だから噂程度でしか話が広がらなかったのでは? と、疑念の方へと舵を切ってしまいそうだ。

「では踊り子の方、登壇してください」

「ぬぅ……」
 ムアーからの手招き。
 これにベルは些か躊躇してしまう。
 やはり露出の高い恰好で衆目に晒されるのはベルの性格上むずかしいよね。

「気分が優れないとか言うか?」
 後ろから小声で伝えれば、

「やるに決まっている!」
 力強く肩越しに返してくる。
 力強く言う事が自分を前に進めるための推進剤とばかりに、ベルが動く。
 装飾品の中には音を奏でるモノのあるようで、歩くだけでシャンシャンと心地の良い音色。
 ベルが歩む度に金持ち連中は瞬きするのも勿体ないとばかりに目を見開き、一挙手一投足すべてを見てやる! という気概が伝わってくる。

「まったく男って連中は……」
 呆れてしまう俺氏。
 言ってる俺も周囲の皆さんと一緒の思考ですけどね!
 シャンシャンという小気味の良い音に加えて、ヒールの高い真紅の履き物からもカツカツと音を奏でる。

 二つの音をならしつつ壇上へ――、

「鼻の下を伸ばして馬鹿な顔だ」

「あ、すみません……」

「いえ、オルト殿ではありません……」
 ルーフェンスさんは元同僚であるソドンバアムが壇上にあがったベルを見て、にやけきった顔となっていることに不機嫌。
 でも、にやけるのはしかたないと思う。
 だってソドンバアムからすれば超アリーナ席だもの。
 押し寄せてくる男性陣が壇上に上がらないようにしつつも一番近くで踊りを見る事が出来るとなれば役得だからな。

 ソドンバアムだけでなく、他の私兵達も同様。
 で、絶対に不埒な事を踊り子にはさせないという意思も伝わってくる。
 良いところを見せて、踊りが終わった後にでも自分たちの活躍を伝えてお近づきになりたいって魂胆があけすけ。

「アップ・ファウンテンと申します」
 恭しい一礼を壇上から行えば、前日に俺も目にしたTANIMAが皆様の見開いた目へと飛び込んで来る。
 これには辛抱溜まらないとばかりに、私兵達を乗り越えて最前列にまで出てくる金持ち連中。
 必死になって壇にしがみつく金持ちと、それを必死に引き剥がそうとする私兵。
 まんまライブ会場のやりとりみたいだ。

 ――ライブとか行ったことないから想像の範囲だけど。
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