異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1658【前座は上首尾】

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「助かったぞ冒険者」
 と、礼を言われる。
 壇上で踊るベルとも目が合い、わずかだが微笑みを向けてくれた。
 感謝の微笑みは正に魅惑の笑み。
 老公が曲名を【女神の微笑】って教えてくれたけど、この身でソレを体験した。
 今の笑みは正に女神そのものだったよ。
 
 俺に――俺にだけ向けられた笑みではあったが、

「いまこのワシに微笑んだぞ!」

「いや今のはこの俺にだ!」
 再燃するおっさん達。
 更にベルがここで挑発するかのように掌を向けて、小指から順番に握って手招きをするような所作を見せれば、ボルテージは青天井。
 おっさん達による人の波が再び!
 贅肉だらけのおっさんの突撃とか勘弁してほしいね……。

「暑苦しく加齢臭が漂う波を乗りこなすのは難易度が高すぎる……」
 迫り来る贅肉たっぷりなおっさん達の波に対して両腕を大きく開いて腰を落とし、足の裏に根を張らせるイメージによる不動の姿勢。

「よっしゃこんかい!」
 ――…………。
 
 ――……うぇいぃぃ……。
 
 舞と曲が終了するまでの間、なんとかおっさん達の波を堰き止めることに成功。
 一緒に止めていた私兵の面々からはサムズアップが返ってくる。
 同じ危機に対応したことで結束力が芽生えた。

「大したもんだ」
 ルーフェンスさんが怒り心頭となった存在であるソドンバアムが褒めてくる。

「貴方方も」
 返せば、

「いや、お宅の助力がなければ危なかった」
 成し遂げたとばかりに爽やかな笑顔でそう言ってくれるソドンバアムに、周りの面子も同様の発言。
 なんだろう。この人達は悪い感じがしないな。
 ソドンバアムってのも騎鳥隊を辞めてはいるが、今の仕事に対しては真面目に取り組んでいるご様子。
 だがコイツはゴロ太を連れてきた可能性のある人物。
 笑顔の裏ってのもあるだろうからな。胸襟を開いて接するってのだけは避けないといけない。
 人間フェンスによる一体感ってのはあったけど、それとこれは別として判断しないとな。
 
 とりあえず笑顔で応じるという事だけはしておく。

「感謝する」

「おう、本当に踊れたんだな」

「まあな」
 踊りを終えたベルが壇上からおりてくる。
 次にはそこへと群がろうとするおっさん達だが、それが出来ずに子供みたいに唇を尖らせていた。
 老公が側に来た事で見えない壁が構築されたようだ。

 それを無視してくるのが、

「実に素晴らしいものでした! 心奪われたのは久しい。いえ、五十三年の人生において初の事でした!」
 大興奮のアプールのおっさん。
 ベルへとグイグイ迫ってくる。
 紳士的ではあったけど、踊りの時は老公も呆れるくらいにハイテンションだったからな。
 未だ余韻が残っているようで、ベルへと向ける思いは非常に暑苦しい。

「次は是非とも自分とのデュオを!」

「小休止を取った後にでも」

「おお! なんと喜ばしい! 大手との取引を成し遂げた時以上の気分です!」
 本当、相手を喜ばせる台詞が上手い。
 しかもアプールのおっさんの場合、建前じゃなく本音まる出しで言っているようだからな。
 俺もそうありたいもんだ。

「お疲れ様でした」
 ここで一番よい席で見ていたムアーもやってくる。
 痩躯で疲れ切った顔からは想像できないほどに紅潮。
 ベルの踊りのお陰で血の巡りがよくなって何よりだよ。

「最高の前座でした。皆様の高ぶった姿。このまま商品を紹介すれば、今の勢いで快諾からご購入してくださることでしょう!」
 一番近くで踊りを見られて、商売も上手くいきそうで最高だ! と、ムアーは両手を叩いて大喜び。
 
 畳み掛けるように、

「皆様! 舞姫による踊りに未だ心踊っておられるでしょうが、皆様の移動と運送が安全となる商品をこの場でご紹介させて頂きます!」
 声高なムアーの声に当てられ、集っている金持ち連中も大いに盛り上がる。

「では、しばしご歓談を。直ぐにご用意いたしますので!」
 駆け出すムアーの足取りは非常に軽い。
 これにソドンバアムを中心とした私兵達も続く。
 去り際に私兵達が俺へと向ける爽やかな笑みを見れば気持ちのいい連中ではあると思う。

「行ったようですね」
 面識あるからこそ気づかれるとまずいルーフェンスさんがここで俺へと駆け寄る。

「悪そうな人間には見えませんでしたけど」

「悪い人間ではないでしょう。ですが欲には弱い。これは昔から変わっていません」
 金に色欲、物欲。
 とにかく普通の人間よりその部分に弱い。
 ここに身を置いているのも騎鳥隊としての矜持よりも金になるからだと、ここでも辛辣な言い様。
 自分のスキルを活かしてよりよい職場に転職するってのは当たり前なんだけども、ルーフェンスさんにとって騎鳥隊は金以上にステータスがあるからか、譲れない思いがあるようだ。
 
 俺たちとしても、ゴロ太を連れてきた人物であろうソドンバアムには目を光らせておきたいのも事実。
 当人はただ運んで来ただけと思っているかもしれないけども。

「こらこらあまり寄り付くんじゃない!」

「それはご無体というものですアプール殿」
 俺が考えを巡らせている間、ご歓談の時間というのを利用してベルへと近づいてくる金持ち連中。
 ついさっきまで老公の見えない壁に遮られていたみたいだが、そんな老公と挨拶を交わし、懐に入り込んだところでベルにアプローチを仕掛けるという手段へと変更。
 
 これを老公に代わって対応するのがアプールのおっさん。
 絶世に舞姫とお近づきになりたい連中から守るポジションに立つ事で、舞姫からの好感度をもっと上げたいというのがあけすけである。
 
 で、そんな中でも自分たちの自己紹介を行う金持ち連中。
 自分たちの顔と名前だけでも覚えてもらおうと押し合いへし合いで躍起だ。 
 いまから運ばれてくる商品よりも、ベルと交友を持つことの方が重要案件のようである。
 
 まずは無駄な贅肉を削ぎ落としてから言い寄るべきだと言ってやりたいが、猛烈にアピールしてくる精神があるからこそ、商売で成り上がれたんだろうな。と、感心もする。
 
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