異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1738【黒い獣人】

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 とはいえ、

「死に体もいいところだな!」

「キュ!」
 から放つのは、ガリオンのアンリッシュ・ワンショットとゴロ丸のミスリルの拳。
 直撃かと思いきや、プクゥゥゥゥゥゥゥ――と触手が膨らむ。
 バルーンアートに使用されるような風船のように細長く膨らめば、

「よくやってくれた!」
 バルバダイの称賛の次には膨らんだモーモーチャーチャーがバンッ! っと激しい音と共に破裂。
 一帯に毒霧を撒き散らす。

「散開」
 ベルの指示にガリオンとジージーがワックさんとゴロ太、シュネーを抱きかかえて後退。

「受け取れぇ! 猟犬の資格がある者よ!」
 這う姿勢から起き上がり、懸命に駆けながら懐から取り出した小瓶をブリオレへと投げる。
 広範囲に散布される毒霧に目を奪われた隙に投げ渡されてしまった。
 小瓶の軌跡を目で追い、俺が手を伸ばすよりも先にブリオレの手に収まってしまう。

「なんだこりゃ?」

「分からないならさっさと捨てるべきだな。そいつが扱うのは碌な代物じゃない」

「テメーがそう言って事は、その逆なんだろうな!」

「馬鹿が」

「馬鹿であっても構わねえよ! テメーを殺せるならな!」
 殺人まで犯してここまで来てる以上、引くに引けなくなっているようだな。
 救いようのない馬鹿だよ。

「さあ呷れ! ブリオレなる者よ。貴様に最高の力を授けるぞ。一息に飲み干してしまうのだ。そのメタモルエナジーを!」

「はぁ!? よせブリオレ! それを飲むな!」

「やなこった」
 俺が言っても全てを拒否とばかりに栓を外して一気に呷る。
 クソが!

「なんでメタモルエナジーなんて持ってんだよ! って、そうか。魔王軍と接触してたんだったな。研究者ともなればそういったアイテムを試しに譲ってもらっていると考えるべきだった」

「中身はかなりの力らしいぞ。魔王様の力で生み出された代物だ。その中でもかなりの上物だということだからな」

「ガグよりもか?」

「ガグ? それは分からんが強い力を有しているそうだ」

「――ギッガァァァァァァァ!? なんだよこりゃ! 体の中が痛え! いでえ、いでえぇぇぇぇぇよ! 焼ける……溶ける……」
 叫び地面でのたうち始める。

「なんだ!? 毒なのか? 魔王様はこの私に毒を与えたのか!」

「違うな。並の人間が扱える代物じゃないってことだろう」
 ハイエルフで氏族のポルパロングのような力を有している者が使用すれば扱えるんだろうけど、バルバダイやブリオレでは手に余る劇薬だったみたいだな。
 扱えなければただの猛毒でしかないようだ。

「ぐぞ! ちぐぞおぉぉお! アップは俺のもんなんだよ……」
 仰向け。血走った目。伸ばしてもベルに届くことのない手。
 ベルから視線を移して俺を見てくる目は増悪そのもの。
 ――程なくして痙攣。
 伸ばしていた手が力なく地面に触れれば、ブリオレは動かなくなる。

「くそ! 役立たずが! 勢いよく登場しておいてなんだこの結果は!」

「お前って奴は本当に救えないな」
 どうにもならない奴だよバルバダイ。
 こんな所まで来たブリオレもだけど。

「せめて遺体は埋葬――」

「トール」

「おう!? 速い!」
 ベルの呼びかけに咄嗟に体をよじって回避。
 通過する凶悪な風切り音と、月明かりの中で走る黒い影。

「爪だったな」

「どうだろう。オイラには見えなかったよ」
 と、

「ブリオレは!」

「いないよ」
 倒れていたブリオレがいない。
 つまりは、

「ショゴスの力を手に入れることに成功したのか……」
 どこに行った?
 全方位を素早く見渡せば、

「木の上か」
 木々の中でも背の高い木のてっぺんで、蹲踞の姿勢にてこちらを見下ろしてくるのは、

「――ヴィルコラク?」
 ガルム氏を思わせる獣人がそこにはいた。
 違いがあるとするなら、黒い毛並みは影が揺らいでいるようなもので、ガルム氏たちのような体毛とは明らかに違う。
 墨をつけた筆を走らせたような感じだ。
 毛先が揺らぎ消えれば、また出現するという不思議な体毛。
 幻影や陽炎のような不可思議なもの。
 服も鎧も身につけていない。黒い陽炎のような体毛を持つイヌ科の獣人。

「木のてっぺんにいるヤツ。ブリオレか?」

「そうだ。俺はブリオレ――ブリオレ……。俺はブリオレ。ブリオレ……なのか? 猟犬ではあるが、ブリオレという者だったか?」
 蹲踞の姿勢のまま長い爪を有した自らの手を眺めつつ自問自答とばかりに名前を繰り返している。

「兄ちゃん。あいつ大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないだろうな」
 ただ分かる事は、

「ブリオレの時とは別次元にやばいってことだな」
 さっき俺に仕掛けて来た動きからして、モーモーチャーチャーが可愛い相手と思えるほどの高い戦闘力を有した存在が、敵として現れたと考えるべきだろう。

「――ああそうだ! ブリオレ。そう俺はブリオレだクソガキィ!」

「お、まともに会話は出来るようだな」

「でもブリオレでもない! 脳に叩き込まれる! 力の扱い方が急激に入り込んでくるぅぅぅ! 苦しいほどにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!」
 自らの手で両腕を抱きしめて樹上で悶え始める。

「せ、聖祚! 聖祚の知識の一部がぁあぁぁああ!」
 聖祚って言ったな。
 ブリオレが知るはずもない魔王ショゴス。
 その魔王ショゴスを聖祚と敬称するのは、魔王軍の中でも特に忠誠心の高い護衛軍。
 ブリオレが言うように、樹上の獣人はブリオレであってブリオレではなくなっているようだ。
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