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新人アナウンサー長嶺 桜
しおりを挟むもっと、もっと。
「ねぇ、キスしよう?」
猫なで声で私は囁く。彼は平然とした顔で私の唇に目を落とす。ベッドとテレビ、あとは主要なものしか置いていない殺風景な彼の部屋。二人だけの時間がただひたすらに流れていく。お互い見つめあってキスをするけど、いつも軽く触れただけの小学生みたいなキス。そうやって彼は焦らすのだ。
「ねぇ、もっと。もっと……ん。」
今度はとろけるほど熱く濃厚なキス。絡み合う舌先からは彼の息遣いが感じられ、私の心まで刺激させる。
もっと、もっと、感じ合いたい。
思いが通じあったのか、彼が私のシャツを脱がす。スルスルと肩から外されていく下着。部屋には裸の動物が二人。窓からは、月明かりだけが入り込んで幻想的だ。そして二人はさらにお互いを求め合うようにベッドにもたれこんだーーー
窓から差し込む光はとても眩しく私を照らす。布が擦れ合う音。ゆっくりと目を開けると隣に彼が眠っている。小さな幸せを噛み締めながら彼を抱きしめる。少しだけ生えた髭が少しくすぐったい。
「ん。」
「あっ、ごめん、起こしちゃった?」
んんと猫みたいに喉を鳴らしながらもう一度布団に潜り込む。
「ダメだよ~今日、仕事でしょ~」
と彼を揺らすけど全く起きない。長いまつげに薄い唇。端正な顔立ちをしている。ずっと見ていたら自分も眠くなってしまった。このまま時が止まればいいのになぁ。なんてことを考えて目を閉じる。
「長嶺ーーー!おーきーろーよ!」
「うーん。幸せ~ むにゃむにゃ」
幸せな夢が無残にも終わってしまう。終わりたくなくて何度も目を開けてつぶるを繰り返す。だけど、大声で揺すられてやっと私は目を覚ました。突っ伏して寝ていた机の上にはよだれのあとが……
「あっ、ごめん。寝てた。」
こんな間抜けな姿だが新人アナウンサーだ。私の名前は長嶺 桜。ちなみにここは私の所属するSGY放送局。周りには、報道スタッフやプロデューサーなど様々な役職の方々がいる。
「んなの見ればわかるよ!職場でなんでそんなに寝れるんだよ!仕事のしすぎで疲れてんじゃないの?」
彼は同僚の佐久間 樹だ。
「そんなこと言われたってなぁ。」
仕事で疲れるというよりも、毎日彼のことを考えると夜も眠れないのだ。ちらっと横目でオフィスの奥を見つめる。そこには私の憧れの杉谷先輩が……♡♡今日も相変わらずかっこいい。ストライプの紺のスーツに爽やかな白のネクタイ。髪型もしっかりと整えてあるが少しくせっ毛ではねている所もギャップ萌えだ。そしてなんといっても笑った顔。元の顔立ちが少年のように聡明であるからえくぼが引き立つ。かっこいい……ありがとう、神様……この局に杉谷 聡馬という人間を配属してくださって……先輩こそ王道イケメン……。イケメン・オブ・ザ イケメンと呼ばないものはいない(私調べ♡)
「おぉ~い、長嶺~?話聞いてるかぁ~?」
「ごめん、ごめん、なんだっけ?」
「だから、最近仕事しすぎだろって。がんばりすぎても仕事にミスが出るぞ。お前は昔から要領が悪いからさ。」
佐久間は中学からの幼馴染だ。何かと心配性で私の行動にいちいちケチをつけてくる。
「うるさいなぁ、関係ないでしょ。聞かされすぎて耳にタコができるよ、ほんと。」
ため息まじりに言うと佐久間はちょっと不服そうに口をとがらせた。
「俺はお前を……」
「あっ、そろそろ行かなきゃだから、、佐久間も私を見習ってちゃんと仕事しろよ~!」
佐久間の言葉を遮って立ち上がると、わざとらしそうに廊下をかけていく。
でも、さっきの夢は何だったんだろうかぁ。すっごいリアルだった……笑
相手の顔が分からなかったのがショックだけど杉谷先輩だといいなぁ♡♡
なんてことを考えながら、次の現場にむかうのだった。
つづく
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