上 下
10 / 39
一章 細マッチョエルフの受難~転生しても腐れ縁?ありえねぇ……~

思わず素が出てしまうもので

しおりを挟む



 空が明るい内はずっと足を動かし続けて、日が沈んで辺りが暗くなる頃に薪を集めて火をおこし、野宿の準備をした。

 食事は現地調達。適当に食べられる木の実を採って、近くに飛んできた山鳥を弓矢で射れば事足りる。

 弓は持参したけど、矢はそこらに落ちている枯れ枝で十分。真っすぐ飛ばないのを見越して射るのがコツだ。あとエルフだから魔力が多い。ちょっと枝に魔力を流して射ると、鋭い矢じりがあるような威力を出すことができた。

 三人とも野宿経験があるから、それはもうスムーズに準備ができた。

 しかしオレにとっては準備よりも、焚火を囲んで過ごすひと時が厄介だった。



「ルカ、食欲がないのか? 君の体格ならもっと肉を食べたほうがいいのでは?」

 焼いた山鳥の脚を食べ終えた時、焚火を挟んだ向かい側からクウガが声をかけてくる。

 口を出さずにはいられないオカン的性格、転生しても変わらねぇな、オイ。
 腹の中をムカムカさせながら、オレは余所者用の対応を貫く。

「ご安心を。我々エルフの体は人間とは違うので、これぐらいの量で十分なのです」

 山鳥の脚は、鶏の手羽元くらいの大きさ。確かに人間の成人男性なら少ない量だ。
 でもエルフの体のせいなのか、山鳥が栄養豊富なのか、食べると腹がすぐ満たされる。無理して食べると筋肉が付き過ぎて、ガチムチなゴリマッチョなエルフになってしまう。

 ガチムチ。興味はあるんだけどな。
 でもエルフの俊敏さが活かせなくなるんだよなあ……と考えていると、オレの隣で二足目を食べ始めたアグードが口を開いた。

「えっ? 一個だと足りないと思うけど」

「アグードはオレよりも体が大きいからな。でも気をつけろよ。エルフの体はあんまり肉食に向いていないみたいだから、食べ過ぎると腹を壊すぞ。本当ならチーズとか豆のほうが体に合うからな」

「そうか。ルカ兄と一緒に食べると、いつも俺に多く分けてくれたのはそのためだったのか……」

 なぜ肩を落としているんだアグード?
 内心首を傾げながら、バシッとアグードの背中を叩いてやる。

「可愛い弟分のために決まってるだろ。他のヤツが相手なら、一緒に食わずに他の獣に分けてるから」

「ルカ兄……」

 今度は感激しているのか、アグードは目を潤ませながらオレを熱く見てくる。なんというか感情が忙しいヤツだ。

 慣れたやり取りをしていると、クウガから小さく笑う音がした。

「フッ……それが君の素なのだな、ルカ」

 指摘されて思わず大きくハッとなってしまう。

 やめろ、そんな『ヤンチャな子ほど可愛い』的な余裕と慈愛に溢れたオカン的な目でオレを見るんじゃない!

 一気に顔が熱くなってしまい、オレは動揺でクウガに言い返しそうになる。

 その時――ビクンッ。クウガの体が大きく跳ねた。
しおりを挟む

処理中です...