俺はVR中華風戦闘SLGで、体を褒美に覇者を目指す

天岸 あおい

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一話 『至高英雄』に強さを求め

華候焔との出会い1

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   ◇ ◇ ◇

 城外に飛び出すと、上空から落ちてきた時に見た町が視界へ広がる。

 乾いた黄土色の土が剥き出しの大通りに連なっているのは、ひと蹴りすればたちまち崩壊してしまいそうな貧しい家々。こじんまりとして地味な居城によく馴染んでいた。

「誠人サマ、酒場はこのまま真っ直ぐ進めばありますよー。まだ未開発なので探すのはラクで良かったですねー」

 俺の肩に乗った白澤がわざと抑揚をつけ、おどけた調子で教えてくれる。
 物は良いようだな、と思いながら俺は走り出す。地を蹴る度に土煙が舞い上がり、咳き込みそうになって思わず手で鼻と口元を覆う。

 こんなことまでVRで再現されるなんて……すごい世界だと心底感心してしまう。
 それだけに騙されてしまったという事実が残念でならない。

 ゲーム内で実戦を積めば、確かに現実の試合でも活かせそうだというのに。

 どうにか一戦を乗り越えて、自由なままで現実に戻ろう。
 そして坪田に借りたVR機器を返して、なぜ俺を騙すような真似をしたか問いただそう。

 頭の中でこの世界から抜け出た後のことを考えていると、右手からカチャカチャと食器同士がかち合う音が聞こえてくる。

 立ち止まって顔を向ければ、木の屋根があるだけの壁のない店があった。
 子供の頃に両親が借りてきた中華映画のDVDで見たような簡易的な造りの店だ。

 屋根の下には長机が二つ並び、どこからでも気軽に客が立ち寄り、酒を楽しめるようになっている。

 貧相な城下町に合わせたような店。
 その中で昼間だというのに飲んでいる客がいた。

 後ろ姿しか分からないが、その出で立ちは明らかに異質だった。

 通りを歩く地味な衣服をまとった領民たちとは違う、華やかで光沢のある紫の衣服。
 厚めの生地越しでも分かる、鍛え抜かれたであろう屈強な背中。
 頭の後ろで括っていても、毛先が腰のほうまで届きそうなほど長い暗紅の髪。

 男の背を凝視していると、白澤が「おやー」と声を上げた。

「よく分かりましたねー。彼が華候焔ですよー。どうします? 本当に登用されるんですかー?」

「……背に腹は代えられない。彼の力がなければ負け戦になるのは目に見えている」

 一歩踏み出した俺に、白澤が全身を横に振って訴えてくる。

「でも裏切り常習犯ですよー? ワタシはおすすめしませんよー。あと、ここだけの話ですが、色事も裏切り尽くめで大陸全土に浮名を轟かせるような男なんですよー。いやあ、信用ゼロの高給取り――」

「コラ、そこの毛玉。聞こえてんだよ。そういう話は城の中でやれ」

 気だるげな低い声が俺たちに飛んでくる。
 そしてゆっくりと酒場の男が――華候焔が座ったまま振り向く。

 大きく開いた前襟からは盛り上がった胸筋が覗き、そこから漂う強者の圧に俺は思わず息を呑む。

 気圧されたことが伝わったのか、華候焔がフッと不敵に笑う。
 彫りが深く整った顔立ちだった。舞台を中華に選んだはずなのに、顔だけは西洋の色が混じっている。

 酒で薄く赤らんだ頬。鋭いはずなのに溶けて妖しさを宿した目。からかうように端を引き上げた唇。
 視線は合っているのに華候焔は何も言わなかった。小さな杯を指で摘まみ、わずかに揺らしながら俺の言葉を待っているように見えた。
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