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六話 将の育成は体を張って

引っかかりは覚えども

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 本来なら領主自らが執政を行うべきなのかもしれないが、早く周辺の領主たちと肩を並べるようになるためには、得意な者に任せたほうがいい。

 ひと癖ある人物だが、才明をこちらの陣営に引き込むことができて良かったと思っていると、

「じゃあ昼の時間は俺が誠人様に色々と教えてやろう。やかましい毛玉が離れてくれるなら、手合わせに集中できるな」

 華候焔が艶のある視線を俺に送りながら進言してくる。
 意味ありげな目だ。多分言葉通りに色々と教える気なのだろう……朝のやつで足りなかったのか?

 含みのある気配を見過ごす白澤ではなかった。

「そんなこと言って、また誠人サマを手籠めにする気ですねー! 誠人サマのされることを邪魔しないで下さいー!」

「おいおい、いくら俺でもそこまで節操なしにはせんぞ。必要なことを誠人様に教える……まあ少しは摘まみ食いするが」

「これでも神獣ですからー。離れていても誠人サマに手を出したら分かっちゃいますからー。すぐに駆け付けてアナタの耳元で説教しまくってやるんですからー! 神獣ナメないで下さいー!」

 ……見てなくても分かるのか白澤。つまり今までのことも全部……いや、考えないようにしよう。

 さらりと聞き捨てならないことを知ってしまい俺が頭を押さえていると、華候焔があからさまに顔をしかめた。

「げっ、筒抜けなのかよ。そういうことなら控えるとするか。まあ冗談はさて置いて、誠人には強くなってもらったほうがいい。少しでも強いほうが将に侮られなくなるしな。今日は俺が手合わせして鍛え上げていく」

 華候焔と手合わせ。聞いた瞬間に胸の奥が高揚し、口端が引き上がりそうになる。

 願ってもないことだ。だが……。

「華候焔、それは少し待ってもらってもいいか? 先にやりたいことがあるんだ」

「やりたいこと?」

「顔鐡と手合わせをしたい。前に約束していたんだ」

「そういえばアイツ、誠人様からの褒美を酒にしたんだったな。ただの力押しな将だと思っていたんだが、案外と細かい気配りのできるヤツで何よりだ。分かった。そっちを優先してくれ。俺は集まった連中の品定めをしておく」

 いつもの軽い調子で言いながら、華候焔は手をヒラヒラとさせながら部屋を出ていく。

 俺に欲情していない時の華候焔は心から頼もしく思う。
 離れていく背中を目で見送っていると、才明がポツリと呟いた。

「ふむ……少し調和を取ったほうが良さそうか」

「才明?」

「いえ、なんでもありません。独り言です」

 首を傾げる俺に才明は小さく頭を振り、「白澤殿、役割を決めませんか?」と白澤に話を切り出す。

 大切な話を始めてしまった二人の邪魔をする訳にもいかず、俺は小さな引っかかりをそのままに部屋を出た。
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