俺はVR中華風戦闘SLGで、体を褒美に覇者を目指す

天岸 あおい

文字の大きさ
291 / 345
十三話 裏切りの常習犯

どちらも選べない

しおりを挟む
 少しでも気を抜けば、その場に崩れ落ちて立てなくなる。

 侶普も表涼も、自分の意思を持って動いている。己が惹かれた相手に手を伸ばし、彼らなりに歩もうとしている。

 英正だってそうだ。
 役に立ちたいと背伸びをしながら成長し、俺が欲しいと手を伸ばしてくれた。

 直接この身体は『至高英雄』の世界に出入りしている。
 だから俺は英正の想いも、身体も、どれだけ熱いか知っている――。

「……っ」

 思わず息を引き、口元に手を当てる。嗚咽を漏らしてしまいそうで、必死に手の平を密着させ、嘆きの衝動を抑え込む。

 今まで俺があの世界で積み重ねてきたものが枷となり、俺を捕らえていくのを感じる。

 ただの作られた世界だと割り切るには、俺は知りすぎてしまった。

 手が小刻みに振るえてしまう。
 今の東郷さんには動揺を悟られたくないのに、掴まれた手が赤裸々に教えたがる。

 俺を見上げる東郷さんの顔には、落胆の色はなかった。
 どこかホッとした、ようやく重荷を降ろせる間際のような微笑を浮かべる。

「俺も、君も、弱いんだ。あの人のように命を切り捨てられない」

 ギュッ、と。東郷さんが俺の手を強く握ってきた。

「奴隷となる敗者を見捨てられないなら、君の領土に匿えばいい。強欲な他の領主が何か仕掛けてくるかもしれないが、俺が必ず守ってみせる。だから……ここで覇者を諦めてくれ」

 しばらく互いに見つめ合う。
 頭の理解は追いつかないが、東郷さんの手の温もりが想いを深く届けてくる。

 ――スッ。東郷さんの親指が、俺の手を柔らかに撫でる。
 途端に俺の肌にか弱くも甘い痺れが広がって、理性を揺らがされてしまう。

 最初から東郷さんは、思ったように俺を動かしたかったんだ。

 本命の目的を目指しながらも、それが敵わぬと分かって道を変えても良いように、用意した道を俺に歩かせて身も心も逆らえないようにしたのか。

 何も言えない俺を、東郷さんが握った手を引き寄せて抱き締めてきた。

「……誠人。弱い俺を許してくれとは言わない。ただ、どうかあの世界を受け入れて欲しい」

 切実な声。たくましく強い抱擁なのに、俺に縋りついて助けを請うているように感じてくる。

 ずっと耐え続けて、ようやく俺だけに見せてくれた東郷さんの真実。
 それは未熟な俺にはあまりに大きくて、重すぎて、返事どころか抱き締め返すことすらできなかった。

 ふと、横目でベッドの上の和毅くんを見やる。

 あっちの世界で感じた芯の強さは何も感じられない。
 だからこそ和毅くんの――澗宇の考えが見えてくる。

 兄を自由にするためなら、あの世界ごと消えてしまって構わない。

 どちらかの望みを選べと言われても、今の俺には考えることすら無理だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...