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三章 ありがたい?再会
逃げずに向き合った結果
心地よくも汗ばむ熱さを体が覚えながら、ガイは緩やかに眠りの淵から目覚めていく。
一人寝では味わえない起床に、ここしばらくの出来事が夢だったのかと思いそうになる。
人里離れたあの家で毎日あった自分以外の温もり。
母国で多くの者に嫌われていたと感じていた頃には、想像すらしなかった非なる日常だった。それがいつの間にか当たり前となり、こうして再び感じられて、戻ってきたと考えたくなるほどに日常になっていたことをガイは思い知る。
完全に意識はあったが、まだまぶたを開ける気にはなれなかった。
今少しだけ取り戻したい日常を愛おしむように、人肌の温もりの中で揺蕩う。
もぞり、とエリクが目覚めた気配がして、ガイは名残り惜しげに目を開いた。
「……おはよう、エリク」
エリクの目は既に開いていた。ガイを凝視し、固まっている様子から、現状に驚きを隠せないことがありありと伝わってくる。
これが元のエリクであれば、視線が合う前からとろけるような笑みを浮かべ、好意と幸せをこれでもかと溢れさせている。そうではない現実にガイの胸は深く痛んでいく。
だが逃げないと決めた以上、誤魔化すことはできない。
ガイは少しでも重い空気にならぬよう、口端を柔らかく引き上げた。
「驚かせて悪かったが、聞いてくれ。俺たちは――」
「……ええ、わかっています。何もかも……」
凝視を続けながら、エリクがぼそりと呟く。
昨日、自分たちの関係をラヒュから聞いたのだろうとガイは察する。
話を聞いた直後は実感がなかったのだろうが、こうして同衾して朝を迎えることになり、信じられないと愕然となっているのだろう。
ガイはわずかに睫毛を伏せ、エリクから視線を外す。
「そうか。なら話は早い……昨日のクラーケン討伐で暴走しかけていたと思うが、今までも夜にそうなることが度々あった。それを鎮めるためには気が済むまで俺を抱かせる必要があったんだ。前々から俺たちは体を許す間柄で、その、エリクの記憶がなくても体は忘れていないようで……」
言いながら、寝起きにこんなことを言われて気分はよくないだろうと、ガイの気が重たくなっていく。普通なら嫌悪を抱かれてもおかしくない。
だが、今のエリクから逃げずに向き合おうと腹を括った以上は、どんな反応をされても受け止めなければと、ガイはもう一度エリクを真っ直ぐに見つめる。
再び視界に入ってきたエリクの目は、やけに潤み、申し訳無さそうに細まっていた。
「なんとなく、そうじゃないかと思っていました……どうしてもガイがただの元上官とは思えなくて……夢で何度もその身を貪って、その度に罪悪感だけでなく至福を覚えて……誰の目にも触れさせたくないとも思ってしまって……つまり記憶を失う前から、私はガイを強く求めていたんですね」
エリクの口から自分への情欲を明言され、ガイの顔に熱が集まっていく。
まさか今のエリクに懸想されていたとは思わず、気恥ずかしさで誤魔化したくなる。どうにか堪えながらガイが頷くと、エリクは泣きそうに顔を歪め、ガイを抱き締めてきた。
「本当に申し訳ありません……ずっとガイの優しさにつけ入り、その尊い御身を犠牲にさせてしまうなんて」
嫌悪でも喜びでもない、苦しげに絞り出されたようなエリクの声に、思わずガイは首を傾げる。
「ん……? エリク、何か勘違いしていないか? 俺たちは神前で誓いあった夫婦で家族だ。別に俺は犠牲になっているつもりはないぞ」
「それはガイが私を気遣うあまりに拒めず、受け入れてくれたから……こんな鼻血体質で、すべての人間を敵視して、ガイへの懸想を止められない欲情まみれの未熟な若造を伴侶に選ぶだなんて、人生を犠牲にしているとしか思えません!」
感情を昂らせるエリクに、ガイは慌てて首を横に振り、背中を叩いて訴える。
「落ち着いてくれ、エリク。俺はちゃんとエリクに惹かれて伴侶になったんだ。変な自虐をするんじゃない」
「しかし、家中にチリ紙を用意する必要があるほど、ガイに興奮して鼻血を出していたんですよね? 通行人にすら嫉妬して、ガイが誰かに頼るのも許せないなんて、どうかしているとしか言えません!」
「ま、まあ、それがエリクだからな。だが俺を考えてのことだ。別に――」
「やっぱりそうなんですね。ああ、やはり元の私は卑劣で危険だ……ガイを自分だけのものにしようと、手段を選ばずに手籠めにして、あんな人里離れた所にガイを閉じ込めて……っ」
ああ、エリクの奇行がおかしなほうに出てしまった。
なだめようとしても興奮が収まらないエリクに、ガイは遠い目になるしかなかった。
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