薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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二章 駆け引き

誠意

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「……っ。あまり、敏感な所を不用意に触られると、困りますね……」

「困る? 何がだ?」

 一旦首筋から口を離し、俺はミカルの耳元で囁く。

「もっと快楽を得たくなるというなら、相手をしてやろうか?」

「カナ、イ……?」

「ずっと部屋に閉じ込められて退屈なんでな。体を動かすこともままならぬ……俺は刺激が欲しい。お前はより深い快楽を手にできる。悪い話ではないだろ?」

 不本意な誘惑を口にしながら、俺は心の中で舌打ちをする。
 この俺が娼婦の真似事をするなど……っ。むしろ今すぐ目の前の男を突き飛ばし、俺に少しでも欲情を抱いた痕跡があれば切り捨ててやりたいほどだ。

 そんな不快感とは裏腹に、俺はミカルを煽るために首筋へ軽く口づけ、優しく噛みついて甘く舐ってやる。

 性的なことを意識するほどに快楽は増し、理性は瞬く間に焼き切れる。そうなれば本能を剥き出しにして、獣のごとく俺を犯すだろう。

 間もなくぶつけられるであろうミカルの肉欲に、俺は目を閉じて覚悟を決める。

 ――ポン。ミカルが俺の両肩に手を置き、首を短く横へ振る気配がした。

「そういう、自分を傷つけるやり方は……頂けませんね」

 俺の肩へミカルの指が食い込み、小刻みに震える。沸き上がる衝動を堪えているのが伝わってくる。

「私を快楽の虜にして、逃げる隙を生み出したい、というところですか? 残念ですが……私は貴方を逃がしません。何があろうと絶対に」

 ……なんて執念だ。激しい本能の衝動すら耐え切り、理性の手綱を手放さないとは。

 厄介な男なのは分かっていたが、ここまで手強く、出し抜くことがままならぬ男だとは思わなかった。

 クウェルク様と脱出の糸口を探る俺にとっては、この強さは非常に不都合だ。
 しかし心の片隅で、その鉄の理性に情けなくも安堵してしまう自分がいた。

 一度作戦を見直したほうがいい。そう思いながら食事を切り上げようとした矢先、

「カナイ……私は、貴方に傷ついて欲しくありません。この手で傷つけることも、したくないです」

 顔を上げようとした俺の頭を押さえ、ミカルが俺を深く抱き込む。

「体で縛ろうと思えば、私にも手はあります。そんな術も、薬も、方法はいくらだってあります。しかし、それでは意味がないんです。私が望んでいるのは、貴方という人を理解すること……心が知りたいのです」

「俺の心など知ってどうする?」

「……人と魔の者が折り合える未来を探りたいんです……私は……」
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