薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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二章 駆け引き

ミカルの過去2

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 穏やかさはそのままだが、ミカルの目から笑みが消えている。
 その理由を俺はすぐに察した。

「ひと昔前は魔の者を狩るために、退魔師どもが手段を選ばなかった時期があったな。人外を駆逐するという大義を振りかざし、村や町を壊し、熾烈な戦いで人を巻き込むことを厭わなかった」

「ええ、その通りです。

 私の村へ逃げ込んできた魔の者が特別強いからと、退魔師たちは手段を選ばずに暴れてくれました。魔の者は光に弱いからと火を使い、その火が家へ燃え移り――。

 あまりに突然のことで逃げ遅れた家族は、燃えて倒壊した建物の下敷きになりました。
 酷い話です。私は命こそ助かりましたが、それ以外のものを失ってしまった……そして孤児となった私には、生きる術が何もなかった。誰かを頼るしか生きる道はありませんでした」

 ゴク、とミカルが紅茶を口にする。
 わずかにうつむきカップを見つめる横顔は、それでも笑みが残っていた。苦笑という侮蔑の笑みだ。

「カナイ……私はこの件で魔の者は恨んでいないのですよ。憎むべきは、理由があれば何をしても許されるという退魔師たちの姿勢。

 だから私は孤児院には入らず、退魔師たちの在り方を変えるために協会へ行き、退魔師になりました。悔しくてたまりませんでしたが、おかげで生き伸びることはできましたし、退魔師の現状を憂う方々にも出会えました。

 そうして必死に協会を変えるために力を身に着け、人を巻き込まないよう手を尽くしながら魔の者と戦い続けて……気づけば魔の者を一番確実に倒す者になっていました」

「フン……俺たち魔の者は、お前が生き延びるための犠牲になっていたのか」

「そういうことになってしまいますね。目的のために必死で、そのために何かを犠牲にする――私も村を焼いた者たちと同じことを、貴方がたにしてしまった……申し訳ありません」

 退魔師になった以上、魔の者と戦うのは当然のこと。
 そして弱き者が強き者に奪われるのは自然の摂理。謝ることではない。

 ミカルの断罪に付き合う気はない。俺はその件では何も言わず、話を切り替える。

「今の話を聞く限り、お前は退魔師でありながら退魔師に恨みを持っている、ということになるな」

「その通りです。退魔師なんてなくなってしまえばいい、と本気で考えていますよ。だから私は魔の者を人に戻す術を探っているのです。狩る相手がいなくなれば、退魔師をやる意味はありませんから」

 この男は他の退魔師たちとは何か違うと思っていたが、そのズレが今の話で分かった。
 あり続けようとする者と、無くそうとする者。姿勢が違って当たり前だ。
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