薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

文字の大きさ
28 / 82
二章 駆け引き

翻弄される男2

しおりを挟む
 怒りからかビクトルの手が硬く拳を作り、小刻みに震えている。
 もう少し冷静な判断ができないようにしておこうかと一笑して煽ってやれば、一気にビクトルは俺に詰め寄り、胸ぐらを掴んで立たせてきた。

 本来はこういう関係なのだ俺たちは。
 ビクトルの反応が至極当たり前すぎて、密かに安堵してしまう。

 このまま殴ってしまえ。そのほうがミカルから与えられた感触を忘れられる。

 何も知らないくせに、俺を愛するなど……馬鹿にするな。
 ああ、くそっ。相手にしなければいいだけなのに、どうしてこうも腹立たしのか。

 顔を赤くしながらビクトルが大きく腕を引く。
 一発もらうだけで気持ち良くなりそうな拳が、俺を目がけて飛んでくる――。

「ビクトル、やめなさい。手出しできない捕虜に対して手を出すなど、人として恥を知りなさい」

 俺を殴ろうとしかけた間際、部屋へ駆け込んだであろうミカルがビクトルの腕を掴む。コイツには珍しく、息が乱れている。

 どうしてここにいると分かった? と言いたげに、ビクトルの目が点になる。その思いを汲んでミカルが答えた。

「先ほどククに食事を運んだのですが、その時に貴方が思い詰めた顔をして地下室を出たと教えてくれまして……急いだ甲斐がありました」

「なぜ止める?! 恥も何も、コイツらは人じゃない。魔の者だ! 倒すべき存在だ! どうせ始末するんだ。殴って何が悪い」

「人でなければ殴っていい? 理由になりませんよ。彼らは元は人。心もあれば各々に考えもあります。彼らの尊厳を踏みにじることは、私が許しません」

 ……本当は助けてもらったと喜ぶべきなのだろうが、むしろ俺は殴られたかったんだが。
 余計なことをしやがって、という悪態がどうしても俺の頭をかすめてしまう。

 昂った感情を発散できず、ビクトルが怒りをより濃くした顔でミカルを睨みつける。
 一目見れば誰もが縮み上がるだろう形相と怒気を目の当たりにしても、ミカルは毅然とした態度を貫く。

「貴方がここへ来て様子がおかしいというのは分かっています。その要因をカナイせいだと決めつけるのは短絡的ですね。一度ここを離れ、協会に戻って体を精査されてはどうですか?」

「そう言って俺をここから遠ざける気か? お前から絶対に目を離すな、という命を受けているんでな。思い通りにはならんぞ」

 ほう。つまりビクトルが監視しているのは、俺だけではないということか。

 ミカルの話と合わせて考えれば、それだけミカルは危険視されているということだ。
 力の強さ故に手駒として置いているが、いつ裏切るか分からない危険因子――内情がこういう形で分かって何よりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...