薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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二章 駆け引き

俺も翻弄される側

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 グッ、とミカルの指がビクトルの腕へ食い込む。
 かなり力が入っているというのに、強靭な筋肉に弾き返されない握力。物腰柔らかな外観からは想像がつかない。

 少し頭が冷えたのか、ビクトルは舌打ちしながら俺から手を離す。
 そして俺とミカルを交互に睨みつけてから鼻を鳴らした。

「フン、俺はお前たちから絶対に目を離さないからな。遅かれ早かれ協会はミカルを除名するだろう。そうなればカナイの始末も時間の問題……覚悟していろ」

 ビクトルが踵を返し、強く足を踏みしめながら部屋を出ていく。

 小さな息をつく俺にミカルが近づき、ぼそりと囁く。

「申し訳ありません。ビクトルはいつもこんな短慮な男ではないはずなのですが……彼に何かしたのですか?」

「さてな。お前はどう思う? 俺を疑うか?」

「疑いませんよ。そんなことを疑っても、意味はありませんから」

 手に取るように心が見えたビクトルから、まったく読めないミカルへと替わってしまった。厄介なほうが来てしまったとため息を吐き出す。

 俺の気持ちはよく分かると言いたげに、ミカルが苦笑する。

「もしかして、私は来ないほうが良かったのですか?」

「ビクトルのほうが分かりやすくて楽だからな。頭に血が上っているおかげで、思いがけず色々な話を溢してくれる」

「私もカナイが尋ねてくれるなら、喜んで教えますよ?」

「お前は分かりにくいから、真偽の区別がつきにくい。それに距離が近い。下心もある。接しにくくてたまらん」

 俺の本心を暴露してやると、ミカルは「困りましたね」と息をついた。

「貴方と分かり合いたいのに、それが裏目に出てしまうとは……やり方を変えて、もっと分かりやすくしましょうか」

 ミカルの手が俺の肩を掴む。そして唇が耳に触れるか触れないかの所で話し出す。

「私のことが少しでも分かるよう、体を重ねてみますか? 互いに体と命を預け合えば、今よりも私のことが分かるようになると思いますが」

 咄嗟に俺は耳を押え、ミカルへ振り向く。
 戯言を言うなと口を開きかけ、間近になったミカルと目が合い、思わず固まる。

 目が笑っていない。本気の言葉だ。

 手を離せと跳ねのけることも忘れて、俺はミカルを睨む。

「お前は俺をどうしたいんだ? 人が誘えば拒み、そのくせ抱きたい素振りを見せて……俺が喜んでお前に身を任せると思うか? 欲しいなら奪え。俺の心がお前になびくなどという奇跡は期待するな」

「……貴方から奪えるはずがないでしょう。私は遠回りでも話を重ねて、少しずつ私を知ってもらい、その奇跡が起きることを待つしかできない。時間がなくても、不可能だろうという予感しかなくても――」

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