薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

文字の大きさ
31 / 82
二章 駆け引き

理不尽の連鎖を止めたのは

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 森が赤い。
 夜空が燃えている。

 民家からは悲鳴が聞こえ、村の方々から俺を探す声がする。

 ひどい有り様だ。
 俺という魔の者を始末するために、火を放ち、森や村を焼いても構わないなど、あっていい訳がない。

 俺が奴らに殺されてやれば、被害を大きくすることだけは防げただろう。
 だが、それは俺の時だけだ。他の魔の者に対してすることは変わらない。被害はまずなくならない。魔の者が滅ばぬ限りは。

 こんな無情なことを平気でやれる者どもに、この身を差し出すなど無理だ。
 だから俺は逃げてきた。生き続けるだけ苦しむ者を増やすと分かっていたとしても――。

 奴らの非道には反吐が出る。
 しかし俺が無害かと言えば、それはまた話が違う。

 俺の糧は人間の血。人外へとこの身を変え、力を得た代償だ。
 特に逃亡して力を使い続けている時は、ひどい飢餓が俺を襲う。

 目の前に家を焼かれ、泣き喚くしかできない幼子を前にしても、胸を痛めるよりも先に飢えを満たしたい衝動に駆られてしまう。

 何度そんな場面に出くわしただろうか。
 その度に俺は手を出しかけ、堪え、可能な限り安全な場所へと批難させてきた。

 理不尽に奪われる苦しさは、嫌というほど味わってきた。
 だからこそ俺はそうしたくはなかった。俺を苦しめてきた奴らと同じことをしたくなかったから。

 いつだったか。
 呆然と見上げる子供の前で、俺は涙を流してしまったことがある。

 己の無力さと、歯痒さと、人が人へ与えた理不尽な出来事と、憐れな子を食事としてとどめを刺したがる本能が入り混じって、不本意ながら涙を見せた。

 あの時ほど魔の者であることを嘆いたことはない。

 元は人であったというのに、人を糧にし、人から追われなければいけない。
 心は人だった時のままで、人外の生き方をしなければならない。

 憐れなその子を助けてやりたいと思うのに、そんな人として当たり前のことすらできなくなるなんて――と。

 この葛藤が減ってきたのは、つい最近のこと。ほんの数年前。
 ミカルが力をつけ、協会での影響力を強めた頃と重なる。

 人に対しての理不尽がかなり薄まり、奴らに節度が生まれた。
 その分、分散されていた力は魔の者へ効率よく与えられ、俺たちは苦しめられた。

 正直、腹は立った。
 しかし同時に、心の奥底ではありがたいと感じていた。

 俺だけに力が向けられるなら、それで構わない。
 理不尽に苦しむ者が後を絶たないという連鎖が止まるなら、こっちも気が楽になる。

 我が身のことだけ考えればいいのだ。状況的には不利なはずだが、心は救われる。

 つまり俺は、ミカルに救われたということ――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...