薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

文字の大きさ
32 / 82
二章 駆け引き

寝過ごして

しおりを挟む
 
 
 
 胸に苦渋がたまったような不快感を覚え、俺は顔をしかめながら目を覚ます。

 部屋は暗いが、わずかに部屋の輪郭が見える。
 外が完全な夜に切り替わっていない証。宵の時間に目覚めてしまったことを知る。

「……チッ。寝過ごしてしまったか」

 本当はいつものように昼間目を覚まし、外の小動物を利用して情報を集めたかった。なのに昨日のやりとりで疲れ果ててしまい、活動しにくい時間に起きることが叶わなかった。

 ミカルが頭をよぎり、俺は奥歯を噛み締める。
 あの男の言動のせいだ……おかげで不快な夢まで見てしまった。

 人であった頃の心と魔の者。ずっと折り合いをつけることができなかった、非情になりきれずに苦しんできた昔の思い出。

 誰にも知られまいと、ずっと押し殺し、魔の者として振る舞ってきた。
 おそらく魔の者の同胞たちは誰も知らない。一番間近に居続けたヒューゴにも打ち明けたことはない。

 吸血鬼の王という肩書きを背負ったというのに、その中身がこんな迷いだらけの弱者では、同胞たちを無暗に不安がらせるだけだ。

 俺は強くあらねばならない。
 思い出してしまった昔のことを頭の奥底へと沈めていると、部屋の扉を軽く叩く音がした。

 ミカルが来た。今は顔を見るのも不快だ。少しでもその機会を遅らせたくて、俺は目を閉じて寝たフリを決め込む。

 ゆっくりと扉が開き、静かな足音が部屋へ入ってくる。

 カチャカチャという陶器がかち合う音に、テーブルへ置く音。まぶた越しに部屋が少し明るくなるのを感じ、部屋の燭台に明かりが灯されたことを知る。

 本来ならば召使いにやらせるような雑務を、ミカル自らが行っている。
 雇っている者たちが俺を怖がるからミカルがやっているというのは知っていたが、改めてその現場に立ち会ってしまうと落ち着かない。

 毎日手間がかかり面倒であろう雑務を、黙々とこなすミカル。心なしか小さく立てる音は軽やかで、この手間を喜んでいるようにも聞こえる。

 俺を愛しているから、世話を焼けることが嬉しいのだろう。
 ……こんなことが分かるようになりたかった訳じゃない。

 思わず眉間が引きつり、寝たフリが崩れそうになる。

 密かに奮闘している俺へミカルが近づく。
 ギリギリまで言葉を交わすことを避けたくて、声がかかるまで俺からは起きまいと心に決める。

 ギチ……。枕元にミカルが腰かけた気配。
 背を向けて寝たフリをする俺をしばらく見つめた後、ミカルはポツリと呟く。

「……カナイ、愛しています。貴方は頑固だから、そう簡単には心を開いてくれないでしょうが……どれだけ時間がかかってでも、貴方の心をもらいますから」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...