薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

気を引く手段

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 詳細は聞いていないが、クウェルク様はビクトルを意のままに操るべく、手を打っている最中だ。本人に記憶はないらしいが、着々とその体と精神をクウェルク様に奪われている。

 我らの王が自ら体を使い、人間を篭絡させるなど、本来ならば屈辱的なことだ。しかしクウェルク様はビクトルで楽しんでいる。これもまた有効な手段だとは思うが、正直俺の心中は複雑だ。

 俺を疑い続けているビクトルが、一体どうなってしまうのか。
 内心気にしていると、クウェルク様が『カナイよ』と改まった声で語りかけてきた。

『ビクトルを我が僕にするためには時間をかけねばならぬ。真の姿を晒しながら、あやつと一晩過ごさねば……そうなればミカルに気づかれる恐れがある。故に今日の夜、どんな手を使ってでもミカルの気を引いて欲しい』

『絶対、ですか?』

『ああ。手段を選ぶな。確実にミカルがお主から目を離さぬことをしろ』

 確実に――また頭の痛くなることと向き合わなければいけないのか。
 思わずため息をつきたくなるが、クウェルク様に気づかれてはならぬと押し殺す。

 返事は決まっている。どれだけ意に添わぬことでも頷くことが、下に付く者の定めだ。
 しかし前のように胸が重たくなる悲痛さはない。

 ここでの日々は俺に腹を括らせるには十分な時間を与えてくれた。
 俺は揺らがぬ心で己の意思を伝える。

『クウェルク様の仰せのままに……』

『頼んだぞ。この好機を逃せば次はないだろう。私はビクトルの手を借りれば逃げられるが、お主は……ミカルも協会も、二度とお主を逃がすまい。我らにとって大きな痛手となるのは間違いない。必ず逃亡を成功させるのだ』

 トカゲの頭を低く落とし、俺はクウェルク様へ可能な限り平伏する。
 この方がわざわざここまで乗り込み、自らが動いて好機を作り上げてくれたのだ。失敗は許されない。

 俺は心から首を下げながら、覚悟を決めた。



 連絡を終えてから俺は寝台へと体を横たえ、夜まで眠りにつこうと目を閉じる。

 いかにミカルから疑われず、一晩も気を引き続けることができるか――その方法を考えていく内に、あることを思いつく。

 俺が今できるかぎりの駆け引きと、気を引くための餌。
 少しあからさまかもしれない。だが、俺に飢えているアイツのことだ。喜んで食いついてくるだろう。

 窓を叩く雨音が少し強まる。
 夜も降り続ければいい。賑やかな音を立ててくれるほど、俺の落ち着かない鼓動を隠してくれるから――。

 
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