薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

賭け

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   ◇ ◇ ◇

「ミカルよ、暇つぶしに付き合え」

 夜に起床し、いつものように目覚めの紅茶を口にしながら俺は話を切り出す。
 俺から提案することは珍しい。ミカルは意外そうに目を見張ってから、にこりと微笑む。

「喜んでお相手しますが、何をしましょうか?」

「盤の遊戯がしたい。何か置いてないか?」

「そうですね……確か使用人がヘカランジを持ち込んで、部屋に置いていたような……」

「ならばそれでいい。何度か遊んだことはある」

 本当は一時期、ヒューゴを相手にやり込んでいた。少しでも馴染みが薄いふりをしてミカルの油断を作る――無駄な足掻きかもしれないが、できることはやっておく。

 俺の返事にミカルが笑みを濃くする。喜びが全身から漂い出した。

「カナイと楽しめるなんて嬉しいですね! では食事と入浴を終えたら準備しますから――」

「……入浴の前がいい」

「構いませんが、理由を教えて頂けますか?」

 純粋に疑問を覚えて尋ねるミカルに対し、俺は唇を湿らせてから答える。

「賭けがしたい。もし俺が勝ったなら、この手を封じる結界石を外せ。自分で体を洗わせろ」

「その提案は頷けませんね。実質、貴方の逃亡を許すことになってしまいますから――」

「もしも俺が負けたら、お前にすべてを委ねてやる。何をされても拒まず受け入れることを約束しよう」

 俺がミカルに見せることができる、最大の餌。
 時間をかけてでも俺を手に入れたいと望むコイツには、抗い難いものがあるはず。

 協会から本格的に目を付けられ、俺を私邸に拘束し続けるのは難しいことなど、ミカルはとっくに見越しているだろう。
 時折見せる焦りと昼間の情報収集で、その気配は以前から掴んでいた。加えてクウェルク様の話を聞いて確信へと変わった。

 ミカルは口にしないが、俺を口説ける時間は限られている。
 案の定、ミカルは口元に手を当てて考え込む。そのまま長考してくれるなら、俺としてはそれだけでもありがたい。

「入浴前がいいというのは、そういうことですか」

「察しが良くて助かる。で、どうなのだ? 賭けに乗るか?」

「……貴方が望まぬことを強要したくはありませんが……迷いはないようですね。覚悟を決めた上でのことでしたら受けて立ちましょう」

 短く頷いた後、ミカルはいつものように俺へ喉を差し出す。

「では、先に食事をどうぞ。空腹のままでは上手く頭が回らないでしょう。しっかりと吸われて下さい」

 賭けが成立した。もう後には引けない。
 緊張を覚えながらも目的が果たせそうな算段がついて、俺は密かに安堵する。
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