薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

真昼の乱入者

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   ◇ ◇ ◇

 深い眠りにつこうとも、人よりもよく聞こえる魔の者の耳は、外の騒々しさをしっかりと拾う。

「……なん、だ? 一体……」

 すぐに頭が醒めないものの、不穏な事態に体は動く。辺りは真昼の明るさ。魔の者にとっては一番力が出せない時間だ。

 俺は寝台から気だるい体を起こし――いつの間にか身は清められ、服も着替えられている――耳を澄ませてみる。

 外で男たちが言い争う声。
 何を言っているかは聞き取れないが、ミカルとビクトルの声はする。その中に知らぬ男たちの声も混じっている。

 もしかして協会から俺を捕らえようと、退魔師たちがやって来たのだろうか?
 立ち上がって窓のほうへと向かい、さらに耳へ意識を集中させると、彼らが言い合う内容の全貌が聞こえてきた。

『この件は私に預けて欲しいと言ったはずです! なぜなんの連絡もなしに、カナイを協会へ連れて行こうとするのですか?』

『ミカル・アルゲッティよ。協会は貴殿が魔の者と内通し、堕落の道を歩もうとしていると判断した! その証拠に、吸血鬼の王カナイを捕らえた以降、魔の者を追い詰めて殲滅するどころか、ほぼ屋敷に閉じこもって過ごしている……そのせいで魔の者たちが盛り返していることをご存知か?!』

『吸血鬼の王を捕らえ続けるためには、私がここに居ることが不可欠。長く離れれば彼の力を抑えることはできず、逃亡されてしまうでしょう。私が不在でも対処できるように準備はしましたよ? 上手くいかぬことをすべて私のせいにするとは、いささか自分勝手ですね』

『確かに貴殿は後のことまで準備し、術具まで揃えてくれた。だが、魔の者を率いる人狼がすべてを壊し、我らを追い詰めている。本当に貴殿が捕らえたのはカナイなのか? むしろあの人狼のほうが覇気は凄まじい。他の魔の者もよく従っている……あの人狼がカナイか、もしくは本当の王なのではないのか?』

 人狼……ヒューゴのことだろう。
 俺とクウェルク様がいない中、よく仕切ってくれているとは聞いていたが、そんな風に退魔師たちから見られているとは。

 きっと俺を取り戻そうと必死なのだろう。よく知ったアイツのことは、すぐ頭の中で想像がつく。
 会いたいな、と思った直後、喉の奥に苦いものを覚える。

 俺の身に何があったかを知れば、間違いなくヒューゴは苦しむだろう。
 ましてや俺と並んでミカルが逃げてきたとなれば、絶対に良い顔はしない。だが俺は――。

 胸が心苦しさに潰されそうになりながら、さらに注意深く外の言い合いを聞いていく。
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