薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

手紙での指示

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『黒髪の吸血鬼の強さをお忘れですか? 魔の者特有の身体能力に加え、異国の剣を自在に操り、我らを追い詰め続けた吸血鬼の王のことを……人狼は彼の僕。主人を取り戻そうと必死になっているだけです。まさか少し姿を見ないだけで、そんな勘違いをされるとは――』

『実際に今の人狼の姿を見ていないから、そんなことが言えるのだ! あれは僕に甘んじる輩ではない……間もなくここを攻めてくるだろう。真偽はともかく、黒髪の吸血鬼を取り戻したがっているのは間違いない。今の内に協会へ移動し、手出しできぬようにより強力な結界へ封じ込めるべきだ』

『ならば尚のこと、ここからだ出すことはできませんね。人数が多ければ有利とは限らないのですよ。貴方がたに足を引っ張られるより、私一人で応戦したほうが戦えます』

 自信に満ちた発言だが、確かにミカルが一人で戦ったほうが手強い。
 嘘は言っていない。それでも協会の連中は『しかし……』『でも……』と反論して食い下がる。傍から聞いていれば言いがかりにしか聞こえない。

 協会側がどうにかして俺をミカルから引き離し、隔離したいという本音が伝わってくる。
 今のままだと彼らが屋敷へ押し入ってくるのは時間の問題だ。このまま何もせずに捕まるのを待つ訳にはいかない。

 俺は窓から後ずさり、踵を返して部屋の中を見渡す。
 どこかに隠れる……は無理だな。せめて戦いの手段となるものを探そう。幸い脚は自由だ。姿を現わした瞬間に物を蹴り飛ばして、一発喰らわせてやろう。上手くいけば隙を突いて部屋から出られる。

 すぐに準備しようと動こうとした時、テーブルの上に白い手紙が置かれていることに気づく。封はなく、差出人も宛名も書かれていない。

 もしかしてミカルからの伝言か?
 俺はすぐさま手紙を手に取り、中身を確かめてみる。

 そこには案の定、俺への伝言が書かれていた。

《どうか日が落ちるまでは、何があっても動かないで下さい。その代わり、日没と同時に全力で逃げて下さい。手首を縛る結果石の鎖は、一か所色の違う石を砕けば外れます。それと貴方の剣は私が腰に挿してありますので、可能なら取りに来て、ともに逃げましょう――》

 文面から察するに、この状況になることをミカルは想定内だったらしい。
 今まで俺を抱くまいと堪えていたのに昨夜俺を抱いたのも、少しでもミカルのことを俺に知ってもらい、足並みを揃えるためという狙いもあったのかもしれない。

 やはりこの男は分かりにくいな、と思いながら読み進めていくと、

《――逃げ切った後、もっとゆっくり話をさせて下さい。カナイ、愛しています》

 ……いや、ある意味では分かりやすい。
 こんな事態でもすかさず愛を残していくミカルに、俺は顔をしかめながら息をつく。なんとも腰や胸奥がざわついて落ち着かない。

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