薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

理不尽を知る理解者

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 さすがにこの手紙を残してはいけないだろうと、俺は壁の燭台に目を向ける。案の定、昼間で明かりを灯す必要はないのに、そこには蝋燭の火が点いていた。

 足早に近づいて手紙を燃やし、火も吹き消しておく。
 あとは日没までは動くなという指示に従うだけ――ミカルと一線を越える前なら、疑心暗鬼になって素直に言うことを聞かなかっただろう。

 だが、今はミカルが俺を裏切らないという確信がある。

 初めて出会ったあの時、俺たちはさほど言葉は交わしていなかった。
 それでもあの短い時の中で、誰よりも互いを理解していた。

 理不尽に日常を奪われ、その道に進むしかなくなったことへの嘆きと憤り。

 人間と魔の者であっても分かり合える――あの時、俺は既に体感していた。
 二度と会うこともないだろうと思い、記憶の底へと沈めていたが、この日のことは何度も夢に見て思い返していたほど。

 昔の繋がりが分かってしまっただけで、こうも心が動いてしまうとは。

 案外と俺は自分が思っているよりも単純なのかもしれない。
 そう考えて、思わず俺は小さく吹き出す。脱出が果たせるかどうか分からない事態だというのに、心の中はどこか落ち着いていた。

 ミカルが味方であるならどうにか切り抜けられる。
 十三年も戦い続けてきた相手だ。その強さと有能さはよく分かっている。

 むしろ問題なのは同胞に味方だと知らせること。
 血を吸い上げ、俺の眷属にしてしまえば話は早いが……それだけは絶対に嫌だ。

 理不尽に日常を奪われてしまったアイツに、俺が理不尽に人をやめさせるなどしたくはない。

 どうしたものかと考えている内に、バンッ、と玄関扉を荒々しく開ける音と、騒がしく入ってくる靴の音が聞こえてきた。

 日が落ちるまでの時間稼ぎ。それと奴らに与える油断。
 強くは見せまい。しかし気高さを殺してはいけない。

 俺は部屋の扉から一番遠い壁へと向かい、背をつける。
 そして部屋へと駆けてくる疎らな足音を聞きながら、間もなく訪れるであろう屈辱の時に心を備えた。
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