薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

日没前に

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   ◇ ◇ ◇

「ほら、降りろ。さっさとしろ」

 後ろ手に縛られた状態で馬車から降りようとする俺の背を、若い退魔師が突き飛ばしてくる。
 前のめりになりながらも、俺は下半身に力を入れて無事に着地する。すぐに後ろを振り向いて抗議の視線をぶつけるが、押してきた退魔師は下卑た笑いを浮かべるばかりだ。

 なんとも無粋な扱いだが、捕らえた魔の者の扱いなどこれぐらいが普通だ。
 ミカルが明らかにおかしかった――今は特別な相手を大切にしたかった、という気持ちがよく分かる。だがミカルとの接点を知らなければ、未だに異常なことだと頭を悩ませていたことだろう。

 これが元々の扱いだと思えばなんてことはない。腹立たしくはあるが。
 俺はチッと舌打ちしてから顔を元に戻し、辺りを見渡す。

 場所は閑散とした町外れの宿屋の前。
 太陽がわずかに山へ隠れ始めた夕刻間際だ。魔の者が強くなる夜を迎える前に、襲撃の準備をするつもりなのだろう。

 後ろの馬車から「もたもたするな!」という怒鳴り声。
 目を向ければ髪を引っ張られ、馬車から引きずり降ろされるクク――魔の者の子に姿を変えているクウェルク様――の姿が目に入ってきた。

 俺に対してよりも扱いが荒っぽい。たかが子供と侮り、弱者の反撃を恐れない故の行動だ。

 ……これだから退魔師は好かない。
 自分たちに正義があると思い込み、気を大きくして捕らえた魔の者を嬉々としていたぶる。

 糧のために人の血を吸ったり、中には喰らう者もいたりするが、ただいたずらに傷つける行為よりも責められることなのかと理不尽に思えてならない。

 日が沈むまでの辛抱だ。
 そう自分に言い聞かせながら、俺は退魔師たちに連れられて寂れた宿へと入る。

 ――協会へ俺たちを連れていく退魔師たちの中に、ミカルとビクトルの姿はない。
 激しい口論の後、屋敷の中へ強硬して入ってきた退魔師たちは、その場で二人を協会から除名し、縄で縛って捕らえてしまった。

 そして退魔師たちは数人の見張りを屋敷へ残し、俺とククを馬車に乗せて協会へと連行する道を選んだ。

 前もって準備をしていたのだろう。宿の中は強力な結界が張られ、足を踏み入れた瞬間に肌がビリビリと痺れ、なんとも不快だ。

 隣に並んだククへ、俺は心配の色を乗せた顔を向ける。

「大丈夫かクク……頬が赤いな。殴られたか?」

「はい、少し。でも大丈夫です。他は何もされていません」

 
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