55 / 82
三章 バラの香に囚われて
日没前に
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
「ほら、降りろ。さっさとしろ」
後ろ手に縛られた状態で馬車から降りようとする俺の背を、若い退魔師が突き飛ばしてくる。
前のめりになりながらも、俺は下半身に力を入れて無事に着地する。すぐに後ろを振り向いて抗議の視線をぶつけるが、押してきた退魔師は下卑た笑いを浮かべるばかりだ。
なんとも無粋な扱いだが、捕らえた魔の者の扱いなどこれぐらいが普通だ。
ミカルが明らかにおかしかった――今は特別な相手を大切にしたかった、という気持ちがよく分かる。だがミカルとの接点を知らなければ、未だに異常なことだと頭を悩ませていたことだろう。
これが元々の扱いだと思えばなんてことはない。腹立たしくはあるが。
俺はチッと舌打ちしてから顔を元に戻し、辺りを見渡す。
場所は閑散とした町外れの宿屋の前。
太陽がわずかに山へ隠れ始めた夕刻間際だ。魔の者が強くなる夜を迎える前に、襲撃の準備をするつもりなのだろう。
後ろの馬車から「もたもたするな!」という怒鳴り声。
目を向ければ髪を引っ張られ、馬車から引きずり降ろされるクク――魔の者の子に姿を変えているクウェルク様――の姿が目に入ってきた。
俺に対してよりも扱いが荒っぽい。たかが子供と侮り、弱者の反撃を恐れない故の行動だ。
……これだから退魔師は好かない。
自分たちに正義があると思い込み、気を大きくして捕らえた魔の者を嬉々としていたぶる。
糧のために人の血を吸ったり、中には喰らう者もいたりするが、ただいたずらに傷つける行為よりも責められることなのかと理不尽に思えてならない。
日が沈むまでの辛抱だ。
そう自分に言い聞かせながら、俺は退魔師たちに連れられて寂れた宿へと入る。
――協会へ俺たちを連れていく退魔師たちの中に、ミカルとビクトルの姿はない。
激しい口論の後、屋敷の中へ強硬して入ってきた退魔師たちは、その場で二人を協会から除名し、縄で縛って捕らえてしまった。
そして退魔師たちは数人の見張りを屋敷へ残し、俺とククを馬車に乗せて協会へと連行する道を選んだ。
前もって準備をしていたのだろう。宿の中は強力な結界が張られ、足を踏み入れた瞬間に肌がビリビリと痺れ、なんとも不快だ。
隣に並んだククへ、俺は心配の色を乗せた顔を向ける。
「大丈夫かクク……頬が赤いな。殴られたか?」
「はい、少し。でも大丈夫です。他は何もされていません」
「ほら、降りろ。さっさとしろ」
後ろ手に縛られた状態で馬車から降りようとする俺の背を、若い退魔師が突き飛ばしてくる。
前のめりになりながらも、俺は下半身に力を入れて無事に着地する。すぐに後ろを振り向いて抗議の視線をぶつけるが、押してきた退魔師は下卑た笑いを浮かべるばかりだ。
なんとも無粋な扱いだが、捕らえた魔の者の扱いなどこれぐらいが普通だ。
ミカルが明らかにおかしかった――今は特別な相手を大切にしたかった、という気持ちがよく分かる。だがミカルとの接点を知らなければ、未だに異常なことだと頭を悩ませていたことだろう。
これが元々の扱いだと思えばなんてことはない。腹立たしくはあるが。
俺はチッと舌打ちしてから顔を元に戻し、辺りを見渡す。
場所は閑散とした町外れの宿屋の前。
太陽がわずかに山へ隠れ始めた夕刻間際だ。魔の者が強くなる夜を迎える前に、襲撃の準備をするつもりなのだろう。
後ろの馬車から「もたもたするな!」という怒鳴り声。
目を向ければ髪を引っ張られ、馬車から引きずり降ろされるクク――魔の者の子に姿を変えているクウェルク様――の姿が目に入ってきた。
俺に対してよりも扱いが荒っぽい。たかが子供と侮り、弱者の反撃を恐れない故の行動だ。
……これだから退魔師は好かない。
自分たちに正義があると思い込み、気を大きくして捕らえた魔の者を嬉々としていたぶる。
糧のために人の血を吸ったり、中には喰らう者もいたりするが、ただいたずらに傷つける行為よりも責められることなのかと理不尽に思えてならない。
日が沈むまでの辛抱だ。
そう自分に言い聞かせながら、俺は退魔師たちに連れられて寂れた宿へと入る。
――協会へ俺たちを連れていく退魔師たちの中に、ミカルとビクトルの姿はない。
激しい口論の後、屋敷の中へ強硬して入ってきた退魔師たちは、その場で二人を協会から除名し、縄で縛って捕らえてしまった。
そして退魔師たちは数人の見張りを屋敷へ残し、俺とククを馬車に乗せて協会へと連行する道を選んだ。
前もって準備をしていたのだろう。宿の中は強力な結界が張られ、足を踏み入れた瞬間に肌がビリビリと痺れ、なんとも不快だ。
隣に並んだククへ、俺は心配の色を乗せた顔を向ける。
「大丈夫かクク……頬が赤いな。殴られたか?」
「はい、少し。でも大丈夫です。他は何もされていません」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜
中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」
仕事終わりの静かな執務室。
差し入れの食事と、ポーションの瓶。
信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、
ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる