65 / 82
四章 そして彼は愛を知る
雨の気配
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
俺はミカルの手を引きながら、夜を駆ける。
いつもならば、夜になれば狼よりも早く俺は走ることができる。
だが薬でおかしくされたせいで、力がうまく入れられず、風のようにはなれない。
さっきはミカルを助けるために、わずかな力を振り絞って剣を振るい、退魔師どもの間を駆け抜けた。もう同じことはしばらくできない。
早く元に戻ってくれと思いながら、それでも人であるミカルと同じ速さで走れるのは少し嬉しいとも感じる。
人と魔の者。種族が違っても並ぶことができるのだと思えるから。
新たな追手を撒くために森の中を突っ切り、私たちは大きな街道が通る開けた場所へと出た。
ゴロロ……と遠雷が聞こえる。
空を見渡せば、いつの間にか月は厚い雲に覆われ、間もなく雨が降る気配を漂わせていた。
雨の中の逃避か。走りにくい上に惨めでたまらなくなるな。
小さく苦笑してから私は街道を横切り、再び生い茂った森へ飛び込もうとする。
しかしグッとミカルに手を引っ張られ、移動の主導権を奪われた。
「確かこの先には町があります。そこで雨宿りも兼ねて、しばらく身を隠して体を休めましょう」
「しかし、追手が……」
「空の気配をうかがう限り、どうもひどい降りになりそうかと。雨が降れば追手も思うように動けなくなりますから、効率悪く逃げるよりも回復を選びましょう」
そう言って俺の答えを聞く間もなく、今度はミカルが俺の手を引いて街道を道なりに走っていく。
ポツ、ポツ、と小粒の雨が顔に当たる――そして瞬く間にその粒を膨らませ、夜の闇でより暗さを宿した雨雲から、一斉に大粒の雫が大地へ飛び降り、何もかもを叩きつけてきた。
あっという間に俺たちは濡れ、水気を吸った服が重さを増す。
ただでさえ未だに薬のせいで力が入らないというのに。確かにこの状況の中で逃げ続けても距離は稼げない。そして雨が上がり、夜が終わって日が昇れば、ひどく疲弊した状態で追手と戦えば勝算もなくなりそうだ。
雨の中を走りながらミカルの判断に納得していくと、行く先にぼんやりとした明かりが見える。
町についた。思わず俺が安堵の息をつくと、ミカルが一旦立ち止まりこちらを振り向く。
「ここにも私の隠れ家がありますので、そこへ向かいます。あと少し我慢して下さい」
協会が前々からミカルの排除へ動いていたように、ミカルも逃亡の用意を進めていたのか。
退魔師の一番の敵が退魔師とは、やはり人の世界は歪で理不尽だ。
魔の者の天敵でありながら、俺に心を預けてしまったミカルの気持ちがまた少し見えた気がして、俺は繋いだままの手に力を込める。
そうして頷いてやれば、ミカルはこんな状況の中でも晴れやかに笑った。
俺はミカルの手を引きながら、夜を駆ける。
いつもならば、夜になれば狼よりも早く俺は走ることができる。
だが薬でおかしくされたせいで、力がうまく入れられず、風のようにはなれない。
さっきはミカルを助けるために、わずかな力を振り絞って剣を振るい、退魔師どもの間を駆け抜けた。もう同じことはしばらくできない。
早く元に戻ってくれと思いながら、それでも人であるミカルと同じ速さで走れるのは少し嬉しいとも感じる。
人と魔の者。種族が違っても並ぶことができるのだと思えるから。
新たな追手を撒くために森の中を突っ切り、私たちは大きな街道が通る開けた場所へと出た。
ゴロロ……と遠雷が聞こえる。
空を見渡せば、いつの間にか月は厚い雲に覆われ、間もなく雨が降る気配を漂わせていた。
雨の中の逃避か。走りにくい上に惨めでたまらなくなるな。
小さく苦笑してから私は街道を横切り、再び生い茂った森へ飛び込もうとする。
しかしグッとミカルに手を引っ張られ、移動の主導権を奪われた。
「確かこの先には町があります。そこで雨宿りも兼ねて、しばらく身を隠して体を休めましょう」
「しかし、追手が……」
「空の気配をうかがう限り、どうもひどい降りになりそうかと。雨が降れば追手も思うように動けなくなりますから、効率悪く逃げるよりも回復を選びましょう」
そう言って俺の答えを聞く間もなく、今度はミカルが俺の手を引いて街道を道なりに走っていく。
ポツ、ポツ、と小粒の雨が顔に当たる――そして瞬く間にその粒を膨らませ、夜の闇でより暗さを宿した雨雲から、一斉に大粒の雫が大地へ飛び降り、何もかもを叩きつけてきた。
あっという間に俺たちは濡れ、水気を吸った服が重さを増す。
ただでさえ未だに薬のせいで力が入らないというのに。確かにこの状況の中で逃げ続けても距離は稼げない。そして雨が上がり、夜が終わって日が昇れば、ひどく疲弊した状態で追手と戦えば勝算もなくなりそうだ。
雨の中を走りながらミカルの判断に納得していくと、行く先にぼんやりとした明かりが見える。
町についた。思わず俺が安堵の息をつくと、ミカルが一旦立ち止まりこちらを振り向く。
「ここにも私の隠れ家がありますので、そこへ向かいます。あと少し我慢して下さい」
協会が前々からミカルの排除へ動いていたように、ミカルも逃亡の用意を進めていたのか。
退魔師の一番の敵が退魔師とは、やはり人の世界は歪で理不尽だ。
魔の者の天敵でありながら、俺に心を預けてしまったミカルの気持ちがまた少し見えた気がして、俺は繋いだままの手に力を込める。
そうして頷いてやれば、ミカルはこんな状況の中でも晴れやかに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜
中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」
仕事終わりの静かな執務室。
差し入れの食事と、ポーションの瓶。
信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、
ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる