薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

文字の大きさ
76 / 82
四章 そして彼は愛を知る

ミカルの隠れ家

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 谷から再び森の中へと入り、俺たちは黙々と歩き続ける。

 次第に夜霧が出始め、前へ進めば進むほど魔の者の目でも辺りが分からなくなるほどの濃霧へと変わっていく。

 それでもミカルは俺の手を引き、この道で間違いないと確信しているような力強い足取りで前へ進んだ。

 どれだけ歩いたか分からない。
 距離も、時間も、何もかもが狂っていく――その最中、目の前に洞窟が現れた。

 ふぅ、とミカルが息をつき、口角を上げた。

「ようやくここまで辿り着きました……あともう少しです」

 まるで、もう襲われる心配はないと完全に気を緩めた顔。
 随分と不用心だと思ったが、ミカルの顔があまりに嬉しげで、俺の緊張の糸も緩んでしまう。

 洞窟の中へと足を踏み入れていくと、思ったよりも歩きやすい一本道だった。
 迷う心配はなさそうだが、ミカルは俺の手を離しはしなかった。絶対に俺を連れていくのだという使命感らしきものを強く感じる。……いや、もはや執念と言うべきかもしれない。

 わずかな邂逅だけで俺を求め、捕らえてしまったミカル。
 この男ならいくら身寄りをなくしたとはいえ、もっと楽な道を選べただろうに。

 わざわざ憤りを覚える場所へ身を投じ、それでも力を得て、立派な屋敷に住まえるだけの富と肩書きを手に入れ、俺のためにそれらをすべて手放した。

 ……俺を掴む手に、狂気じみた念がこもっている気がする。意識してしまうと、背筋にぞくりと悪寒が走る。

 だが同時に胸の奥が熱くなる。
 理不尽に奪われ続けた俺に、己の人生をかけて心を与えようとしてくれるのだから。

 奥のほうに出口が見えてくる。わずかだが明るい。どうやらもう朝方らしい。

 洞窟を抜けたらミカルの隠れ家があるのだろうか?
 俺も疲れてはいるが、ずっと動き続けているミカルの疲労は相当なはず。早く休ませてやりたかった。

 外へ出てすぐに、森の草木が俺たちを出迎える。
 しかし少し歩けばすぐに辺りは開け、目の前の光景に俺は息を呑む。

 周囲を豊かな森を有した山々に囲まれた、小さな盆地。
 その中央に佇むのは、こじんまりとした家だった。山小屋というには造りはしっかりとしており、闇に慣れた目には漆喰の壁が眩しく見える。

 そして家の周りを取り囲んでいるのは、数多のバラだった。

 大輪の赤を咲かせたもの、小さな薄紅を無数に散りばめたもの、まだ硬い蕾のもの――ふと香りが俺の鼻へ入り、その甘さに体の奥がわずかに疼く。

 ああ、ミカルの血の匂いと同じだ。

 気づいただけで逃亡の疲れが癒え、俺の頭が完全に緊張の強張りを解いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...