薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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四章 そして彼は愛を知る

花弁の朝露

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「カナイ……この匂い、辛くないですか?」

 俺の顔をうかがいながらミカルが尋ねてくる。
 心なしか緊張の色が見えたが、俺は今の素直な気持ちを口にする。

「大丈夫だ。魔の者にはバラの香りは毒のはずなんだが……ミカルの血を飲み慣れたせいで、毒に耐性がついたのかもしれんな」

「ふふ、違いますよ。ただ私の血を飲み続けただけでは、未だにこの地はカナイにとって毒気が漂い悶絶する場所でした」

 微笑みながらミカルが「こちらへ」と俺を促し、家の近くに植えられた大輪の赤いバラへ連れていく。

 早朝のバラは花弁や葉に朝露を飾り、間もなく日が当たれば美しく輝く姿を見せてくれるだろう。
 不思議とその様を想像しても嫌悪感はない。人だった時と同じように、その美しさに少なからず感動を覚えるだろう。両親が生きていた、愛情というものが当たり前にあった頃と同じ感覚――。

 おもむろにミカルがバラの花弁に指先を近づけ、朝露を指に乗せる。
 そして俺の口元へその指を寄せた。

「どうかこの雫を口にしてくれますか? お願いします」

 透明な水でしかないそれが、なぜか妙に胸奥を疼かせる。
 好物の菓子を目の前に並べられた時のような、落ち着かない、でも幸せな疼き。これもまた人として扱われなくなる前以来の感情だ。

 吸い寄せられるまま唇の先で触れ、朝露を軽く吸って舌へ乗せる。

 次の瞬間、俺の体は隅々まで満ちた。
 今まで生きてきて、色々な者に喰われ、削られ、塞がらぬ穴を抱えてきた。それらがすべて埋まり、何も奪われなかった時の自分を取り戻したかのような――。

「……カナイ……」

 ふとミカルが俺の目元に口付ける。そうされて初めて、俺は涙を流していることに気が付いた。

「なんだ、これは……ミカル、俺の体に何が起こっているんだ……?」

「結論から言ってしまうと、もう貴方は血を飲まなくても大丈夫な体になりました。このバラの露や香りが、これからはカナイの糧となります」

 突然の話に俺は目を剥いてしまう。
 なんてあり得ない話。だが、信じられないと理性で叫びつつ、心はそれをすんなりと受け入れてしまう。

 確かに、それなら他の血を拒絶する体になったのに、ミカルのものだけは大丈夫なことが説明できる。血の量も少しで済み、血よりもミカルが宿すバラの香気を求めるようになっていたと、ここ最近を思い返す。

 それでも驚きは消せず、俺はミカルへ尋ねずにはいられなかった。

「なぜこんな体に……どうやって吸血鬼の理を捻じ曲げた?」

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