腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

Alanhart

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✳︎Chapter1〈1 人間不信のドア越し攻防〉

ep10 本当の友達になるために①

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 翌日、テストの結果が届いた。自分のPCからメールの受信箱を開く。今まで、学校からの連絡メールを無視しまくったせいで、受信箱には未読のメールが1000件以上もたまっている。

 わたしはその中から、一番最新のメールをクリックしようとして――手が止まった。手ごたえ的には悪くなかったけど、それでも不安だった。あんなにがんばったのに期待していた結果と違っていたらと思うと、見ない方が幸せなんじゃないかとすら思えてくる。


「そんなに心配しないで。先生だって褒めていたんだよ?」

 いつまでも勇気が出せずに固まっているわたしを、篠原くんが勇気づけてくれた。学校で、わたしのテストの結果が良かったって、増田先生が褒めていたそうだ。

「……そう、ですよね」

 ようやく、決心してメールを開いた。

「え、えっと、英語は……83点!?」

 すごい、はじめての高得点だ!

「国語は、96点! 数学は――」

 80点!

 うそ。これ本当? 宛先間違ってない?

「良かったね、津田さん。全部平均点以上だよ」

 ……うそじゃ、ない? これ、夢じゃない?

「よかった……、ほんとうによかったぁ……」

「がんばったね、津田さん」

 本当に、信じられない。問題は1年生の中期の範囲だけど、今まで生きていてこんな高得点を取ったことはなかった。

「ありがとうございます、篠原くん!」

 わたしなりにテスト勉強を頑張ったのもあるけれど、すべては篠原くんが勉強を見てくれたおかげだ。よかった、篠原くんをガッカリさせなくて。あとで、お母さんにも見せてあげなくちゃ。きっと、今夜の晩御飯は極上ステーキだ。

 わたしが晩御飯に想いを馳せていると、篠原くんがちょんちょんとわたしの肩を叩いた。

「津田さん。テストが終わったら、ご褒美あげるって約束だよね?」


「え、あ、そうでしたね」

 そういえば、そうだった。昨日はちなちゃんと一緒に帰ることになったから、ご褒美の件は後回しになってたけど。

「一体何なんですか、ご褒美って」

 顔がにやけないように、ひきしめる。なんだかんだ、ご褒美という言葉には弱い。

「それは内緒。まずは、外出の準備をしようか」

「外に出るんですか?」

「うん。外に出るよ」

「……」

 やっぱり、ご褒美をもらうのは諦めようかな。





 しぶしぶ、支度をして家を出た。正直、外には出たくない。外は寒いし、人もいるし。インドア派のわたしとしては、極力外出はしたくないのだ。

「あの、どこへ行くんですか?」

「着いてからのお楽しみ」

 さっきからそればっかり。わたし、サプライズ苦手なんだよな。突発的な出来事への対応力とかついてないし。

 溜息を吐いて、篠原くんについていく。

 買い物帰りのおばさんとすれ違って、わたしは思わず目を逸らした。外に出るのは好きじゃない。部屋の中で感じなくていいことを感じてしまうから。誰かとすれ違うたびに、自分がどれだけみじめに生きてるかを思い知らされるから。
 きれいなお姉さんとか、楽しそうに喋っている学生とか、犬の散歩をしているおじいさんとか、会社帰りのサラリーマンとか。なんだかみんな、普通にうまくやっていけてる人たちばかりで、学校に行かずに引きこもっている自分がうしろめたくなる。人の視線が気になる。部屋の中で過ごしていたら、こんな風に誰かと比べずにすむのに。うしろめたさも、自分の容姿も気にしなくていいのに。誰かの言葉に、視線に、態度に、傷付かなくていいのに。自分がどれだけ世間から切り離されているかを実感しなくていいから、部屋にいた方がずっと楽だ。

 10分くらい歩いて、ある家の前にたどりついた。それは、ガレージ付きの二階建ての一軒家だった。

「もしかしてここ、篠原くんの家、ですか?」

「うん。いつか、招待しようと思っていたんだ」

 まさか、篠原くんのおうちに招待されるなんて思ってない。わたしは、自分の身体がこわばるのを感じた。

 他人の家に上がったのって、いつぶりだっけ。ちなちゃんの家に遊びに行った事は何度もあるけれど、男子に家に招かれる経験なんて一切ない。失礼のないようにしなきゃ。粗相なんて、絶対あってはいけない。

 篠原くんに促されるまま、家の中に足を踏み入れた。靴箱の上に置かれた芳香剤の、柑橘系とミントの爽やかな香りがほのかに香る。玄関はきれいに片付けられていて、靴が置きっぱなしになっていることはない。

「どうぞ、遠慮せずに上がってね」

「は、はい。失礼します!」

 靴を脱いで、きちんとそろえて置く。いつも自分の家ではやらないけど、篠原くんのおうちではきちんとしなきゃ。

 篠原くんに案内されるまま、リビングにとおされた。

「飲み物をもってくるから、座って待っててね」

「あっ、はい、どうも……」

 篠原くんに言われるまま、ソファに座った。篠原くんがお湯を沸かしている間、そわそわ落ち着かない気持ちで周囲を見回した。

 リビングはダイニングキッチンになっており、ウッドベージュのカウンターのすぐそばには、テーブルが置かれている。カーテンやソファー、椅子はライトグレーで統一されていて、部屋の隅には、観葉植物が飾られていた。
 一見して、優しい雰囲気のリビングだと思った。おしゃれなインテリアとか、凝った照明とかは無いけれど、フローリングの床はピカピカで清潔感があって、掃除が行き届いているのがわかる。うちの、ごちゃごちゃいろんなものが飾られたリビングとは違う。なんというか、篠原くんの家・・・・・って感じがする。篠原くん、おじさんと一緒に暮らしてるんだっけ。すごくきれい好きなおじさんなんだな。

 落ち着かない気持ちのまま待っていると、篠原くんがマグカップにココアをいれて持ってきてくれた。

「叔父さんは仕事で出かけてるから、気にせずにくつろいでね」

「はっ、はいっ!」

 くつろげと言われても。ソファはふかふかで座り心地はいいんだけど、肩や背中に変な力が入っているのが自分でもわかるくらいには緊張している。篠原くんの家に招待されているこの状況が信じられない。大丈夫かな。スリッパ借りちゃってるけど、わたしの足臭くないかな。

 篠原くんは、わたしのとなりに座った。静かに距離をとる。ふんわり湯気の立ち上るココアのはいったマグカップを手にして、やけどしないようにゆっくりと口を付けた。

 ちょっとほっとする。ココアうまい。

「津田さんって、俺が怖いでしょ」

 いきなり変なことを言って驚かせるから、危うく唇をやけどしそうになった。

「そ、そんなことないです!」

 全力で首を振って否定していると、篠原くんは疑うように目を細めた。

「うそ。俺に遠慮してる。いつまでたっても敬語だし」

「そ、それは……。篠原くんには、いつもお世話になってて感謝しているので……、おそれ多いというか……」

「畏れ多い……?」

 篠原くんは、不愉快そうにわたしから視線を外した。

「畏れ多いなんて、そんな風に思ってほしくはないけど」

 畏れ多いって、悪い意味で言ったつもりはないんだけどな。篠原くんには本当に感謝しているし、尊敬しているからこそ思っているのに。

 居た堪れない気持ちで、わたしは自分の手の中にあるマグカップの中を覗き込んだ。ご褒美がもらえると聞いたから着いて来たのに、何なんだろうこの空気……。お家帰りたい。 

「俺のこと、まだ信用できない?」

「えっ、し、してますよ!」

 驚いて顔を上げる。篠原くんは、困ったように眉を下げて笑った。

「それはどうかな」

 うわべだけの否定はあっさり見抜かれて、わたしは言うべき言葉を失った。

「前よりは話してくれるようになった。けど、信用まではされていないんだろうなって思ってる」

「……」

 何も応えられずに、うつむいた。すべて、篠原くんの言ったことは図星だった。わたしは篠原くんを未だに怖いと思ってるし、心からは信用していない。篠原くんには、色々感謝はしているけど……。

「津田さんって、どうして俺が津田さんに関わろうとするのか、聞かないね」
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