腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

Alanhart

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〈2 ダイアモンドリリー〉

ep20 黄金に輝る放課後にふたり ②

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 不意を突かれて、僅かに神谷の身体の向きがゴールへ開く。その隙を狙って、充分神谷との距離を保ったまま、ワンバンド、ツーバウンド……ドライブでゴールまで切り込んだ。

 それでも、神谷の動きは速い。あっと言う間に咲乃の前に出る。神谷がボールへ手を伸ばす。神谷の手が届く前に、咲乃はジャンプして、ボールをゴールへショットした。ガゴォンと音を響かせて、ボールがリングの中へ通った。

「あぁ゛次ッ!」

 神谷が悔しそうに呻くと、咲乃はくすくす笑いながら、ボールを拾って神谷にパスした。数回程、攻撃側オフェンス防御側ディフェンスを交代した後、ボールを倉庫の中に片付けた。

 神谷が体育館の鍵を返している間、咲乃は昇降口を出て神谷を待った。外は既に夜空が広がっており、冷たい空気が運動後の熱を覚ます。
 しばらく待っていると、靴に履き替えた神谷が昇降口から出てきた。

「悪ぃ、待たせた」

「ううん。先生は大丈夫だった?」

「へーき。タジちゃん、こういうのゆるいから」

 田嶋たじま先生は、バスケ部の顧問だ。試合前の最終練習として、多めに見てくれたのだろう。

「あーあ、惜しいよなぁ。篠原がいたら、もっと強ぇチームになんのに」

「今のチームだって、充分強いよ。そういえば、チームに空いていた穴はどうなったの?」

「あー、あいつな。あいつ、新しい推しが見つかってから、元気になったよ」

 どうやら、めぐたんのことは諦めたようだ。部活を休むほど落ち込んでいたわりには、随分あっけなく推しが変わる。

 校門を出て、白いガードレール沿いの歩道を歩いていると、車のライトが咲乃たちを照らして走り抜けていく。どこからともなく虫の音が聞こえ、歩くたびに足元の落ち葉がしゃくしゃくと音を立てた。

「で、手紙の件はどうなったんだ。犯人の手掛かりは見つかったのかよ?」

「犯人だなんて、そんな大げさなものじゃない」

「お前な、すぐそうやって誤魔化す」

 神谷が不満そうに言った。

「どうせ、中本が関係してんだろ」

 あっさり図星を付かれて、咲乃は苦笑した。あれだけ急激に近づいたら、流石に気づくだろう。

「前に中本さんから手紙を受け取っていたことがあったんだけど、その時の筆跡と例の手紙の筆跡がよく似ていたんだ。今日、メッセージカードをもらって確信した」

「じゃあ、中本があの手紙を?」

「中本さんは、ただ利用されただけだと思う」

「筆跡をパクられたってことか。中本は知ってんの?」

 神谷が尋ねると、咲乃は首を横に振った。

「まだ、中本さんには何も話してない」

 盗み見るように横目で咲乃の横顔を見ると、神谷は空に向かって息を吐いた。街灯に浮かぶ白い息が、夜空に溶け込んで消えていく。

「言わねぇ方がいいかもな。ああいうタイプは、動転すると何しでかすかわかんねーから」

 咲乃は感心して、神谷を見た。他人のことなどどうでもいいように見えて、案外よく見ている。中本結子のような、クラスで目立たない立場にいる子に対しても。

「助けが必要になったら、絶対に言えよな。お前だけ面白ぇこと独り占めなんて、ぜってー許さねぇから!」

 にぃーと、これ以上にないくらいに口を引き延ばして、神谷が笑った。



 神谷と別れた後、咲乃の家の郵便受けにまた例の手紙が入っていた。いつもの柄付の封筒ではない、真っ黒な封筒。宛先はいつもどおり「篠原咲乃さまへ」と書かれ、切手や送り主の記載はなかった。
 封筒を開けると、黒い糸でぐるぐる巻きにされた筒状の赤い紙が入っていた。

幾重にも固く巻きつけられた糸をほどくのは難しい。咲乃はハサミでその糸を切ると、筒状になっていた紙を開いた。赤い紙の中から出てきたのは、一枚の写真だった。昼休みに隠し撮られたのだろう。写真は半分に破かれ、談笑する咲乃と神谷が写っていた。

咲乃は、赤い紙の方を広げると、黒い文字でこう書かれていた。







    “赤い糸は恋の糸、

    黒い糸は悪縁の糸。

    此の糸を絶つ者、

    悪縁から解き放つ。"






 赤い紙には、不可解な言葉の並び。
 それはまるで、咲乃が行ったことをあざ笑うかのような、離縁の呪いの言葉だった。








 休日が開け、咲乃が学校に登校すると、教室中が異様なほどにざわついていた。重田や他の男子だけでなく女子も混ざっては、みんな何かを話し込んでいる。

「おはよう、重田。何かあったの?」

 咲乃が尋ねると、重田は深刻な顔をして答えた。

「土曜の試合中に、神谷が病院に運ばれたって」
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