16 / 16
16.お披露目のお式
しおりを挟む
帰宅後は、慣れ親しんだメイドたちにお風呂へと入れて貰います。明日は婚約を発表するためのお披露目式で、互いの家の親族のみです。陛下はいらっしゃるとの事ですけれど、まあ、お父様の仲の良いおじさま、という扱いでいいのでしょう。
とはいえ、わたくしは主役の一人になりますから、丁寧に丹念に磨かれます。体も、髪も、爪も、顔も。
「ドレスは」
「ヨハンナさまが新作をお持ちになりました」
「ではそれでお願いしますね」
正直。自分に似合うドレスの形でありますとか、色ですとか。そういうものを考えなくて済むのはとても助かります。
わたくしが自分で考えたいときはお姉さまにそう言えばよろしいですし、わたくしが自分で考えたデザインをお姉さまに送って、それを手直ししてくださったこともあります。
フィルップラ侯爵家でもお世話にはなっておりましたけれど、皆さん当然遠慮があって。今は慣れ親しんだもの達なので、その、もうちょっと遠慮というものを。そんな気分になりながら、翌日を迎えました。勿論今日も、もうちょっと遠慮を、という気持ちです。
わたくしのためを思ってわたくしの支度をして下さっているのは分かっておりますから、口には出さないのですけれどね。
お披露目式の会場は、フィルップラ侯爵家です。わたくしがあちらに嫁ぐのですし、あちらの家の方が各式も高いですし。
アハマニエミ伯爵家からは、わたくしと、わたくしの両親である伯爵夫妻と、上の姉、つまり次期伯爵夫妻と、下の姉、次期ヘリスト伯爵夫妻。
フィルップラ侯爵家からは、侯爵夫妻とダーヴィド様のみ、と伺っております。
三台の馬車を仕立てて、フィルップラ侯爵家へ。ご近所ではあるのですけれど、今日はわたくしのお披露目のお式ですから、こうしないとならないのです。
我が家だけではありません。他のお家でも、婚約のお披露目のお式の時はこうなります。貴族のお家同士の婚約ですから、どうしても近くなってしまうのですよね。
本日はありがたいことに、良く晴れていました。
わたくしと両親の乗った馬車を先頭に、三台の馬車が。その内の一台はヘリスト伯爵家の馬車です。ヨハンナお姉さまたって希望で、こちらに泊まられたのです。いつもでしたら、ヘリスト伯爵家にお二人はいらして、お姉さまがこちらへ遊びに来たり、わたくしがあちらへ遊びに行ったりしていましたけれど。
馬車が、フィルップラ侯爵家に入ってゆきます。きっと、ご近所の家の方々は興味津々でこの馬車列を見ていることでしょう。
わたくしだって、子供の頃この、馬車列は楽しく窓から見ておりましたもの。どこかのお家のお嬢様が、ご結婚のためのお披露目のお式をするのだと。
数日すると、お父様かお母様からどこのお家のどのお姉様が、どこのお家に嫁ぐのか決まったと教えてもらうのが楽しみでした。
馬車はフィルップラ侯爵家の玄関前に止まります。まずは父が馬車から降りて、母に手を差し出して。いつもだとその次に、父がわたくしを馬車から下ろしてくださるのですけれど。
今日は、ダーヴィド様がわたくしに手を差し伸べて下さいました。
「本日は、ようこそおいでくださいました」
姉夫婦も馬車から降りて。玄関前はちょっとだけ人だかりが出来てしまっております。
「天候もよいですし、本日はガーデンパーティーの準備が整っております。こちらへ」
ダーヴィド様にエスコートされたわたくしも一緒に先導する形で、お庭へ。
アハマニエミ伯爵家のお庭も決して劣っていないとは思うのですけれど、フィルップラ侯爵家のお庭も素敵でした。
いくつもの丸テーブルが出され、あちらのテーブルの上に軽食が、あちらのテーブルの上にお飲み物が。あちらのテーブルは料理長ご自慢の甘味のようですし。
それぞれのテーブルの所には、テーブルクロスと同じ色のパラソルが差されておりました。テーブルは、建物のそばや、花壇のそばに設えており、お庭の真ん中にそれなりのスペースが取れるようになっております。
「ビルギッタ嬢は、こちらへ」
「ええ」
ダーヴィド様にエスコートされて、わたくしは家族から離れてお庭の中央に向かいます。まだ、陛下はいらしていないご様子。
「陛下を待たれますの?」
「遅くなるとご連絡をいただいておりますから、先に始めてしまいましょう」
「かしこまりました」
両親や姉夫婦、それからフィルップラ侯爵ご夫妻も、すでにそれぞれ手にグラスを持っております。そして皆様キラキラしたいい笑顔で、わたくしたちの方を見ております。
祝福、して下さるのですね。
それだけで、胸が一杯になってしまいます。
それから。
ちょっと遅くいらっしゃった陛下は、父と、フィルップラ侯爵に散々に文句を言われておいででした。自業自得だと思いますので、わたくしもダーヴィド様も母もフィルップラ侯爵夫人も姉たちも微笑んで遠巻きに見ているだけでした。陛下からは助けてくれとの視線をいただきましたので、小さく手を振っておきました。ダーヴィド様も隣で小さく腰を折っております。
わたくしとダーヴィド様は、それから王太子殿下のご結婚を待つ形で二年ほど婚約期間を置き、わたくしが二十歳、ダーヴィド様が二十七歳の年に結婚いたしました。
子宝も二男一女に恵まれ、わたくしの認識としては仲睦まじく生きて参りました。朝食と夕食を、可能な限り一緒に食べ、たまに夜会にエスコートしてもらい。
あの頃貴族子女の間で流行していた溺愛物のようにはなりませんでしたけれど、それでも、ダーヴィド様はわたくしを愛してくださったと思っておりますし、わたくしもダーヴィド様を愛しているのだと思います。
物語のような身を引き裂かれるような恋はしておりませんが、ただどこまでも。穏やかな愛を交わせたと思っております。
政略結婚であっても、互いに誠実な質であれば、愛を育むことは出来ますよ。だからそんなに、心配なさることはありませんわ。
とはいえ、わたくしは主役の一人になりますから、丁寧に丹念に磨かれます。体も、髪も、爪も、顔も。
「ドレスは」
「ヨハンナさまが新作をお持ちになりました」
「ではそれでお願いしますね」
正直。自分に似合うドレスの形でありますとか、色ですとか。そういうものを考えなくて済むのはとても助かります。
わたくしが自分で考えたいときはお姉さまにそう言えばよろしいですし、わたくしが自分で考えたデザインをお姉さまに送って、それを手直ししてくださったこともあります。
フィルップラ侯爵家でもお世話にはなっておりましたけれど、皆さん当然遠慮があって。今は慣れ親しんだもの達なので、その、もうちょっと遠慮というものを。そんな気分になりながら、翌日を迎えました。勿論今日も、もうちょっと遠慮を、という気持ちです。
わたくしのためを思ってわたくしの支度をして下さっているのは分かっておりますから、口には出さないのですけれどね。
お披露目式の会場は、フィルップラ侯爵家です。わたくしがあちらに嫁ぐのですし、あちらの家の方が各式も高いですし。
アハマニエミ伯爵家からは、わたくしと、わたくしの両親である伯爵夫妻と、上の姉、つまり次期伯爵夫妻と、下の姉、次期ヘリスト伯爵夫妻。
フィルップラ侯爵家からは、侯爵夫妻とダーヴィド様のみ、と伺っております。
三台の馬車を仕立てて、フィルップラ侯爵家へ。ご近所ではあるのですけれど、今日はわたくしのお披露目のお式ですから、こうしないとならないのです。
我が家だけではありません。他のお家でも、婚約のお披露目のお式の時はこうなります。貴族のお家同士の婚約ですから、どうしても近くなってしまうのですよね。
本日はありがたいことに、良く晴れていました。
わたくしと両親の乗った馬車を先頭に、三台の馬車が。その内の一台はヘリスト伯爵家の馬車です。ヨハンナお姉さまたって希望で、こちらに泊まられたのです。いつもでしたら、ヘリスト伯爵家にお二人はいらして、お姉さまがこちらへ遊びに来たり、わたくしがあちらへ遊びに行ったりしていましたけれど。
馬車が、フィルップラ侯爵家に入ってゆきます。きっと、ご近所の家の方々は興味津々でこの馬車列を見ていることでしょう。
わたくしだって、子供の頃この、馬車列は楽しく窓から見ておりましたもの。どこかのお家のお嬢様が、ご結婚のためのお披露目のお式をするのだと。
数日すると、お父様かお母様からどこのお家のどのお姉様が、どこのお家に嫁ぐのか決まったと教えてもらうのが楽しみでした。
馬車はフィルップラ侯爵家の玄関前に止まります。まずは父が馬車から降りて、母に手を差し出して。いつもだとその次に、父がわたくしを馬車から下ろしてくださるのですけれど。
今日は、ダーヴィド様がわたくしに手を差し伸べて下さいました。
「本日は、ようこそおいでくださいました」
姉夫婦も馬車から降りて。玄関前はちょっとだけ人だかりが出来てしまっております。
「天候もよいですし、本日はガーデンパーティーの準備が整っております。こちらへ」
ダーヴィド様にエスコートされたわたくしも一緒に先導する形で、お庭へ。
アハマニエミ伯爵家のお庭も決して劣っていないとは思うのですけれど、フィルップラ侯爵家のお庭も素敵でした。
いくつもの丸テーブルが出され、あちらのテーブルの上に軽食が、あちらのテーブルの上にお飲み物が。あちらのテーブルは料理長ご自慢の甘味のようですし。
それぞれのテーブルの所には、テーブルクロスと同じ色のパラソルが差されておりました。テーブルは、建物のそばや、花壇のそばに設えており、お庭の真ん中にそれなりのスペースが取れるようになっております。
「ビルギッタ嬢は、こちらへ」
「ええ」
ダーヴィド様にエスコートされて、わたくしは家族から離れてお庭の中央に向かいます。まだ、陛下はいらしていないご様子。
「陛下を待たれますの?」
「遅くなるとご連絡をいただいておりますから、先に始めてしまいましょう」
「かしこまりました」
両親や姉夫婦、それからフィルップラ侯爵ご夫妻も、すでにそれぞれ手にグラスを持っております。そして皆様キラキラしたいい笑顔で、わたくしたちの方を見ております。
祝福、して下さるのですね。
それだけで、胸が一杯になってしまいます。
それから。
ちょっと遅くいらっしゃった陛下は、父と、フィルップラ侯爵に散々に文句を言われておいででした。自業自得だと思いますので、わたくしもダーヴィド様も母もフィルップラ侯爵夫人も姉たちも微笑んで遠巻きに見ているだけでした。陛下からは助けてくれとの視線をいただきましたので、小さく手を振っておきました。ダーヴィド様も隣で小さく腰を折っております。
わたくしとダーヴィド様は、それから王太子殿下のご結婚を待つ形で二年ほど婚約期間を置き、わたくしが二十歳、ダーヴィド様が二十七歳の年に結婚いたしました。
子宝も二男一女に恵まれ、わたくしの認識としては仲睦まじく生きて参りました。朝食と夕食を、可能な限り一緒に食べ、たまに夜会にエスコートしてもらい。
あの頃貴族子女の間で流行していた溺愛物のようにはなりませんでしたけれど、それでも、ダーヴィド様はわたくしを愛してくださったと思っておりますし、わたくしもダーヴィド様を愛しているのだと思います。
物語のような身を引き裂かれるような恋はしておりませんが、ただどこまでも。穏やかな愛を交わせたと思っております。
政略結婚であっても、互いに誠実な質であれば、愛を育むことは出来ますよ。だからそんなに、心配なさることはありませんわ。
60
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています
鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、
「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた
公爵令嬢アイシス・フローレス。
――しかし本人は、内心大喜びしていた。
「これで、自由な生活ができますわ!」
ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、
“冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。
ところがこの旦那様、噂とは真逆で——
誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……?
静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、
やがて互いの心を少しずつ近づけていく。
そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。
「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、
平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。
しかしアイシスは毅然と言い放つ。
「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」
――婚約破棄のざまぁはここからが本番。
王都から逃げる王太子、
彼を裁く新王、
そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。
契約から始まった関係は、
やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!
『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』
鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがないから、婚約破棄する」――
王太子アルヴィスから突然告げられた、理不尽な言葉。
令嬢リオネッタは涙を流す……フリをして、内心ではこう叫んでいた。
(やった……! これで自由だわーーーッ!!)
実家では役立たずと罵られ、社交界では張り付いた笑顔を求められる毎日。
だけど婚約破棄された今、もう誰にも縛られない!
そんな彼女に手を差し伸べたのは、隣国の若き伯爵家――
「干渉なし・自由尊重・離縁もOK」の白い結婚を提案してくれた、令息クリスだった。
温かな屋敷、美味しいご飯、優しい人々。
自由な生活を満喫していたリオネッタだったが、
王都では元婚約者の評判がガタ落ち、ざまぁの嵐が吹き荒れる!?
さらに、“形式だけ”だったはずの婚約が、
次第に甘く優しいものへと変わっていって――?
「私はもう、王家とは関わりません」
凛と立つ令嬢が手に入れたのは、自由と愛と、真の幸福。
婚約破棄が人生の転機!? ざまぁ×溺愛×白い結婚から始まる、爽快ラブファンタジー!
---
敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜
六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。
極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた!
コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。
和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」
これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
《短編版》或る伯爵夫人が一人思い悩んだ末の事の顛末
桃井すもも
恋愛
誰もいない一人寝の寝台に横になりながら、サフィリアは、ほうと深く息を吐いた。一人切りになってようやく誰の目も気にせず溜め息がつける。
誰もいない宵闇の世界だけが、サフィリアにありのままの姿でいることを許してくれる。
サフィリアの夫、ルクスは出来た人だ。だから決して口には出さないが、心の中ではサフィリアよりも余程深い溜め息を吐いている筈だ。
夫はサフィリアに愛情を抱いている訳ではない。
彼は、仕方なくサフィリアを娶ったのだから。
*こちらの作品は「或る伯爵家が一人思い悩んだ末の事の顛末」の短編版です。
もう一つの伯爵夫人の物語としてお楽しみ下さい。
❇他サイトで別名義にて「或る伯爵夫人の話」として公開しております。
完結済です。サクッとお読み頂けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる