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24.クラミ子爵家からの抗議
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キースキ伯爵家の夜会を、明日もまだ夜会があるからと辞して、メルヴィ嬢をご自宅へとお送りする。自分一人であればまだ参加できるが、メルヴィ嬢は夜会に慣れていない子爵令嬢であるから、それを理由とさせていただいた。先輩方は基本的に良い人々であるので、それであるならば紹介もされたし、と一足先に帰宅することを咎められはしなかった。
まあ、急に呼び出された夜会であるのだから、そういう物である。
メルヴィ嬢だけはいいのかと恐縮していたが、招待者であるキースキ卿からも帰るように促されていた。夜会は疲れるのである。本人が思っているよりもずっと。
「旦那様がお待ちです」
「ありがとう」
メルヴィ嬢をお送りしてから帰宅すると、執事に呼び止められた。何の話だろうか。
父は執務室ではなく、応接室にいるという。今日は、両親は夜会に参加していないそうだ。兄夫婦はどこかの夜会へと行っていたはずだ。良くは覚えていない。
「どうされました」
「クラミ子爵家から正式に抗議がきている。こちらで対処していいな?」
「お任せいたします」
クラミ子爵令息の気持ちも分からなくはないが、家同士の正式な見合ではなかったと聞く。ならば特に、問題もないと思うが。まあ、あちらが家同士の話にしたい、というのであれば、家同士の話にしてもらって問題はない。
「クラミ子爵からの抗議ですか? 息子の方ではなく?」
「子爵からだな。婚約者を横から奪われた、と」
「であるならば、こちらではなくクレーモア子爵家になさってくださればよいものを」
「お前ね」
勿論そうであっても受けて立つのは伯爵である父であるのだろうけれど、相手を間違えている、としか言いようがない。そもそもとして、だ。
「お見合い相手ではなく婚約者を、というのであれば、婚約者を貴様は一人で夜会に行かせたのか、というお話になってしまいますが」
「そういえば、再会はどこだったんだ」
メルヴィ嬢を最初に紹介されたのは、夜会であった。その旨は父に伝えたかもしれないが、その後については何も言っていないかもしれない。いや、クレーモア子爵家に話をしてもらう際に、軽く言っているはずだが。まあ、こんなことになるとは互いに思っていなかったのだから、そこまで詳しく言ってもいないし覚えてもいなかろう。
メルヴィ嬢と再会したのは、仕事で行った、毎年夏の初めに行われるヨケラ伯爵家の夜会である。メルヴィ嬢とクラミ子爵令息が紹介されたお茶会は、その後だ。
クラミ子爵令息とメルヴィ嬢が紹介されたお茶会より先か後かは分からぬが、その前後で我が家から打診が行っているはずである。そうして、王城で行われた王妃殿下のお茶会への出席になったはずであるので。
メルヴィ嬢は確か、婚約者と夜会やお茶会に参加したことはない、と仰っていたように思う。正式に確認はしていないが。
しかし「横から浚った」というのであれば、自分が再会した時点では、すでに、婚約のお披露目式まで終えていた、とみるのが正しかろう。
となると、去年の内には、おや、婚約のお披露目式を終わらせていたこととなる。
「まあいい。今日はどうだった」
「キースキ伯爵家で、ホイッカをいただきましたよ。おすすめのお酒も教えて貰えて」
「ああ、あそこはホイッカが好きだからな。当主が確か、昼食会や晩餐会をこの時期に開催していてな。一度呼ばれてみたいものだ」
我が家とキースキ伯爵家は、それほど親しくはない。要するに派閥が違うのである。我が家は、キーア様の生家であるヒーデンマー侯爵家と近しい。
それほど親しくはない家の口に登るほどには、キースキ伯爵家のその昼食会は、有名な事なのだろう。
ちなみにこれは余談であるのだが。翌日、そのキースキ伯爵家からホイッカの昼食会の招待状が届いた。宛名は自分であったが、ご家族でとあり、ホイッカが好きな父と母は喜んでいた。メルヴィ嬢に確認をしたところ、クレーモア子爵家にも届いており。あちらはこちらと違った方向に盛り上がっていたそうだ。困惑という方向に。
それほど親しくはない伯爵家の昼食会にいきなり呼ばれたら、それは、困惑してしまうだろう。どのような衣装で行けばよろしいのかとか、ご家族での範疇だとか。
「ああ、当主様に気に入られましたからね」
「いらっしゃいました?!」
「あの、辛口のお酒をとてもおすすめしていらしたのが、当主様ですよ」
「ああ、あの美味しいお酒を」
だから多分、呼ばれたのはメルヴィ嬢である。その婚約者と目された自分も、お相伴にあずかれた、というだけで。我が家はありがたく伺うが。
「自分はどちらも合う、と答えているのですよ」
「同じではないですか……」
「いいえ。受け取る側にとっては、無難なことを言ったと思われたでしょう」
ただまあ、あのキースキ卿の御父上なので、自分が本心からどちらも良いと思ったのだと、思われたのかもしれないが。
クラミ子爵家からの抗議?
父がしっかりとメラルティン伯爵家の家紋を押したうえで、婚約のお披露目式の日取りを確認したという。婚約のお披露目式がなされていなければ、婚約者とは認められない。この夏息子がメルヴィ嬢に再会した時点以前で行われていたのであればそれはいつかと、問うたのである。
返事はなかったそうだ。
そんなものは行っていないとメルヴィ嬢もクレーモア子爵も仰っておいでだから、返事が出来ないのであるが。まず、彼女を婚約者である、と断じるのであれば、メルヴィ嬢とクレーモア子爵に先に話をするのが筋である。
少し。自分も腹が立ったので、いくつかの打てる手を打っておいた。具体的には、数人の先輩方に、カードを送っておいた。おそらくは明日、ルミヤルヴィ侯爵家での夜会で何かしら言ってくるであろうから、ルミヤルヴィ侯爵令息には夜会の前にお時間をいただきたい旨も、ご連絡しておいた。
まあ、急に呼び出された夜会であるのだから、そういう物である。
メルヴィ嬢だけはいいのかと恐縮していたが、招待者であるキースキ卿からも帰るように促されていた。夜会は疲れるのである。本人が思っているよりもずっと。
「旦那様がお待ちです」
「ありがとう」
メルヴィ嬢をお送りしてから帰宅すると、執事に呼び止められた。何の話だろうか。
父は執務室ではなく、応接室にいるという。今日は、両親は夜会に参加していないそうだ。兄夫婦はどこかの夜会へと行っていたはずだ。良くは覚えていない。
「どうされました」
「クラミ子爵家から正式に抗議がきている。こちらで対処していいな?」
「お任せいたします」
クラミ子爵令息の気持ちも分からなくはないが、家同士の正式な見合ではなかったと聞く。ならば特に、問題もないと思うが。まあ、あちらが家同士の話にしたい、というのであれば、家同士の話にしてもらって問題はない。
「クラミ子爵からの抗議ですか? 息子の方ではなく?」
「子爵からだな。婚約者を横から奪われた、と」
「であるならば、こちらではなくクレーモア子爵家になさってくださればよいものを」
「お前ね」
勿論そうであっても受けて立つのは伯爵である父であるのだろうけれど、相手を間違えている、としか言いようがない。そもそもとして、だ。
「お見合い相手ではなく婚約者を、というのであれば、婚約者を貴様は一人で夜会に行かせたのか、というお話になってしまいますが」
「そういえば、再会はどこだったんだ」
メルヴィ嬢を最初に紹介されたのは、夜会であった。その旨は父に伝えたかもしれないが、その後については何も言っていないかもしれない。いや、クレーモア子爵家に話をしてもらう際に、軽く言っているはずだが。まあ、こんなことになるとは互いに思っていなかったのだから、そこまで詳しく言ってもいないし覚えてもいなかろう。
メルヴィ嬢と再会したのは、仕事で行った、毎年夏の初めに行われるヨケラ伯爵家の夜会である。メルヴィ嬢とクラミ子爵令息が紹介されたお茶会は、その後だ。
クラミ子爵令息とメルヴィ嬢が紹介されたお茶会より先か後かは分からぬが、その前後で我が家から打診が行っているはずである。そうして、王城で行われた王妃殿下のお茶会への出席になったはずであるので。
メルヴィ嬢は確か、婚約者と夜会やお茶会に参加したことはない、と仰っていたように思う。正式に確認はしていないが。
しかし「横から浚った」というのであれば、自分が再会した時点では、すでに、婚約のお披露目式まで終えていた、とみるのが正しかろう。
となると、去年の内には、おや、婚約のお披露目式を終わらせていたこととなる。
「まあいい。今日はどうだった」
「キースキ伯爵家で、ホイッカをいただきましたよ。おすすめのお酒も教えて貰えて」
「ああ、あそこはホイッカが好きだからな。当主が確か、昼食会や晩餐会をこの時期に開催していてな。一度呼ばれてみたいものだ」
我が家とキースキ伯爵家は、それほど親しくはない。要するに派閥が違うのである。我が家は、キーア様の生家であるヒーデンマー侯爵家と近しい。
それほど親しくはない家の口に登るほどには、キースキ伯爵家のその昼食会は、有名な事なのだろう。
ちなみにこれは余談であるのだが。翌日、そのキースキ伯爵家からホイッカの昼食会の招待状が届いた。宛名は自分であったが、ご家族でとあり、ホイッカが好きな父と母は喜んでいた。メルヴィ嬢に確認をしたところ、クレーモア子爵家にも届いており。あちらはこちらと違った方向に盛り上がっていたそうだ。困惑という方向に。
それほど親しくはない伯爵家の昼食会にいきなり呼ばれたら、それは、困惑してしまうだろう。どのような衣装で行けばよろしいのかとか、ご家族での範疇だとか。
「ああ、当主様に気に入られましたからね」
「いらっしゃいました?!」
「あの、辛口のお酒をとてもおすすめしていらしたのが、当主様ですよ」
「ああ、あの美味しいお酒を」
だから多分、呼ばれたのはメルヴィ嬢である。その婚約者と目された自分も、お相伴にあずかれた、というだけで。我が家はありがたく伺うが。
「自分はどちらも合う、と答えているのですよ」
「同じではないですか……」
「いいえ。受け取る側にとっては、無難なことを言ったと思われたでしょう」
ただまあ、あのキースキ卿の御父上なので、自分が本心からどちらも良いと思ったのだと、思われたのかもしれないが。
クラミ子爵家からの抗議?
父がしっかりとメラルティン伯爵家の家紋を押したうえで、婚約のお披露目式の日取りを確認したという。婚約のお披露目式がなされていなければ、婚約者とは認められない。この夏息子がメルヴィ嬢に再会した時点以前で行われていたのであればそれはいつかと、問うたのである。
返事はなかったそうだ。
そんなものは行っていないとメルヴィ嬢もクレーモア子爵も仰っておいでだから、返事が出来ないのであるが。まず、彼女を婚約者である、と断じるのであれば、メルヴィ嬢とクレーモア子爵に先に話をするのが筋である。
少し。自分も腹が立ったので、いくつかの打てる手を打っておいた。具体的には、数人の先輩方に、カードを送っておいた。おそらくは明日、ルミヤルヴィ侯爵家での夜会で何かしら言ってくるであろうから、ルミヤルヴィ侯爵令息には夜会の前にお時間をいただきたい旨も、ご連絡しておいた。
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