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8.南の賢者様をお迎えに-2
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風呂場には、魔法の鍵があった。魔法を発動させるには鍵が必要で、鍵は個人で持っていたり、場所にあったりする。
「マジかよ。魔法の風呂じゃねえか」
めちゃくちゃ珍しい。城にはない。もしかしたら王子様の部屋風呂にはあるのかもしれねえけど、俺が使っている騎士団の大浴場にはない。騎士団の大浴場では、俺の奴隷の証を見て反応する奴は新兵しかもういねえから、新人の訓練に使われていたりする。近衛に入るんなら、表情出しちゃダメなんだってさ。大変だよな。
汗と埃を流して、新しい服に着替える。汚れた方の服はさっきメイドさんが回収して行ってくれた。めちゃくちゃありがたい。いや、仕事なのは分かってるんだけどさ。それに俺は多分外側から見るとお貴族様だろうしな。見てくれとかじゃなくて、立場的な奴が。
しばらくしたらこの街の領主様からお呼びがかかった。夕飯をご一緒に、だそうだ。そんな立場ではないので、とお断りしてもいいんだろうけどよ、今の俺の立場は陛下たちのお使いなわけだ。南の賢者様からのご指名なだけだけど。だから承諾をして、美味い飯を食わせてもらう。
大丈夫だ。飯を食うマナーはジジイに殴られながら覚えた。前回な。マナーが出来るようになったらちょっとずつうまい飯を食えるようになっていったので、俺はめちゃくちゃ頑張った。騎士団で食う飯も、何なら下働きが食う飯ですらうまいんだけれど、マナーレッスンのご褒美の飯はその比じゃなかった。今回合格したら次回は王子様のご昼食、ご夕食と同じです、といわれりゃ頑張るだろう。頑張った結果、俺は笑顔で領主様と歓談しながら飯が食えるってわけだ。
領主さまと飯を食った際の話題は、明日以降の相談だった。俺が到着した時点ですでにボードレール側の国境の国、ボージョンに使いを出している、との事だ。ボードレールの方が狭いとはいえ、南の賢者様はお年を召されているから、もうちっと時間がかかるかもしれないと説明される。
いや、南の賢者様の場合、それは移動に時間がかかってるんじゃなくて、なんかわがまま言ってるだけだと思うぞ。口には出さずに承知だけしたが。あの人にせえ北の賢者様にせえ、まあまあわがままな年寄りだからな。ありがたがっている人に伝えるつもりはないが。
必要事項の伝達以降は陛下方がお住まいの城について聞かれたりとか答えられることは答えたりとか、俺の年齢について聞かれたりとかしていた。概ね和やかだったと思う。明日南の賢者様が来ないなら、街に出てちょっと観光してみたらどうかと勧められたのでそうすることにした。王子様と王妃様と姫様方になんか買っていかねえとな。最低でも姫様方には必須だろう。明日メイドさんにでも聞いてみるか。
南の賢者様と合流を果たしたのは、俺がバゼーヌに到着した翌々日。
昨日はありがたく土産物を集めさせて貰った。朝起こしに来てくれたメイドさんに色々と聞いた。妹姫様たちへのお土産と、王妃様へのお土産については午後までに結論を出すと言われたので、完全にお任せすることにした。まあ、街の威信とかよく分かんねえけど関わってくるんだろう。王子様の分はいいんかい。まあ、そっちに関しては俺の方が好きそうなもん分かる分、吟味できたんだけどさ。
「おうおう、いいもん着てんじゃねえか。奴隷剣士風情が」
空気がピリつくから、そういう言い方はやめやがれ。
ちなみに南の賢者様は俺を落とすためにそういう物の言い方をなさっているわけでも、奴隷を蔑んでいるわけでもない。単純に口が糞悪いハイエルフなだけだ。本人が言うにはハイエルフの方言だそうだけど疑っているものは多い。俺は話しやすいから別にいい。
「シプリアン様!!」
おそらくはボードレールの姫君だろう。悲鳴に近い声で南の賢者様を止めている。分かる。止めねえと、国際問題待ったなしだもんな。特にアベラールは大国で、ボードレールにしてみりゃ恐怖でしかねえだろう。ちなみに単なる事実なので、俺は動じていない。バゼーヌの人々はちょっとイラっとしてるみたいだけど。大浴場行っといた方が良かったか?
「あんたが俺を指定したから、こういう格好で来なきゃいけなくなったんじゃねえか。面白がってるだろう、南の賢者様」
「まあな」
けらけらと笑う南の賢者様は、鳥ガラみたいに細い体をした白髪と、白髭のジジイだ。髭の先っぽをリボンで結んでいるのがお洒落だそうで、俺は王子様からお土産になんかいい感じのリボンを預かっている。なんだよ、なんかいい感じのリボンって。
「とりあえずこれ。王子様からの土産。先に渡しとくわ」
「おう、ありがとうな」
ポケットから取り出した包みを、ひょいと投げてやる。
「バティスト様!!」
今度はバゼーヌの領主が悲鳴を上げた。ちゃんと南の賢者様が受け取れるように投げているし、南の賢者様は受け取ってるし、問題は発生していない。俺たちの間では、って着くけど。まあでも、これで両国の無礼度合いは落ち着いただろう。あっちのが若干ヤバい気もするが。
「よいよい。奴隷小僧の戯れに、それほど怒るでねえわ」
「あー南の賢者様、それなんだけどな」
「なんじゃバティスト。お前さん、今生は違うとか言うなよ」
「ここの方々は多分、知らされていない」
「おう、そいつは済まん事をしたな」
俺はここで、客人向けのいい部屋に泊まらせていただいていて、領主さまの対等なお客様としてい美味い飯を食わせてもらっている。俺が王子様の奴隷だと知っていたら、そういう扱いにはなっていなかっただろう。陛下や王妃様がご存じなのかも、悩ましいところだ。ジジイと騎士団の連中は知っているから、多分お二人もご存じだとは思うんだけどな。
「マジかよ。魔法の風呂じゃねえか」
めちゃくちゃ珍しい。城にはない。もしかしたら王子様の部屋風呂にはあるのかもしれねえけど、俺が使っている騎士団の大浴場にはない。騎士団の大浴場では、俺の奴隷の証を見て反応する奴は新兵しかもういねえから、新人の訓練に使われていたりする。近衛に入るんなら、表情出しちゃダメなんだってさ。大変だよな。
汗と埃を流して、新しい服に着替える。汚れた方の服はさっきメイドさんが回収して行ってくれた。めちゃくちゃありがたい。いや、仕事なのは分かってるんだけどさ。それに俺は多分外側から見るとお貴族様だろうしな。見てくれとかじゃなくて、立場的な奴が。
しばらくしたらこの街の領主様からお呼びがかかった。夕飯をご一緒に、だそうだ。そんな立場ではないので、とお断りしてもいいんだろうけどよ、今の俺の立場は陛下たちのお使いなわけだ。南の賢者様からのご指名なだけだけど。だから承諾をして、美味い飯を食わせてもらう。
大丈夫だ。飯を食うマナーはジジイに殴られながら覚えた。前回な。マナーが出来るようになったらちょっとずつうまい飯を食えるようになっていったので、俺はめちゃくちゃ頑張った。騎士団で食う飯も、何なら下働きが食う飯ですらうまいんだけれど、マナーレッスンのご褒美の飯はその比じゃなかった。今回合格したら次回は王子様のご昼食、ご夕食と同じです、といわれりゃ頑張るだろう。頑張った結果、俺は笑顔で領主様と歓談しながら飯が食えるってわけだ。
領主さまと飯を食った際の話題は、明日以降の相談だった。俺が到着した時点ですでにボードレール側の国境の国、ボージョンに使いを出している、との事だ。ボードレールの方が狭いとはいえ、南の賢者様はお年を召されているから、もうちっと時間がかかるかもしれないと説明される。
いや、南の賢者様の場合、それは移動に時間がかかってるんじゃなくて、なんかわがまま言ってるだけだと思うぞ。口には出さずに承知だけしたが。あの人にせえ北の賢者様にせえ、まあまあわがままな年寄りだからな。ありがたがっている人に伝えるつもりはないが。
必要事項の伝達以降は陛下方がお住まいの城について聞かれたりとか答えられることは答えたりとか、俺の年齢について聞かれたりとかしていた。概ね和やかだったと思う。明日南の賢者様が来ないなら、街に出てちょっと観光してみたらどうかと勧められたのでそうすることにした。王子様と王妃様と姫様方になんか買っていかねえとな。最低でも姫様方には必須だろう。明日メイドさんにでも聞いてみるか。
南の賢者様と合流を果たしたのは、俺がバゼーヌに到着した翌々日。
昨日はありがたく土産物を集めさせて貰った。朝起こしに来てくれたメイドさんに色々と聞いた。妹姫様たちへのお土産と、王妃様へのお土産については午後までに結論を出すと言われたので、完全にお任せすることにした。まあ、街の威信とかよく分かんねえけど関わってくるんだろう。王子様の分はいいんかい。まあ、そっちに関しては俺の方が好きそうなもん分かる分、吟味できたんだけどさ。
「おうおう、いいもん着てんじゃねえか。奴隷剣士風情が」
空気がピリつくから、そういう言い方はやめやがれ。
ちなみに南の賢者様は俺を落とすためにそういう物の言い方をなさっているわけでも、奴隷を蔑んでいるわけでもない。単純に口が糞悪いハイエルフなだけだ。本人が言うにはハイエルフの方言だそうだけど疑っているものは多い。俺は話しやすいから別にいい。
「シプリアン様!!」
おそらくはボードレールの姫君だろう。悲鳴に近い声で南の賢者様を止めている。分かる。止めねえと、国際問題待ったなしだもんな。特にアベラールは大国で、ボードレールにしてみりゃ恐怖でしかねえだろう。ちなみに単なる事実なので、俺は動じていない。バゼーヌの人々はちょっとイラっとしてるみたいだけど。大浴場行っといた方が良かったか?
「あんたが俺を指定したから、こういう格好で来なきゃいけなくなったんじゃねえか。面白がってるだろう、南の賢者様」
「まあな」
けらけらと笑う南の賢者様は、鳥ガラみたいに細い体をした白髪と、白髭のジジイだ。髭の先っぽをリボンで結んでいるのがお洒落だそうで、俺は王子様からお土産になんかいい感じのリボンを預かっている。なんだよ、なんかいい感じのリボンって。
「とりあえずこれ。王子様からの土産。先に渡しとくわ」
「おう、ありがとうな」
ポケットから取り出した包みを、ひょいと投げてやる。
「バティスト様!!」
今度はバゼーヌの領主が悲鳴を上げた。ちゃんと南の賢者様が受け取れるように投げているし、南の賢者様は受け取ってるし、問題は発生していない。俺たちの間では、って着くけど。まあでも、これで両国の無礼度合いは落ち着いただろう。あっちのが若干ヤバい気もするが。
「よいよい。奴隷小僧の戯れに、それほど怒るでねえわ」
「あー南の賢者様、それなんだけどな」
「なんじゃバティスト。お前さん、今生は違うとか言うなよ」
「ここの方々は多分、知らされていない」
「おう、そいつは済まん事をしたな」
俺はここで、客人向けのいい部屋に泊まらせていただいていて、領主さまの対等なお客様としてい美味い飯を食わせてもらっている。俺が王子様の奴隷だと知っていたら、そういう扱いにはなっていなかっただろう。陛下や王妃様がご存じなのかも、悩ましいところだ。ジジイと騎士団の連中は知っているから、多分お二人もご存じだとは思うんだけどな。
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