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プロローグ
始まりの朝
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一番最初の記憶は、真っ白な世界。ピッピッうるさい音で目が覚めた。
全裸のまま簡易ベッドの上で真っ白な天井を見ていた。腕と胸にコードが刺さっていて、どうやら音をたてている小うるさいモニターに接続されていたようだ。俺はコードを無理やり引き抜く。モニターは緑から赤に変化し、さらにうるさく音をたて出した。
ベッドから足を下ろし、真っ白な床の冷たさを感じる。腰を浮かし足に重心を動かすが、そのまま床に倒れてしまった。足に力が入らない。体を引きずり起こすと口に温かな鉄の味が広がる。手のひらで顔を触る。赤い液体が流れ落ちていた。心臓が激しく胸を叩いている。
「ここはどこだ?」
俺は動かない体を無理やり起こし、周りを見渡す。真っ白な部屋の中にベッドとモニターが置かれているだけ。部屋の壁はマットのようなクッション性のある素材が使われている。部屋を見渡していると、壁の一部がせり上がり横にずれた。そこから何人かの男たちが入ってきて、俺を見て注射器を取り出す。俺は叫びながら自由にならない体をよじらせ逃げようと試みるが、抑えられ腕をひねられた。ヒヤリとした空気の冷たさを感じた。無駄だと分かっていても、叫び声をあげて激しく抵抗した。
「大丈夫。ちょっと眠るだけだから」
その声が聞こえたときには、もう俺の目は開いていなかった。
次の記憶は、別の部屋だった。天井には大きなプロペラの扇風機。壁にはおそらく高いのであろう絵が飾られていて、薄いカーテンから洩れる光が部屋を淡く照らしていた。
前回の目覚めとは違い、俺の体は柔らかなベッドと暖かな毛布に包まれていた。青い病衣を着ていて、裸でないことに安心する。俺は軽く寝がえりを打ち天井の扇風機に手を伸ばす。
「目が覚めたか?」
その声は俺の足元から聞こえてきた。鼓動が早まるのを感じながら、ゆっくりと体を起こす。
「無理をしなくていい。そのままで」
その声は優しくも有無を言わせない強さを感じさせた。白衣を着た初老の男。左手にボードを持って、右手のボールペンで何かを書き込んでいた。俺は少し起き上がり、壁に体を預けながら声を出した。
「さっきの部屋で、あんたを見た」
「そうだろう。ここは私の病院だからな」
初老の男は決められたセリフのように抑揚のない言葉を返してきた。俺が何も言わず見ていると、書き込んでいたボードを外し、真っ直ぐ俺を見返してきた。
「そう睨まなくてもいいだろ。君を助けたのは私なのだから」
「助けた?」
「そうだ。体が自由に動かないだろう?」
言われて、さっきの部屋で転んだことを思い出す。自然と手が口元に伸び、鼻のあたりを触り改めて手のひらを見る。
「大丈夫。出血はもう止まっているよ」
初老の男は、微笑んで言葉を続けた。
「少し失礼するよ」と言って、白衣のポケットからペンライトを取り出し、俺に近付いてきた。俺は身構え警戒心をあらわにする。
「大丈夫。ちょっと見るだけだから」
そう言って笑いながら俺の目にライトを当てて、何かを見ている。強い光に視力が奪われる。
「あんた誰だ?」
警戒がそのまま言葉になったように、疑問を強くぶつける。
「そうだったね。自己紹介がまだだった。……私はここの病院の経営者で、医者だ。名前は柊木だ」
初老の男は、胸に着いている名札を指さしながら答えた。そして、再びボードに何かを書き込みだす。
「体には問題はないだろうが、さっき転んだときに頭をぶつけているかもしれない。念のため後で検査をしてみよう」
ベッドの脇にボードをしまい、胸ポケットにボールペンを刺す。
「それでは、何かあったらそこのボタンを押してくれ。看護師が来るようになっているから」
部屋を出ていこうとする柊木に、俺は再び疑問をぶつけた。
「待ってくれ! 俺は誰だ?」
全裸のまま簡易ベッドの上で真っ白な天井を見ていた。腕と胸にコードが刺さっていて、どうやら音をたてている小うるさいモニターに接続されていたようだ。俺はコードを無理やり引き抜く。モニターは緑から赤に変化し、さらにうるさく音をたて出した。
ベッドから足を下ろし、真っ白な床の冷たさを感じる。腰を浮かし足に重心を動かすが、そのまま床に倒れてしまった。足に力が入らない。体を引きずり起こすと口に温かな鉄の味が広がる。手のひらで顔を触る。赤い液体が流れ落ちていた。心臓が激しく胸を叩いている。
「ここはどこだ?」
俺は動かない体を無理やり起こし、周りを見渡す。真っ白な部屋の中にベッドとモニターが置かれているだけ。部屋の壁はマットのようなクッション性のある素材が使われている。部屋を見渡していると、壁の一部がせり上がり横にずれた。そこから何人かの男たちが入ってきて、俺を見て注射器を取り出す。俺は叫びながら自由にならない体をよじらせ逃げようと試みるが、抑えられ腕をひねられた。ヒヤリとした空気の冷たさを感じた。無駄だと分かっていても、叫び声をあげて激しく抵抗した。
「大丈夫。ちょっと眠るだけだから」
その声が聞こえたときには、もう俺の目は開いていなかった。
次の記憶は、別の部屋だった。天井には大きなプロペラの扇風機。壁にはおそらく高いのであろう絵が飾られていて、薄いカーテンから洩れる光が部屋を淡く照らしていた。
前回の目覚めとは違い、俺の体は柔らかなベッドと暖かな毛布に包まれていた。青い病衣を着ていて、裸でないことに安心する。俺は軽く寝がえりを打ち天井の扇風機に手を伸ばす。
「目が覚めたか?」
その声は俺の足元から聞こえてきた。鼓動が早まるのを感じながら、ゆっくりと体を起こす。
「無理をしなくていい。そのままで」
その声は優しくも有無を言わせない強さを感じさせた。白衣を着た初老の男。左手にボードを持って、右手のボールペンで何かを書き込んでいた。俺は少し起き上がり、壁に体を預けながら声を出した。
「さっきの部屋で、あんたを見た」
「そうだろう。ここは私の病院だからな」
初老の男は決められたセリフのように抑揚のない言葉を返してきた。俺が何も言わず見ていると、書き込んでいたボードを外し、真っ直ぐ俺を見返してきた。
「そう睨まなくてもいいだろ。君を助けたのは私なのだから」
「助けた?」
「そうだ。体が自由に動かないだろう?」
言われて、さっきの部屋で転んだことを思い出す。自然と手が口元に伸び、鼻のあたりを触り改めて手のひらを見る。
「大丈夫。出血はもう止まっているよ」
初老の男は、微笑んで言葉を続けた。
「少し失礼するよ」と言って、白衣のポケットからペンライトを取り出し、俺に近付いてきた。俺は身構え警戒心をあらわにする。
「大丈夫。ちょっと見るだけだから」
そう言って笑いながら俺の目にライトを当てて、何かを見ている。強い光に視力が奪われる。
「あんた誰だ?」
警戒がそのまま言葉になったように、疑問を強くぶつける。
「そうだったね。自己紹介がまだだった。……私はここの病院の経営者で、医者だ。名前は柊木だ」
初老の男は、胸に着いている名札を指さしながら答えた。そして、再びボードに何かを書き込みだす。
「体には問題はないだろうが、さっき転んだときに頭をぶつけているかもしれない。念のため後で検査をしてみよう」
ベッドの脇にボードをしまい、胸ポケットにボールペンを刺す。
「それでは、何かあったらそこのボタンを押してくれ。看護師が来るようになっているから」
部屋を出ていこうとする柊木に、俺は再び疑問をぶつけた。
「待ってくれ! 俺は誰だ?」
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