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1 澪の夏、遥かなきらめきの花火
蝉の声が、夏の蒸し暑さをいっそう煽るように響いていた。
七月下旬のこの街は、前の街と比べて、少しだけ静かで、少しだけ息苦しい。
高校二年生の私は、窓辺に頰杖をつきながら、新しい制服の襟を直した。
転校初日。家族の事情で、都会からこの田舎町へ引っ越してきた。
名前は佐倉 遥。
誰も知らない私を、誰も待っていないこの場所で、何が待っているのだろう。
教室のドアを開けると、クラスメイトたちの視線が一斉に集まった。
担任の先生が私の肩を軽く叩き、黒板にチョークで名前を書く。
自己紹介を済ませたけど、この時期からの転入生はたぶん珍しい。
「佐倉さん、よろしくね。空いてる席はあそこよ」
指差された席は、窓際の後ろから二番目。
隣の席に座る少女が、ゆっくりと顔を上げた。
長い黒髪が肩に落ち、大きな瞳が私を捉える。彼女の名前は、教卓の座席表から知っていた。
月見 澪。
「よろしく」
月見さんの声は、夏の風のように柔らかかった。
私は頷き、席に着く。
授業が始まっても、彼女の視線が時折、私のほうへ流れてくるのがわかった。
私の顔に何かついているのだろうか?
おかしくないように、身だしなみチェックは家を出る前にちゃんとやったはずなのに。
まるで、好奇心の波のように見られていて少し恥ずかしい。
休憩時間になると、ゥラスメイトが集まってきて、質問や雑談が始まった。
月見さんは、人が集まるのが苦手なのか、休憩に入ると、どこかへ行ってしまった。
彼女はクラスで一番静かな子だって、誰かが言っていた。
それ以外の話は、あまり私の頭に入ってこなかった。
私は人付き合いは悪い方ではないと思う。
まぁ、多分愛想はいい方だと思う。
放課後、校門を出ると、月見さんが待っていた。
「あの……佐倉さん。街を案内するよ。転校生は迷うでしょ?」
予想外の提案に、私は驚いて立ち止まった。
でも、拒否する理由なんてない。
私自身、なぜか彼女に惹かれ、もう少し話したくて仕方なかった。
それに、彼女のまとう雰囲気は嫌いじゃなかった。
「お願いします」
私が笑顔で言うと、彼女はにこりと優しく笑った。
美人は得だなぁって、暑苦しい日差しの中なのに、心地よい流れを感じる笑顔に見えた。
夏の陽射しが、月見さんの白いブラウスを透かして、淡い影を落としていた。
街は小さく、すぐに海辺に出た。
波の音が、蝉の鳴き声を掻き消す。
月見さんは砂浜に座り、膝を抱えた。
「ここ、好きなんですよ。夏の終わりが近づくと、少しだけ寂しくなりますけど」
海がこんなに近くにあるのは素敵だよね。
私がいたところは、一時間ぐらいかからないと海がなかった。
海水浴場でもなかったので、こんなきれいな海は、何年ぶりに海を見たんだろう。
「転校してきたばかりで、何も知らないよ。私も、夏の終わりが怖いかもしれない。なんだか、誰もいなくなるみたいでさ」
月見さんが笑った。初めて見る、柔らかな笑顔。あぁ、なんか氷が解けた感じの柔らかな笑顔。
「それじゃ、一緒に夏を楽しみませんか?もしよかったら、来週花火大会あるんだけど、一緒に行きませんか?」
語尾がどんどん小さくなっていく彼女が、少し可愛いなぁって思うのは私だけかな。
——それから、私たちの夏は始まった。
月見さんの家は古い日本家屋で、庭に小さな池があった。
お嬢様だからこんな振る舞いなのかな?
運が悪いことに家の人と会ってないから、詳細ははっきりしないけど。
夕暮れに二人でスイカを割り、汁を飛び散らせて笑い合う。
こんなふうにスイカを食べるなんて初めてだった。
いつもはスーパーのカットスイカばかりだしね。
なんとなく、いつものスイカよりおいしく感じちゃった
それは、澪の笑い声が混じっていたからかも。
学校の屋上で弁当を分け合い、遠くの山並みを眺める。
月見さんの指が、偶然私の手に触れるたび、心臓が少し速くなった。
そして、花火大会の夜。
浴衣姿の澪は、いつもより大人びて見えた。
藍色の生地に淡い花柄。私の手を取って、人ごみの中を進む。
「遥、こっち。いい場所がありますよ」
河原の土手に座り、空を見上げる。
最初の一発が夜空を裂き、赤い花が咲いた。
金色の星が散り、青い波が広がる。花火の光が、澪の横顔を照らす。
彼女の瞳に、星屑が映っていた。
「澪、夏って、こんなに綺麗なんだね」
「うん。でも、もっと綺麗なものがありますよ」
澪の声が、震えていた。
彼女の手が、私の手に絡まる。
花火の轟音が耳を塞ぐように響く中、澪の唇がそっと近づいた。
柔らかく、甘い。夏の夜風が、頰を撫でる。
キスは短かった。
でも、世界が変わったみたいだった。
「遥、私はあなたが好きです」
花火が最後の大輪を咲かせ、静けさが訪れる。
「多分……私も」
少し恥ずかしかったので、顔に熱が込みあがってきて、熱が出てきた感じになってくる。
澪が囁く。
「遥、転入してくれて、ありがとう。この夏、あなたがいなかったら、ただの寂しい季節だった」
私は澪の肩に頭を預けた。波の音が、遠くで囁くように。
「私も。澪がいなかったら、知らない街はただの迷路だったよ」
夏は、まだ終わらない。
私は生まれて初めての恋人を得た。
私にはもったいないくらいの、可愛くておしとやかな彼女に、もう一度確かめるようにキスをした。
——この夏の記憶が、私たちを繋ぐ糸のように、優しく絡みついた。
七月下旬のこの街は、前の街と比べて、少しだけ静かで、少しだけ息苦しい。
高校二年生の私は、窓辺に頰杖をつきながら、新しい制服の襟を直した。
転校初日。家族の事情で、都会からこの田舎町へ引っ越してきた。
名前は佐倉 遥。
誰も知らない私を、誰も待っていないこの場所で、何が待っているのだろう。
教室のドアを開けると、クラスメイトたちの視線が一斉に集まった。
担任の先生が私の肩を軽く叩き、黒板にチョークで名前を書く。
自己紹介を済ませたけど、この時期からの転入生はたぶん珍しい。
「佐倉さん、よろしくね。空いてる席はあそこよ」
指差された席は、窓際の後ろから二番目。
隣の席に座る少女が、ゆっくりと顔を上げた。
長い黒髪が肩に落ち、大きな瞳が私を捉える。彼女の名前は、教卓の座席表から知っていた。
月見 澪。
「よろしく」
月見さんの声は、夏の風のように柔らかかった。
私は頷き、席に着く。
授業が始まっても、彼女の視線が時折、私のほうへ流れてくるのがわかった。
私の顔に何かついているのだろうか?
おかしくないように、身だしなみチェックは家を出る前にちゃんとやったはずなのに。
まるで、好奇心の波のように見られていて少し恥ずかしい。
休憩時間になると、ゥラスメイトが集まってきて、質問や雑談が始まった。
月見さんは、人が集まるのが苦手なのか、休憩に入ると、どこかへ行ってしまった。
彼女はクラスで一番静かな子だって、誰かが言っていた。
それ以外の話は、あまり私の頭に入ってこなかった。
私は人付き合いは悪い方ではないと思う。
まぁ、多分愛想はいい方だと思う。
放課後、校門を出ると、月見さんが待っていた。
「あの……佐倉さん。街を案内するよ。転校生は迷うでしょ?」
予想外の提案に、私は驚いて立ち止まった。
でも、拒否する理由なんてない。
私自身、なぜか彼女に惹かれ、もう少し話したくて仕方なかった。
それに、彼女のまとう雰囲気は嫌いじゃなかった。
「お願いします」
私が笑顔で言うと、彼女はにこりと優しく笑った。
美人は得だなぁって、暑苦しい日差しの中なのに、心地よい流れを感じる笑顔に見えた。
夏の陽射しが、月見さんの白いブラウスを透かして、淡い影を落としていた。
街は小さく、すぐに海辺に出た。
波の音が、蝉の鳴き声を掻き消す。
月見さんは砂浜に座り、膝を抱えた。
「ここ、好きなんですよ。夏の終わりが近づくと、少しだけ寂しくなりますけど」
海がこんなに近くにあるのは素敵だよね。
私がいたところは、一時間ぐらいかからないと海がなかった。
海水浴場でもなかったので、こんなきれいな海は、何年ぶりに海を見たんだろう。
「転校してきたばかりで、何も知らないよ。私も、夏の終わりが怖いかもしれない。なんだか、誰もいなくなるみたいでさ」
月見さんが笑った。初めて見る、柔らかな笑顔。あぁ、なんか氷が解けた感じの柔らかな笑顔。
「それじゃ、一緒に夏を楽しみませんか?もしよかったら、来週花火大会あるんだけど、一緒に行きませんか?」
語尾がどんどん小さくなっていく彼女が、少し可愛いなぁって思うのは私だけかな。
——それから、私たちの夏は始まった。
月見さんの家は古い日本家屋で、庭に小さな池があった。
お嬢様だからこんな振る舞いなのかな?
運が悪いことに家の人と会ってないから、詳細ははっきりしないけど。
夕暮れに二人でスイカを割り、汁を飛び散らせて笑い合う。
こんなふうにスイカを食べるなんて初めてだった。
いつもはスーパーのカットスイカばかりだしね。
なんとなく、いつものスイカよりおいしく感じちゃった
それは、澪の笑い声が混じっていたからかも。
学校の屋上で弁当を分け合い、遠くの山並みを眺める。
月見さんの指が、偶然私の手に触れるたび、心臓が少し速くなった。
そして、花火大会の夜。
浴衣姿の澪は、いつもより大人びて見えた。
藍色の生地に淡い花柄。私の手を取って、人ごみの中を進む。
「遥、こっち。いい場所がありますよ」
河原の土手に座り、空を見上げる。
最初の一発が夜空を裂き、赤い花が咲いた。
金色の星が散り、青い波が広がる。花火の光が、澪の横顔を照らす。
彼女の瞳に、星屑が映っていた。
「澪、夏って、こんなに綺麗なんだね」
「うん。でも、もっと綺麗なものがありますよ」
澪の声が、震えていた。
彼女の手が、私の手に絡まる。
花火の轟音が耳を塞ぐように響く中、澪の唇がそっと近づいた。
柔らかく、甘い。夏の夜風が、頰を撫でる。
キスは短かった。
でも、世界が変わったみたいだった。
「遥、私はあなたが好きです」
花火が最後の大輪を咲かせ、静けさが訪れる。
「多分……私も」
少し恥ずかしかったので、顔に熱が込みあがってきて、熱が出てきた感じになってくる。
澪が囁く。
「遥、転入してくれて、ありがとう。この夏、あなたがいなかったら、ただの寂しい季節だった」
私は澪の肩に頭を預けた。波の音が、遠くで囁くように。
「私も。澪がいなかったら、知らない街はただの迷路だったよ」
夏は、まだ終わらない。
私は生まれて初めての恋人を得た。
私にはもったいないくらいの、可愛くておしとやかな彼女に、もう一度確かめるようにキスをした。
——この夏の記憶が、私たちを繋ぐ糸のように、優しく絡みついた。
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