百合短編集

南條 綾

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57 手を繋いだままのおやすみ

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 学校の宿題が重なり、ファミレスで勉強会をしてた。

「やった~終わった。美凪、ありがとう」

「まぁいいんだけど、今何時かわかってる?」

「え?」

 私は時間を見ると、夜の11時を指していた。
ファミレスから駅まで結構距離がある。
これ終電に間に合わないのでは・・・。

美凪が「うちに来なよ」とさらっと言ってくれたのは、嬉しく思った。
昔から困っている人を放っておけないのが美凪だった。
変わってないなぁって思った。
小学生の時からすごく仲良くしてた女の子。
中学で引っ越しして高校で再会してまたこうしているんだから、世の中狭いよねって言ってたっけ。

 私は家に連絡を入れるとすごく怒られてしまった。
女子高生二人がこんな時間に連絡を入れたんだから当たりまえだよね。

 美凪の家に泊まるのは、これで高校になって三回目だった。
部屋に入ると、いつもの香りがした。柔軟剤と、少し甘いシャンプーの香り。美凪はもうパジャマに着替えていて、ゆったりしたTシャツに短パンという格好で、私を迎えてくれた。

「お風呂、先に入っていいよ。タオルはあそこにあるから」

「ありがと……助かるよ」

お風呂から上がると、美凪はすでに布団を敷き始めていた。
なんか雰囲気がおかしいと思ったのは気のせいかな?

「ねえ、綾」美凪が少し困ったような顔で、私を見上げた。

「実はさ、今日、布団が一組しかないんだよね。ママが干してる間に、予備のやつ持っていっちゃったみたいで」

「え……」私は、思わず声が漏れて美凪を見つめてしまった。

「だから、今日は……一緒に寝ない?」

 美凪はそう言って、頬を少し赤くした。
別に変な意味じゃないのはわかっている。
友達同士だし、子供の頃は何度もお泊りして一緒に寝たこともある。
でも、最近はなんだか意識してしまう。
私だけが、なのかもしれないけど。

「……うん、いいよ。反対にいいの?」
私は平静を装って答えた。心臓が少し速くなっているのが、自分でもわかった。

「うん、綾が嫌じゃなければ」

 何故か美凪の声は小さかったけど、深夜だから気を付けたのかな?
布団は確かに狭かった。二人が横になると、肩が触れ合うくらい。
電気を消して、部屋が暗くなると、静けさが一気に広がった。
天井の向こうから、かすかに時計の音が聞こえるだけ。しばらく、無言だった。

「……綾、寝てる?」美凪の小さな声が、闇の中で響いた。

「ううん、まだ」私も小声で答える。
なんだか、声を大きくするのがはばかられる雰囲気だった。

「なんか、変な感じだね」美凪がくすっと笑った。

「子供の頃は、普通に一緒に寝てたのにさ。今こうしてるとなんか……照れるっていうか」
美凪もそう思ってたんだ

「……うん」
私は正直に頷いて、美凪の方に顔を向けてみた。
絶対に今顔が赤くなってるのがわかるから、周囲が暗いから、顔が見えなくてよかった。

「でも、あったかいね」美凪がそう言って、少し体を寄せてきた。
肩がぴったりと重なる。彼女の髪の毛が、私の首筋にかかって、くすぐったい。

「美凪の髪、いい匂いする」
思わず口に出してしまった。

「え、急に何?」美凪が少し慌てた声で笑う。

「いや、ほんとに。シャンプー変えた?」
私は何を言ってるんだろう?同じシャンプーを使ったのに…もう支離滅裂だよ。

「ううん、ずっと同じだよ。でも……嬉しいな、そんなこと言ってくれるの」
少しの沈黙。外で、遠く車が通る音がした。

「……ねえ、綾」
美凪がまた、囁くように言った。

「最近、なんか変じゃない? 私たち」
心臓が、どきりと鳴った。

「変って……どういう意味?」

「うーん……うまく言えないけど。昔はもっと、なんでも話せてた気がする。でも最近、綾のこと見てると、なんか胸がざわざわするっていうか……」

 美凪の声が、少し震えているような気がした。私は、息を止めた。

「……私も…私も、そうかも」小さな声で、そう答えた。

 布団の中で、美凪の手が、そっと私の手を捜すように動いた。
そして、指先が触れた。温かかった。

「綾の手、冷たいね」

「いつも冷たいんだよ……」

「じゃあ、温めてあげる」

美凪がそう言って、私の手をそっと握った。指が絡まる。離さない。

「……美凪」

「ん?」

「明日、朝になったら……今日のこと、覚えててくれる?」

 馬鹿みたいな質問だと思った。でも、聞きたかった。
美凪は少しの間、黙っていた。そして、ぎゅっと手を握り返した。

「もちろん。忘れないよ。こんな夜、忘れられるわけないでしょ」

 暗闇の中で、私は微笑んだ。美凪には見えていないと思うけど。

「……ありがと」

「うん。おやすみ、綾」

「おやすみ、美凪」

 手を繋いたまま、私たちは目を閉じた。
温かさが、ゆっくりと体中に広がっていく。
このまま、朝が来なければいいのに。
そんな、わがままな願いを抱きながら。私は、静かに眠りに落ちていった。
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