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5章 綾の不幸、栞の提案
19話A完 返事をする朝
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翌朝、スマホのアラームが耳に刺さるように鳴った。
止めても、指先が変に冷たい。画面を押した感触だけが残って、しばらく布団の中で動けなかった。
昨日、水無月さんに渡された名刺が枕元にある。
紙一枚なのに、重い。ただの紙なのに、これで私の生活が変わる気がした。
着替えの時も何だか落ち着かない。シャツのボタンを留める手が、やけに遅い。急いでるわけじゃないのに、早く終わらせたい気持ちだけが先に立つ。そして鞄に最低限の荷物を詰めた。
着替えて鞄に最低限の荷物を詰めた。それから、サッカーボールも持っていく。
外に出ると、夏の蒸し暑い空気が顔に張りついた。湿気が重たくて、息が少しだけ苦しい。汗が出る前から、胸の奥が落ち着かないのが、ずっと答えが出なくてとても嫌だった。
昼頃、黒いレクサスがアパート前に止まっていた。
私は外に出て、鞄を持ち替えた。
水無月さんが運転席から降りて、軽く頭を下げる。
「綿津見さん、お待たせしました。今日はよろしくお願いします」
「…よろしくお願いします」
水無月さんがドアを開けてくれて私は後部座席の方に入り込んだ。
ドアが閉まる音が、思ったより静かだった。
座るとシートがふわっと沈んで、柔らかさに一瞬だけ息が止まる。
レクサスって、名前だけは聞いたことあるけど、こんなに座り心地がいいとは思わなかった。
助手席が空いてるので、栞は来ていないみたいだった。
てっきり来ているものと思っていたから、少し驚いた。
車に入った瞬間「こんにちは、綾さん」ていうのを予想してたから。
シートベルトを締める。
水無月さんがミラー越しに一度だけ私を見て、「出しますね」と言った。
私は小さく頷いて、車が走り出す。
車がゆっくり動き出す。タイヤが転がる感じが足元から伝わって、体が少しだけシートに預けられる。
アパートの前を抜けて、窓の景色が少しずつ流れ始めた。秋子さんがバックミラー越しに私を見た。
「綿津見さん、返事は決まりましたか?」
私は窓の外を見たまま、
「……はい。夏休み限定で、お願いします」
「ありがとうございます。社長も喜びます」
短く答えて、静かに運転を続けた。
マンションに着き、そのまま案内で、エレベーターで栞の部屋まで向かった。
数字が上がっていくのを見ているだけなのに、やはり胸のざわつきがを感じる。
サッカーの試合とは違ったドキドキだった。
期待?不安?先ほどから私は少しおかしいと思う。
ここには仕事に来ただけ。それだけなんだから。
扉が開いて、部屋に入る。
栞がリビングのソファに座って待ってた。
立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「綾さん…来てくれたんだ」
栞の声が少し震えているように聞こえた。
私は鞄を置いて頭を下げる
「一月半ですが、働かせてもらいます。よろしくお願いします」
私は頭を上げると、栞が、ここ最近出会うと悲しそうな顔ばかりの栞が笑顔になっていた。
それだけでも私はここに来てよかったと思ってしまった。
「うん、ありがとう。本当にうれしい」
栞がキッチンから麦茶を持ってきて、隣に座る。
「まずは、ゆっくりして。明日から本格的に始まるね」
私は勧められた席に座りグラスを取った。
「…栞いえ、霧生さん」
名前を呼ぶと、栞が「ん?」って顔を上げる。
「ありがとう。助かります」
本当は、もっと言いたいことがあるのに、言葉が出なかった。
多分私の内情を知っていろいろ動いてくれたのに、こういう時どのような顔をして言えばいいのかわからなかった。
それでも栞は私が言いたいことがわかるのかという感じで満面の笑顔だった
「私の方こそ、綾さんがいてくれて、嬉しいよ。あと一応今まで通りで栞でいいからね」
「ですが……」
私はちらっと後ろに控えている水無月さんの顔を見た
「基本ありませんが、お仕事上で一緒に外に出る場合は霧生さんでお願いしますが、この空間での仕事の時は普段通りの口調で構いませんよ」
夕食はなぜか三人で一緒に作った。
冷蔵庫の中身を見て、豚バラとカット野菜ぐらいしかなかったので、
メニューは回鍋肉にしてみた。 栞が野菜を切って、私が炒めた。水無月さんが準備をする。
なぜこんな風になったのかすごくおかしい。
私はここに仕事で来てるのに、なんだろう?
変な感じだ。 味の保証は……全員おいしいといてくれたので胸を下ろした。
一応料理が上手だからってあったので、
ここでおいしくないものを出してしまっては、仕事にならないから。
夜、別室のベッドに横になる。
シーツの匂いが違う。家じゃない。静かすぎて、私は少し考え事をしていた。
これがあってるかわからないけど、これから先私の運命が動き出したことを実感していた。
第一部 綾パート完結
止めても、指先が変に冷たい。画面を押した感触だけが残って、しばらく布団の中で動けなかった。
昨日、水無月さんに渡された名刺が枕元にある。
紙一枚なのに、重い。ただの紙なのに、これで私の生活が変わる気がした。
着替えの時も何だか落ち着かない。シャツのボタンを留める手が、やけに遅い。急いでるわけじゃないのに、早く終わらせたい気持ちだけが先に立つ。そして鞄に最低限の荷物を詰めた。
着替えて鞄に最低限の荷物を詰めた。それから、サッカーボールも持っていく。
外に出ると、夏の蒸し暑い空気が顔に張りついた。湿気が重たくて、息が少しだけ苦しい。汗が出る前から、胸の奥が落ち着かないのが、ずっと答えが出なくてとても嫌だった。
昼頃、黒いレクサスがアパート前に止まっていた。
私は外に出て、鞄を持ち替えた。
水無月さんが運転席から降りて、軽く頭を下げる。
「綿津見さん、お待たせしました。今日はよろしくお願いします」
「…よろしくお願いします」
水無月さんがドアを開けてくれて私は後部座席の方に入り込んだ。
ドアが閉まる音が、思ったより静かだった。
座るとシートがふわっと沈んで、柔らかさに一瞬だけ息が止まる。
レクサスって、名前だけは聞いたことあるけど、こんなに座り心地がいいとは思わなかった。
助手席が空いてるので、栞は来ていないみたいだった。
てっきり来ているものと思っていたから、少し驚いた。
車に入った瞬間「こんにちは、綾さん」ていうのを予想してたから。
シートベルトを締める。
水無月さんがミラー越しに一度だけ私を見て、「出しますね」と言った。
私は小さく頷いて、車が走り出す。
車がゆっくり動き出す。タイヤが転がる感じが足元から伝わって、体が少しだけシートに預けられる。
アパートの前を抜けて、窓の景色が少しずつ流れ始めた。秋子さんがバックミラー越しに私を見た。
「綿津見さん、返事は決まりましたか?」
私は窓の外を見たまま、
「……はい。夏休み限定で、お願いします」
「ありがとうございます。社長も喜びます」
短く答えて、静かに運転を続けた。
マンションに着き、そのまま案内で、エレベーターで栞の部屋まで向かった。
数字が上がっていくのを見ているだけなのに、やはり胸のざわつきがを感じる。
サッカーの試合とは違ったドキドキだった。
期待?不安?先ほどから私は少しおかしいと思う。
ここには仕事に来ただけ。それだけなんだから。
扉が開いて、部屋に入る。
栞がリビングのソファに座って待ってた。
立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「綾さん…来てくれたんだ」
栞の声が少し震えているように聞こえた。
私は鞄を置いて頭を下げる
「一月半ですが、働かせてもらいます。よろしくお願いします」
私は頭を上げると、栞が、ここ最近出会うと悲しそうな顔ばかりの栞が笑顔になっていた。
それだけでも私はここに来てよかったと思ってしまった。
「うん、ありがとう。本当にうれしい」
栞がキッチンから麦茶を持ってきて、隣に座る。
「まずは、ゆっくりして。明日から本格的に始まるね」
私は勧められた席に座りグラスを取った。
「…栞いえ、霧生さん」
名前を呼ぶと、栞が「ん?」って顔を上げる。
「ありがとう。助かります」
本当は、もっと言いたいことがあるのに、言葉が出なかった。
多分私の内情を知っていろいろ動いてくれたのに、こういう時どのような顔をして言えばいいのかわからなかった。
それでも栞は私が言いたいことがわかるのかという感じで満面の笑顔だった
「私の方こそ、綾さんがいてくれて、嬉しいよ。あと一応今まで通りで栞でいいからね」
「ですが……」
私はちらっと後ろに控えている水無月さんの顔を見た
「基本ありませんが、お仕事上で一緒に外に出る場合は霧生さんでお願いしますが、この空間での仕事の時は普段通りの口調で構いませんよ」
夕食はなぜか三人で一緒に作った。
冷蔵庫の中身を見て、豚バラとカット野菜ぐらいしかなかったので、
メニューは回鍋肉にしてみた。 栞が野菜を切って、私が炒めた。水無月さんが準備をする。
なぜこんな風になったのかすごくおかしい。
私はここに仕事で来てるのに、なんだろう?
変な感じだ。 味の保証は……全員おいしいといてくれたので胸を下ろした。
一応料理が上手だからってあったので、
ここでおいしくないものを出してしまっては、仕事にならないから。
夜、別室のベッドに横になる。
シーツの匂いが違う。家じゃない。静かすぎて、私は少し考え事をしていた。
これがあってるかわからないけど、これから先私の運命が動き出したことを実感していた。
第一部 綾パート完結
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