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第二章 のんびりとした日常
10話 私の誕生日
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誕生日当日。
朝、目を覚ました瞬間、胸の奥に小さな違和感が走った。いつもなら、眠気に負けてもう一度目を閉じるはずなのに、その日はすっと意識が浮かび上がる。
……静かすぎる。
ベッドの隣に手を伸ばして、はっとする。白雪様がいない。
いつもなら、ぎゅっと抱き寄せたまま、規則正しい寝息を立てているはずなのに。指先に触れたのは、体温のないシーツと、まだ少しだけ残っている温もりだけだった。まるで、ついさっきまでそこにいた証みたいに。
「……白雪様?」
小さく名前を呼びながら、体を起こす。部屋を見回しても、見慣れた銀色の髪はどこにも見えない。障子越しの朝の光が、静かに床を照らしているだけ。
耳を澄ますと、リビングの方からかすかな物音がした。でも、いつもよりずっと控えめで、忍ばせるような気配。
それと一緒に、ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐる。キッチンの方から漂ってくる、砂糖と生クリームの香り。
私はパジャマのまま、足音を立てないようにそっとドアを開けた。
リビングのテーブルの前に、白雪様が立っていた。
銀色の長い髪は、いつもより丁寧に三つ編みにされていて、きちんとまとめられている。普段の着物の上には、見覚えのあるエプロン。私のものだから、少し大きくて、袖口がぶかぶかだ。
真剣な横顔で、何かを整えている白雪様。その姿が新鮮で、思わず見とれてしまう。
私の気配に気づいた瞬間、白雪様はぱっと顔を上げた。次の瞬間、ぱあっと花が咲いたみたいに表情が明るくなる。
「綾! おはよう! ……誕生日おめでとう!!」
そのまま、弾むような足取りで駆け寄ってきて、勢いよくぎゅっと抱きついてくる。温かい腕と、懐かしい匂い。
「え……白雪様、どうして知ってるの?」
驚きで固まる私に、白雪様は少し誇らしげに、でもどこか照れくさそうに笑った。
「綾の誕生日、ちゃんと覚えてたよ!前から、こっそり準備してたの……」
そう言って、私の手を取る。少しひんやりしているけど、ぎゅっと力がこもっている。そのまま、テーブルの方へ引かれていく。テーブルの上には、
手作りのケーキが置かれていた。形は少しだけいびつで、クリームも完璧とは言えない。でも、赤いいちごがたくさん飾られていて、チョコペンで「綾へ♡」と丁寧に書かれている。その文字を見るだけで、胸がきゅっとなる。
ケーキの横には、小さな手作りのカード。白雪様は、少し緊張した表情でそれを差し出した。
「これ……綾に」
私はそっとカードを受け取って、開く。中には、丁寧で少し丸みのある、白雪様の字。
「綾へ誕生日おめでとう。綾と出会ってから、私の世界が変わったよ。毎日が楽しくて、温かくて、幸せで……これからも、ずっと一緒にいたい。白雪より」
最後には、小さな狐のイラスト。耳がぴょこんと立っていて、どこか白雪様にそっくりだった。文字を追ううちに、視界がにじむ。胸の奥が熱くなって、涙が溜まっていく。
「……白雪様、ありがとう」
声が少し震える。
それに気づいた白雪様は、慌てたように私の顔を覗き込んだ。
「綾、泣かないで……!サプライズ、失敗しちゃった?」
「違うよ……嬉しすぎて」
そう言って、私は白雪様を抱きしめた。白雪様はほっとしたように息を吐いて、私の背中を優しく撫でる。
「よかった……綾が喜んでくれて、私も嬉しい」
ケーキを切って、ふたりで並んで座る。白雪様はフォークで一口すくって、少し緊張した顔で私の方へ差し出した。
「綾、あーん」
言われるまま口を開けて、ぱくり。
「美味しい……白雪様が作ってくれたケーキ、最高」
そう言うと、白雪様は頬をほんのり赤くして、照れたように笑った。
「綾の好きな甘さにしたよ……生クリーム、少し多めにしちゃったけど」
「ちょうどいいよ」
ふたりでケーキを半分こして、コーヒーを飲みながら、ゆっくり話す。時間が穏やかに流れていく。
「白雪様、いつ準備してたの?」
「綾が学校行ってる間に、こっそり……昨日は夜中までケーキ焼いてたの。ちょっと焦げちゃったけど、綾に食べてもらいたくて」
「焦げてないよ……すごく美味しい」
白雪様は私の手を握って、指先を絡める。
「綾の誕生日、初めて祝えて……私、幸せすぎて、胸がきゅんきゅんする」
「私も……白雪様に祝ってもらえて、こんなに嬉しい誕生日、初めて」
プレゼントは、カードの他に小さな箱。開けると、中にはシルバーのネックレス。シンプルなチェーンに、小さな狐のチャームがついている。
「これ……私が作ったの。綾の誕生日プレゼントに、狐の分身を少しだけ、分けてみたんだ」
白雪様は照れくさそうに目を伏せる。
「これを着けてると、私の気持ちがいつも綾の近くにいるよ……」
私はネックレスを首にかけて、そっと触れる。
「ありがとう……大切にする」
白雪様は、私の首元に手を伸ばし、ネックレスを整えながら、そっとキスを落とした。
「綾……大好き」
「私も……白雪様、大好き」
誕生日ケーキを食べ終えて、ふたりでソファに座り、プレゼントの箱を抱きしめ合う。
白雪様は私の膝に頭を乗せて、安心したように目を細めた。
「綾の誕生日、これからも毎年祝いたい……」
「うん……一緒に、ずっと」
夕方まで、ふたりでごろごろしながら、 誕生日を祝ってくれた。
外は春の陽が優しく差し込んで、 部屋の中は甘いケーキの匂いと、白雪様の温もりで満ちていた。
朝、目を覚ました瞬間、胸の奥に小さな違和感が走った。いつもなら、眠気に負けてもう一度目を閉じるはずなのに、その日はすっと意識が浮かび上がる。
……静かすぎる。
ベッドの隣に手を伸ばして、はっとする。白雪様がいない。
いつもなら、ぎゅっと抱き寄せたまま、規則正しい寝息を立てているはずなのに。指先に触れたのは、体温のないシーツと、まだ少しだけ残っている温もりだけだった。まるで、ついさっきまでそこにいた証みたいに。
「……白雪様?」
小さく名前を呼びながら、体を起こす。部屋を見回しても、見慣れた銀色の髪はどこにも見えない。障子越しの朝の光が、静かに床を照らしているだけ。
耳を澄ますと、リビングの方からかすかな物音がした。でも、いつもよりずっと控えめで、忍ばせるような気配。
それと一緒に、ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐる。キッチンの方から漂ってくる、砂糖と生クリームの香り。
私はパジャマのまま、足音を立てないようにそっとドアを開けた。
リビングのテーブルの前に、白雪様が立っていた。
銀色の長い髪は、いつもより丁寧に三つ編みにされていて、きちんとまとめられている。普段の着物の上には、見覚えのあるエプロン。私のものだから、少し大きくて、袖口がぶかぶかだ。
真剣な横顔で、何かを整えている白雪様。その姿が新鮮で、思わず見とれてしまう。
私の気配に気づいた瞬間、白雪様はぱっと顔を上げた。次の瞬間、ぱあっと花が咲いたみたいに表情が明るくなる。
「綾! おはよう! ……誕生日おめでとう!!」
そのまま、弾むような足取りで駆け寄ってきて、勢いよくぎゅっと抱きついてくる。温かい腕と、懐かしい匂い。
「え……白雪様、どうして知ってるの?」
驚きで固まる私に、白雪様は少し誇らしげに、でもどこか照れくさそうに笑った。
「綾の誕生日、ちゃんと覚えてたよ!前から、こっそり準備してたの……」
そう言って、私の手を取る。少しひんやりしているけど、ぎゅっと力がこもっている。そのまま、テーブルの方へ引かれていく。テーブルの上には、
手作りのケーキが置かれていた。形は少しだけいびつで、クリームも完璧とは言えない。でも、赤いいちごがたくさん飾られていて、チョコペンで「綾へ♡」と丁寧に書かれている。その文字を見るだけで、胸がきゅっとなる。
ケーキの横には、小さな手作りのカード。白雪様は、少し緊張した表情でそれを差し出した。
「これ……綾に」
私はそっとカードを受け取って、開く。中には、丁寧で少し丸みのある、白雪様の字。
「綾へ誕生日おめでとう。綾と出会ってから、私の世界が変わったよ。毎日が楽しくて、温かくて、幸せで……これからも、ずっと一緒にいたい。白雪より」
最後には、小さな狐のイラスト。耳がぴょこんと立っていて、どこか白雪様にそっくりだった。文字を追ううちに、視界がにじむ。胸の奥が熱くなって、涙が溜まっていく。
「……白雪様、ありがとう」
声が少し震える。
それに気づいた白雪様は、慌てたように私の顔を覗き込んだ。
「綾、泣かないで……!サプライズ、失敗しちゃった?」
「違うよ……嬉しすぎて」
そう言って、私は白雪様を抱きしめた。白雪様はほっとしたように息を吐いて、私の背中を優しく撫でる。
「よかった……綾が喜んでくれて、私も嬉しい」
ケーキを切って、ふたりで並んで座る。白雪様はフォークで一口すくって、少し緊張した顔で私の方へ差し出した。
「綾、あーん」
言われるまま口を開けて、ぱくり。
「美味しい……白雪様が作ってくれたケーキ、最高」
そう言うと、白雪様は頬をほんのり赤くして、照れたように笑った。
「綾の好きな甘さにしたよ……生クリーム、少し多めにしちゃったけど」
「ちょうどいいよ」
ふたりでケーキを半分こして、コーヒーを飲みながら、ゆっくり話す。時間が穏やかに流れていく。
「白雪様、いつ準備してたの?」
「綾が学校行ってる間に、こっそり……昨日は夜中までケーキ焼いてたの。ちょっと焦げちゃったけど、綾に食べてもらいたくて」
「焦げてないよ……すごく美味しい」
白雪様は私の手を握って、指先を絡める。
「綾の誕生日、初めて祝えて……私、幸せすぎて、胸がきゅんきゅんする」
「私も……白雪様に祝ってもらえて、こんなに嬉しい誕生日、初めて」
プレゼントは、カードの他に小さな箱。開けると、中にはシルバーのネックレス。シンプルなチェーンに、小さな狐のチャームがついている。
「これ……私が作ったの。綾の誕生日プレゼントに、狐の分身を少しだけ、分けてみたんだ」
白雪様は照れくさそうに目を伏せる。
「これを着けてると、私の気持ちがいつも綾の近くにいるよ……」
私はネックレスを首にかけて、そっと触れる。
「ありがとう……大切にする」
白雪様は、私の首元に手を伸ばし、ネックレスを整えながら、そっとキスを落とした。
「綾……大好き」
「私も……白雪様、大好き」
誕生日ケーキを食べ終えて、ふたりでソファに座り、プレゼントの箱を抱きしめ合う。
白雪様は私の膝に頭を乗せて、安心したように目を細めた。
「綾の誕生日、これからも毎年祝いたい……」
「うん……一緒に、ずっと」
夕方まで、ふたりでごろごろしながら、 誕生日を祝ってくれた。
外は春の陽が優しく差し込んで、 部屋の中は甘いケーキの匂いと、白雪様の温もりで満ちていた。
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