雪に抱かれた愛

雪に抱かれた愛

　信じられない、信じたくない。
その言葉が何度も頭の中をぐるぐる回る。
信じない信じない信じない――
何度も何度も、無理矢理にでも頭を振って、その言葉を追い払おうとしたけれど、
どうしても、現実が頭に染み込んでくる。

　今朝、学校から電話があった。
その電話を取らなければよかったと、心の中で何度も後悔している。
「白石　深雪が、学校から飛び降り自殺をした」
――その言葉に、私は地面が崩れ落ちる感覚を覚えた。

　意識が薄れていくのを感じたが、ふと校長の声が耳に届き、私は辛うじて意識を取り戻した。
「あ、はい、大丈夫です…はい、白石さんのことはよく存じています。
色々と相談を受けていましたし、担任の先生にも言えない悩みを聞いていましたから…」
校長の言葉は確かに真実だが、どこかに嘘が混じっていた。
　
　昨日の放課後、深雪は保健室に来ていた。
いつもと違って、彼女は私に突然、キスをしてきた。
驚いたけれど、同時に心から幸せだと感じた。
わかっていた、ダメなことだと。
でも、私は彼女を愛していた。
なぜかはわからない、ただ、深雪が愛おしい。
それが愛だと、私は確信した。

　学校が休みになり、私はその喪失感の中で、何もできずに布団の中で過ごしていた。
それから、警察や教育委員会の人々が来て、私の話を聞かれた。
聞かれる度に、心の中で自分がどうしようもなくなっていく気がした。
でも、私は嘘をつかなかった。
自分の仕事に誇りを持っていたから、どんなに苦しくても、正直に話すしかなかった。

　そして、再出勤する前日に、学校から呼び出された。
会議室に入ると、そこには学校のトップやPTAの父兄、教育委員会の人々が集まっていた。
私一人が、まるで審判を受けるかのようにそこに座っていた。

　内容は私と深雪が付き合っていたこと。
それが問題になったのだ。
会話は理不尽に続き、私はどんどん追い詰められていった。

「一線を越えた」とか「無理やり迫った」とか、次々にこじつけられ、
まるで深雪が自殺したのは私のせいだとも言われた。
私は言葉を失うこともなく、ただ耐えるしかなかった。
確かにそうかもしれない……

　何時間も続いた話し合いの末、やっと解放された。
スマホを取り上げられ、私は一人になった。
深雪との思いでが全部取られてしまった。
私はどのようにして帰宅したのか覚えていなかった。

　自分の部屋でふとそれを見た。
デジカメで撮った写真が目に入り、私は大粒の涙を流した。

　翌日、私は学校に行かなかった。
無断で休み、深雪が行きたかった東京ディズニーランドに一人で行った。
その後、私は雪山に登り、ひとりで静かな夜を過ごすことに決めた。

　薬を飲み、深雪の名前が刻まれた日本酒を飲みながら、彼女の写真を握りしめた。
お酒はあまり強くないけれど、今はそれが心地よく感じられた。
そのまま眠くなり、私は夢の中へと沈んだ。

「貴女を愛しています」
そう心の中で繰り返しながら、私はゆっくりと目を閉じた。

「倫理観が間違っていてもいい、常識が違っていてもいい。
私は…白石　深雪を愛している。」

死後の世界なんてないかもしれない、
それでも、貴女に会えたことで私は幸せだったと、そう思っている。

最後に、雪が舞う中、私の意識は薄れていった。
その時、「ごめんなさい、先生」という声が耳に届いた。
それは、彼女の声だった。
その声に答えるように、私は静かに目を閉じながら、心の中で言った――
「私もごめんね、深雪」

深雪がしてくれた言葉、最後の願いを受け止めながら、
私はそのまま静かに目を閉じた。
そして、何も言わずに、深雪を愛していた想いだけを抱えて、静かに眠りについた。

　雪は舞い降り、私を優しく包み込み、そっと隠していった。
その後、山のふもとで、深雪の写真を大切に抱きしめた一人の女性が、ニュースで報道された。
私が最後に残したのは、ただ彼女を愛していた証だけだった。