梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】一章 bule drop(2年次10月頃~過去有)

bule drop -3-

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沢城邸にカードを届けにいった久我は、カードを出すと同時、 常に疑問に駆られる。

(何故、わざわざ盗むことを教えるカードを出す必要があるのか)

直に入った仕事で、自分たちが盗みに入るときは必ず盗む物と場所と時刻が記載されたカードをその場所に届ける指示が組織のリーダーから出されている。

盗む相手に教えればそれだけ相手は警戒し、警察も警備員も総出となる。
それにより一層盗みに入るのが難しくなるのだ。

(陽動なのか?俺たちは…)

何か裏で別の目的があるように思えた。
真の企図は、わからない。
組織の上層部だけが知っていることだろう。
聞いたところで教えてくれるはずもない。
自分たちは良い駒に過ぎないと思う。

(考えてもしかたない、か……)

カードは明日朝には人の目に触れ、メディアが注目することだろう。
10月に入って冷たくなった風が、久我の頬を撫ぜた。


その頃、姫坂はワークルームで1人パソコンと格闘していた。
ハッキング操作を得意とする姫坂は、沢城邸内にある美術館の管理センターのデータを盗みだしている最中であった。

「…死角が見つからない」

監視カメラの数が半端ないのだ。
それに加えて防犯レーザーが床全体と空間内に無数にしかれている。
美術館の主電源とは別口であり、ロックと監視カメラと防犯レーザーは それぞれ独立している。

監視カメラは全館で50台。
監視モニターは10台。
個人の所有する美術館においては、広さも所有物の価値においても日本屈指といえる規模を誇るのはしていたが、
まさかここまで厳重だとは思わなかった。
画像が映されて、次の画像に切り替わるまでが5秒。

(同じところにとどまることが出来るのは25秒、か)

防犯レーザーは触れれば直警備会社へ連絡がいく仕組みとなっている。
無造作に引かれているそのレーザー線をよけながら、さらに防犯カメラから逃げるのは至難の業である。
とりあえず地面に足が付いた時点でアウトであるのは確かだ。

(レーザーが厄介だな…これだったら白昼堂々盗んだほうがまだ楽だったかも。
一度に全ての電源を落とせるようにしておくには……だめだ、時間がかかりすぎる。)

セキュリティレベルがSになっている。
ちなみに組織のセキュリティ基準は、一般家庭用の大手警備会社システムをCランクとして、 下から、E、D、C、B、A、AA、AAA、Sと8段階に別れる。

セキュリティを解除するには時間がかかる。
決行までの2週間をそれだけに費やすわけにはいかない。

25秒という時間と防犯レーザーを考慮し、姫坂は使えそうなルートを探した。


「こっちはすんだ。そっちはどうだ?」
相方から背後に話しかけられて一瞬、ドキリとする。
どうやら集中しすぎたらしい。
ワークルームでの作業だからといって、人の気配に気がつかなかったのはいささか問題があったかもしれない。
ワークルームの入り口は2か所ある。だが、久我が背後にある扉の前に立っているということは、故意に気配を消したわけではなく、扉から普通に入ってきたのだろうから。

(きっとそれすらもばれてそう…)
相方の久我は、難関や危険になればなるほど楽しむ自分の悪い癖を良く知っている。
度が過ぎると必ず注意してくるが、そうでなければ放っておいてくれる、姫坂にとっては良い距離感だ。
今の内は、まだ許容範囲ってことだろう。

悟られぬように、何食わぬ顔で、姫坂は口を開いた。

「かなり難関だよ、普通には進めない。
使えそうなルートは3つかな」

パソコンを操作し、画面に透化した美術館全体図を映し出した。
小さなオレンジ色の点は防犯カメラを、緑の細線は防犯レーザーを表わしている。
黄色の実線、青の実線、ピンクの実線とが館内を走り、1つの目的地と交差しており、そこが“bule drop”の保管場所であった。

「なんだこれ…全て空中移動じゃないか。
他にやり方はないのか?…防犯レーザーが厄介だな」

「外部からのセキュリティ解除に2週間かけていいのならやってみるけど?」

「…否、これでいこう」


ルートが決まった2人は、早速開発班に調達の依頼をする。
依頼の仕方はいくつかあるが、今回至急を要するため、チャットやメールでなく姫坂は通話を選んだ。
姫坂が開発班へのやり取りのみ喜々として連絡をとりたがるのは、自分が欲しい商品があったら引かないためだ。
相方の久我だと、妥協することもある。基本、相手を尊重し我が儘を言わない男なのだ。

『催涙弾10個、催眠ガススプレー型が2つ、弾型が5つ。
他には?』
「壁移動が楽に出来るのがあると便利なんだけれど」
『重力を自在に変えるのはまだ研究段階だ』

「だよね…、じゃ、まぁそんな感じで。
あ、そうそう、それからグライダー1つ追加で」
『…………』

開発班の者が黙ると同時、 それは必要ないだろ、との久我の声が姫坂の耳に入る。
通話の相手にも聞こえたことだろう。

『だ、そうだが?』
「気にしない、僕の失敗でデータもとれたんでしょ?
在庫あるなら1つよこしてよ」

『懲りないな、お前も』
「ほめ言葉と受け取っておくよ、よろしく」

そういうと一方的に姫坂は電話を切ってしまった。
ため息をついた久我は、姫坂の“ため息つくなんて爺くさいよ”との言葉に、より老け込んだように思えたのだった。


*****
2人の容姿や最初の出会いについては、次のお話で詳しく語ります!
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