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【本編】一章 bule drop(2年次10月頃~過去有)
bule drop -10-
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「わーっ!追いつけないうちに発信機が消えたー!」
「なっ、あの発信機は特殊だぞ?特に繊維状のものはよほど訓練された者じゃないと気がつかないんじゃ―――」
無線機から聞こえてきた綾瀬の声と、追っていたレーダーの光が消えたのを同時に、鷹司が眉を顰めた。
そうそう見つかるものではないはずだ。
ならば、何故?
「伊織は具体的にどこで消えたか見えたか?俺は学校のあたりだった、としか…」
「俺もー。発信機の距離ギリギリだったからなあ、全っ然縮まんないんだもん!なんだよアレ!それに学校の近くとか動くのめちゃくちゃ気ー遣うじゃん」
(もしかすると―――窃盗班が関わっているのか?)
大我の養父であった沢城光太郎の婿養子が、沢城恵一。
沢城恵一は、現在沢城邸に住んでおり、美術館のオーナーを名乗っていた。
護衛の依頼は“護衛していることが沢城恵一にばれない様に動く”という条件が出されていた。
期限は未定。
そのかわり報酬は今までにないほどの高額だ。
依頼は大我の養父沢城光太郎の生前の意思で、その第一秘書小林誠司からだった。
自分が亡くなった時には、なにかあれば組織に頼むようにと言われていたらしい。
もとから組織とはつながりがあったようだ。資金援助をしてもらっているのだろう。
それはさておき、普段と異なるのは依頼主と依頼理由が明確な点である。
大我には両親がいない。
3歳のときに養護施設から引き取られた大我は、沢城光太郎のもとで暮らしてきたのだ。
光太郎は、実の孫のように大我をそれはそれは可愛がっていた。
光太郎が亡くなったのは、3ヶ月前のこと。持病の悪化とされているが、真相は分からない。
小林は、婿養子の沢城恵一が怪しいとふんでいるようだ。
恵一の会社は経営が上手くいっていない。
婿養子で入ったのにもかかわらず勝手に別会社を立ち上げ貿易に手を出していた。表向きはさておき、裏ではかなり悪評にまみれているらしい。
沢城光太郎の財産をあてに好き勝手やっているようだ。
しかし遺言通り、全ての財産は大我に引き継がれた。
大我は沢城恵一に引き取られたが、恵一自身は財産分与の対象にはならなかった。
大我の意思により、全財産は小林が管理している。
光太郎死後、沢城ホールディングスを表立って動かしているのも小林であった。
ただ、経営自体は、大我の方針を優先されている。たった小学生の、子供が、だ。
光太郎が大我を引き取った後に、沢城ホールディングスは急成長をとげている。
光太郎が大我を引き取ったわけを知るのは、小林とごく一部の会社の上層部だけである。
光太郎の死後、大我にはいつもSPが2人つけられていたが、 その2人は恵一が雇った人間である。表向きは警護であるが、真の目的は監視だった。
組織の人間は、肩書きを自由に変えることができる。
綾瀬と鷹司は美術館の警備員に紛れこみ、更に鷹司は大我の家庭教師を、 綾瀬はSPの人間に加わった。
“bule drop”が怪盗キッズに盗まれると知り、大我のSPを3人に増やしたのは恵一だった。
これを利用しない手はない。
綾瀬は恵一に実力で認められ、(その肩書きも若くして優秀であった) 持ち前の明るさと人懐こさから、大我にも気に入られた。
大我が綾瀬に懐いていることを知った恵一は、すっかり信用しきっていた。
綾瀬は裏で恵一が何をしているかを知る一方で、 大我からも貴重な情報を得ていた。
綾瀬が情報を得たところで、使い道は無いに等しい。
仕事はあくまで、大我の護衛、それだけであるからだ。
新聞で話題になっていた“bule drop”は沢城邸の美術館にある。
初めて盗みに失敗したらしいという知らせが先ほどスマホの新着で入ったのを思い出した。
鷹司も綾瀬の比ではないが、 組織の訓練によって一般人とはかけ離れた動体視力を持ち合わせている。
(あちらは派手にいつも動いているな、動いているというよりも動かされているといったほうが正しい、か)
冷静に考えてみれば、綾瀬の目を盗んで大我を奪うなんて芸当が出来るのはプロでもそういない。
が、同じ組織内の人間となれば話は別である。それも、あの〝怪盗キッズ″だ。
(窃盗班に連絡を取ってみるか…)
鷹司がスマホを手にすると、綾瀬は情けない声を上げた。
「えー、上の報告はもうちっと待ってみようよー」
その声に鷹司は軽く頭を振った。
「じゃなくて、久我たちに連絡とってみよう」
「でも、あっちはあっちで今大変なんじゃん?それにさ、姫はともかくさ、切羽詰ったときの久我、怖いじゃんか」
綾瀬の感想を聞きながら鷹司はスマホを操作する。
それを目に、綾瀬はげげっと声を上げた。
「マジでするの?やめとこーよ、真」
「大我が居なくなったのに関係しているかも知れないだろ?」
「そっかなー?それはないと思うけど。
もし仮に顔を見られたとしてもさ、連れ去るなんて馬鹿な真似2人ともしないよー」
もっともな綾瀬の言葉に、鷹司はそうだろうけれどもと内心で頷く。
しかし情報は多い方が良い。
綾瀬のわざとらしげなため息が響いた。
「なっ、あの発信機は特殊だぞ?特に繊維状のものはよほど訓練された者じゃないと気がつかないんじゃ―――」
無線機から聞こえてきた綾瀬の声と、追っていたレーダーの光が消えたのを同時に、鷹司が眉を顰めた。
そうそう見つかるものではないはずだ。
ならば、何故?
「伊織は具体的にどこで消えたか見えたか?俺は学校のあたりだった、としか…」
「俺もー。発信機の距離ギリギリだったからなあ、全っ然縮まんないんだもん!なんだよアレ!それに学校の近くとか動くのめちゃくちゃ気ー遣うじゃん」
(もしかすると―――窃盗班が関わっているのか?)
大我の養父であった沢城光太郎の婿養子が、沢城恵一。
沢城恵一は、現在沢城邸に住んでおり、美術館のオーナーを名乗っていた。
護衛の依頼は“護衛していることが沢城恵一にばれない様に動く”という条件が出されていた。
期限は未定。
そのかわり報酬は今までにないほどの高額だ。
依頼は大我の養父沢城光太郎の生前の意思で、その第一秘書小林誠司からだった。
自分が亡くなった時には、なにかあれば組織に頼むようにと言われていたらしい。
もとから組織とはつながりがあったようだ。資金援助をしてもらっているのだろう。
それはさておき、普段と異なるのは依頼主と依頼理由が明確な点である。
大我には両親がいない。
3歳のときに養護施設から引き取られた大我は、沢城光太郎のもとで暮らしてきたのだ。
光太郎は、実の孫のように大我をそれはそれは可愛がっていた。
光太郎が亡くなったのは、3ヶ月前のこと。持病の悪化とされているが、真相は分からない。
小林は、婿養子の沢城恵一が怪しいとふんでいるようだ。
恵一の会社は経営が上手くいっていない。
婿養子で入ったのにもかかわらず勝手に別会社を立ち上げ貿易に手を出していた。表向きはさておき、裏ではかなり悪評にまみれているらしい。
沢城光太郎の財産をあてに好き勝手やっているようだ。
しかし遺言通り、全ての財産は大我に引き継がれた。
大我は沢城恵一に引き取られたが、恵一自身は財産分与の対象にはならなかった。
大我の意思により、全財産は小林が管理している。
光太郎死後、沢城ホールディングスを表立って動かしているのも小林であった。
ただ、経営自体は、大我の方針を優先されている。たった小学生の、子供が、だ。
光太郎が大我を引き取った後に、沢城ホールディングスは急成長をとげている。
光太郎が大我を引き取ったわけを知るのは、小林とごく一部の会社の上層部だけである。
光太郎の死後、大我にはいつもSPが2人つけられていたが、 その2人は恵一が雇った人間である。表向きは警護であるが、真の目的は監視だった。
組織の人間は、肩書きを自由に変えることができる。
綾瀬と鷹司は美術館の警備員に紛れこみ、更に鷹司は大我の家庭教師を、 綾瀬はSPの人間に加わった。
“bule drop”が怪盗キッズに盗まれると知り、大我のSPを3人に増やしたのは恵一だった。
これを利用しない手はない。
綾瀬は恵一に実力で認められ、(その肩書きも若くして優秀であった) 持ち前の明るさと人懐こさから、大我にも気に入られた。
大我が綾瀬に懐いていることを知った恵一は、すっかり信用しきっていた。
綾瀬は裏で恵一が何をしているかを知る一方で、 大我からも貴重な情報を得ていた。
綾瀬が情報を得たところで、使い道は無いに等しい。
仕事はあくまで、大我の護衛、それだけであるからだ。
新聞で話題になっていた“bule drop”は沢城邸の美術館にある。
初めて盗みに失敗したらしいという知らせが先ほどスマホの新着で入ったのを思い出した。
鷹司も綾瀬の比ではないが、 組織の訓練によって一般人とはかけ離れた動体視力を持ち合わせている。
(あちらは派手にいつも動いているな、動いているというよりも動かされているといったほうが正しい、か)
冷静に考えてみれば、綾瀬の目を盗んで大我を奪うなんて芸当が出来るのはプロでもそういない。
が、同じ組織内の人間となれば話は別である。それも、あの〝怪盗キッズ″だ。
(窃盗班に連絡を取ってみるか…)
鷹司がスマホを手にすると、綾瀬は情けない声を上げた。
「えー、上の報告はもうちっと待ってみようよー」
その声に鷹司は軽く頭を振った。
「じゃなくて、久我たちに連絡とってみよう」
「でも、あっちはあっちで今大変なんじゃん?それにさ、姫はともかくさ、切羽詰ったときの久我、怖いじゃんか」
綾瀬の感想を聞きながら鷹司はスマホを操作する。
それを目に、綾瀬はげげっと声を上げた。
「マジでするの?やめとこーよ、真」
「大我が居なくなったのに関係しているかも知れないだろ?」
「そっかなー?それはないと思うけど。
もし仮に顔を見られたとしてもさ、連れ去るなんて馬鹿な真似2人ともしないよー」
もっともな綾瀬の言葉に、鷹司はそうだろうけれどもと内心で頷く。
しかし情報は多い方が良い。
綾瀬のわざとらしげなため息が響いた。
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