梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】一章 bule drop(2年次10月頃~過去有)

bule drop -11-

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『ところが、それをやってのけた馬鹿がいるんだよね』
「え?」
電話に出たのは久我じゃなく、姫坂だった。
久我のほうは、あいにく話し中で繋がらなかったのだ。
鷹司はそのまま姫坂の携帯に電話すると、1.5コールの早さでつかまった。

鷹司は、単刀直入に姫坂に問うたのだ。

護衛対象者の少年が目の前から消えてしまって、発信機も消えた。
場所は学校付近。
単独の仕事だし、姫坂達に聞くのはフェアじゃないと思うが、何か知らないか?
もちろん、連れ去るとか馬鹿なこと疑ってるわけじゃないけれど。

相手のあきれ声に、鷹司は思わず聞き返してしまった。

『やっぱり2人の発信機か。
組織のものに凄く似てるし、逆探知してみても全く手がかり0だったからびっくりしてたんだよね。
大我君の捜索願も出てないし、おかしいと思っていたんだ』

姫坂の声に、鷹司はほっとため息を吐いた。
事情を話すと、やっぱりと返ってきたからだ。
鷹司は、ほっと溜息をつく。

「ボタン型のはともかく、繊維状のものまで見つけられたから焦ったよ」
『ごめん、あの馬鹿がよりによって寮までつれてくる大胆行動にでたせいで迷惑かけたね』

逆側を耳につけて聞いていた綾瀬は、鷹司からスマホを奪い取った。
あ、という間もなく、早口で電話の相手に問うた。
こんな行動くらいで、鷹司は怒りもしないが。

「ってことは、大我、姫のとこにいんの?」

『居るよ、さっき一度起きたけれどまた寝たかな。
今から部屋に来なよ。
あの子を護衛しながら本来の仕事なんてこっちも出来ないからね、協力してもらおうとしていたところだったんだ』


(それにしても。
久我を馬鹿呼ばわりできるとはな―――、さすが姫坂だ)

内心で感心してしまう鷹司だった。



「おっじゃましまーす!」
「いらっしゃい」

扉の前で一度連絡をとった綾瀬と鷹司は、ほどなくして姫坂に迎えられた。
迎えることなく、奥からうるさいとだけ言葉をよこしたのは久我である。
鷹司はそれに対して謝罪をするが、姫坂と綾瀬はまったくもって気にしていないようだった。
時間にして23時。

4人は、室内からワークルームへと移動する。
ワークルームを見て、声を上げたのは、綾瀬だった。
「うっわー、なにこれ、姫ーやりすぎだってー」

以前綾瀬がこの部屋に入ったのは、まだ入学してすぐのことだった。
一年前、久我が転入する前に部屋の片づけを綾瀬は手伝ったが、その時は入っていなかった。
あっちは大丈夫なのか?と聞いたときに、向こうは平気だ、と言われたからだ。

入学から1年半ほど経っているが、よくもここまで揃えたな、と感心してしまう。
高そうなゆったりとしたソファをはじめ、机、武器棚、仕事着用のクローゼット、そして照明に至るまで全てがアンティーク調。
パソコン周辺の機器は最新で巨大モニターが3つ、そこだけ浮きそうにも関わらず、なぜか見事に部屋に馴染んでいた。
ところどころに置かれている小物やファブリック類がブルー系で、ただのアンティークというよりはファンタジーなゲームの世界を思わせるからだろうか。

「だって、前の居心地悪かったから」
「このほうが落ち着かないよ!」

「最初からこういうものだと聞いたが、違ったのか?」
「そんなわけないだろー、久我それ信じたの?」
「俺たちのワークルームは、見た目はあまり寮の部屋とかわらないかな」
久我の問いに、綾瀬がびっくりしたように問い返し、鷹司は落ち着かない様子で答えた。

「他のワークルームも似たり寄ったりだって言ってなかったか?」
「え?そうだった?」

久我の問いに、姫坂はコーヒーの入ったカップ2つと湯飲み2つを4人分用意してごまかす。
ごまかしにはなっていない、むしろ肯定しているようなものだ。
だが、こんなことで相方が怒らないのを知っているから、謝りもしない。
(悪いことしてるわけじゃないし…それに)
こころにない上辺だけの謝罪のほうが、久我にとって気分を悪くすると知っているからだ。
それに深く追究してこないならば、呆れはしてるかもしれないが、いつものことだ。
このままで特に問題ないのだろう。
姫坂は気にせず、
綾瀬の前にはあらかじめミルクと砂糖が入ったカップを置き、鷹司の前には砂糖とミルクはソーサーの横に置いた。
自分と相方の前には湯飲みを置く。
相方―――久我はその湯飲みを目にし、眉を顰めた。

「アンティーク調なのに赤じゃなくてブルー系なんだな…ゲームの世界みたいだ」
「まあね…」
鷹司のなにげない問いに、姫坂はあいまいに頷いた。

姫坂が苦手とするものは“赤い色”であった。
苦手どころじゃなく、時に過呼吸すら起こす。
それは、過去のトラウマである。
赤いもので視界を覆われると思い出したくもない過去の出来事がフラッシュバックとなって襲いかかるのだ。
視界を覆われなければ何の問題もないのだが、長時間直視することはさけている。
組織には報告していないが、赤い色が苦手なことを久我は知っていた。

だから食器や小物、食べ物に対しても赤いものは使われない。
久我もそのあたりはしっかりわきまえているよう姫坂の目には映った。
そこまでしなくても大丈夫だと思えるくらいに徹底していたからである。

パスタに使うタバスコですら、グリーンだ。

時々久我は馬鹿かと思うくらい姫坂に対して気を遣う。
かと思えば、互いのプライベートは干渉しないというのが暗黙のルールだった。
それは姫坂にとって居心地の悪いものじゃない。
むしろ過ごしやすかった。

(はじめはどうなるかと思ったけれど……)

こんな奴と生活するなんて絶対に無理だ、と思っていたのは姫坂だけじゃないだろう。
久我も久我でそう思っていた。
彼の場合、姫坂だからではなく、他人と共同生活をするのが―――という意味だが。

色々あったが、はじめて2回3回と、仕事をこなし、そのままずるずるとコンビは続いている。


「…か、姫坂!」
「あぁ、ごめん…なんだっけ?」

思いに耽っていた姫坂は、久我の言葉で我に返った。
鷹司や綾瀬は心配しているが、久我は大して気にしていなかった。
彼が思い耽っているとき、人の話を聞いていないのはよくあることだからだ。
端から見て表情が変わりないときは、大抵くだらないことでも思い出しているときだと久我は思っていた。

「…またくだらないことでも思い出してるんだろ。
なんで湯飲みにコーヒーなんだよ」

納得がいかないと口にする久我に、姫坂はもっともな答えを返した。
前者のくだらない云々は故意に無視をして。

「カップが2つしかないんだからしょうがないでしょ。
お客様に湯飲みでコーヒー出すわけにいかないじゃないか」

「………けどさ」
「なら、君が入れればよかったんじゃない?緑茶でもなんでもさ」
「お前が入れた方が美味いだろ?」

「………」

姫坂は思わず言葉を無くしてしまう。
こうやって、久我の言葉に詰まるのは今に始まったことじゃない、ことじゃないが。
さも当然、本心から久我は口にしている。
(この顔でこんなこと言われたら、たとえ男の僕だとしてもうわーってなるんだよ、もう!)
こんなかき乱される気持ちをきっと久我はわかっていないだろう。

(でも、こっちの2人はわかってくれそう)
現に、鷹司や綾瀬だって口をぽかんと開けている。

「君ね、そういうのは彼女に言った方が良いよ」
「そんな面倒なものいない」

「ほぇ~、さっすが久我」


「そ、そろそろ本題に入らないか?」

早く本題に入ろうと言い出したのは、 思いもよらない鷹司だった。
彼にしてみれば随分勇気ある行動である。
実際、胃がきりきりと痛んでいたのだけれども。
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