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【本編】三章 nuisance (2年次4月)
nuisance -3-
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怒りMAXな久我を、以前一度だけ姫坂は目にしている。
だが、それ以上に今の久我は怒っている様だった。
「君には分からないだろうね、そのルックスじゃ。
男娼なんていわれたことなんか無いだろうし、男に告白されたことも迫られたこともないだろうね」
「あぁ、分からないな、何でそこまで卑下するんだ?その理由が分からない」
「………」
久我は先ほどの仁村のようにどなるわけじゃなかった。
だが、姫坂にはふつふつと相手の怒りを感じた。
静かに怒っている様だった。
「俺は嘘をつくなって言ったはずだ。
それは、本音で言える相手でありたいからだ。
俺がいつ『面倒な奴と組まされて迷惑してる』なんて口にした?
この仕事に全くの不満がないわけじゃないけど、
少なくとも“上手くいっている”と思ってる。
パートナーに関しても、仕事の内容に関しても、だ。
お前の情報収集の速さには尊敬してる。
それ以上卑下するなら俺が許さない」
姫坂や仁村だけでなく、周りも静まり返る。
先ほどのおちゃらけた2人組みは、この展開を面白そうに見ていた。
「………君さ…」
「なんだよ?」
「よくそう、恥ずかしげもなく―――」
「本当のことしか言ってないだろ?それより、貸せよ」
姫坂の怒りがようやく凪いだところで久我は姫坂の測定用紙を取り上げた。
測定用紙に目を移すと健診はおろか、まだ半分も埋まっていない。
呆れるばかりである。
「ちょ、ちょっと、勝手に見ないでくれるかな?」
「なんだこれ、まだ半分も埋まってないのか。
ったく、しょうもない会話をしているからだろ」
「しょうがないだろ―――…君のも見せてよ、人のだけ見ておいて……っ!」
言葉をなくす姫坂に久我は視線だけよこした。
「なんだ?」
「なにこれ、殆どAランク?
持久力Sなんて初めて聞くよ、さすが毎朝10キロ走ってる奴は違うね、久我」
明らかに褒めているとは言えない口調の姫坂に久我はため息をつく。
だが、いつもの調子に戻ったようだ。
用紙をそのまま手にし、姫坂の退室を促す。
またこんなことがあってはこちらも疲れる。
久我は、自分だけ健診を行ってロビーで待つより、姫坂を各測定室にさっさと押し込んで終わらせた後、同時に健診を受けた方が早いという考えに至った。
「ちょっと、それどうするのさ?返してよ、僕の」
「お前一人で行かせたらいつになったら終わるかわかんないからな、測定室には俺が提出する。
ロビーで待つよりその方がずっと早そうだ」
「…悪かったね、油を売ってて」
「あぁ、ずいぶん安くて出来の悪い油を長時間売ってたな」
「っ……」
「行くぞ」
まわりがざわりと騒ぎ出した。
あの姫坂を宥めたと久我に話題が集中した。
扉に二人がさしかかったときだった。
仁村が、口を開いた。
姫坂ではなく、久我にである。
「久我って、まさか、久我正治?!」
「え?」
その言葉に反応したのは、久我もだが姫坂もだった。
姫坂は仁村と久我を交互に見やる。
久我は視線を自身の背後、仁村に向けた。
「っく、まさかあの天才テニス少年で有名な久我正治クンがこんなところにいるなんて思わなかったぜ?
なぁ?莫大な資産もけっちまって、右肩故障で再起不能!!
ははっ、愚かな野郎だぜ、運も無ぇな。
落ちるとこまで落ちたな、久我ぁ!」
「っ!」
「……な、なんでお前が怒るんだ……よ?」
動いたのは久我じゃなく姫坂だった。
相手の、仁村の胸ぐらを掴む。
口しか出していなかった姫坂が手を出したとあって、仁村だけじゃなく周りを驚かせた。
その手を、久我がはずさせる。
「よしておけ、相手にするだけ無駄だ」
「けどっ!」
「確かに落ちるところまで落ちたかもしれないが。
ここにいる時点でお前も同じだろう」
「……っ!!」
仁村が黙る。
久我の言葉は正しく、だからこそ黙らせるだけの威力があった。
「それに仕事に関しては“上手くいっている”
そういった点では、お前と違って恵まれているだろうな」
納得がいっていない様子の姫坂の背を追い出すように久我はその場を後にする。
押さないと今にも止まって戻りそうな相手を促しながら測定室へと歩く。
「君あんなこと言われて悔しくないの?!」
「いちいち相手にしなくても良いだろ?」
「だからってっ!!………っ―――……」
「どうした?」
「っなんでもないっ!」
「なら早く受けて来いよ、…残りは体力使うものばかりだな」
「…わかってるよ」
「因みに、今日健診を受けないとなると、明日以降は内診担当者がうちのグループの救護班になるそうだ。
終了時間まであと2時間だな、早く終わらせた方が良いんじゃないのか?」
「っ、行ってくる!」
姫坂はすぐさま測定室へと駆け込んだ。
だが、それ以上に今の久我は怒っている様だった。
「君には分からないだろうね、そのルックスじゃ。
男娼なんていわれたことなんか無いだろうし、男に告白されたことも迫られたこともないだろうね」
「あぁ、分からないな、何でそこまで卑下するんだ?その理由が分からない」
「………」
久我は先ほどの仁村のようにどなるわけじゃなかった。
だが、姫坂にはふつふつと相手の怒りを感じた。
静かに怒っている様だった。
「俺は嘘をつくなって言ったはずだ。
それは、本音で言える相手でありたいからだ。
俺がいつ『面倒な奴と組まされて迷惑してる』なんて口にした?
この仕事に全くの不満がないわけじゃないけど、
少なくとも“上手くいっている”と思ってる。
パートナーに関しても、仕事の内容に関しても、だ。
お前の情報収集の速さには尊敬してる。
それ以上卑下するなら俺が許さない」
姫坂や仁村だけでなく、周りも静まり返る。
先ほどのおちゃらけた2人組みは、この展開を面白そうに見ていた。
「………君さ…」
「なんだよ?」
「よくそう、恥ずかしげもなく―――」
「本当のことしか言ってないだろ?それより、貸せよ」
姫坂の怒りがようやく凪いだところで久我は姫坂の測定用紙を取り上げた。
測定用紙に目を移すと健診はおろか、まだ半分も埋まっていない。
呆れるばかりである。
「ちょ、ちょっと、勝手に見ないでくれるかな?」
「なんだこれ、まだ半分も埋まってないのか。
ったく、しょうもない会話をしているからだろ」
「しょうがないだろ―――…君のも見せてよ、人のだけ見ておいて……っ!」
言葉をなくす姫坂に久我は視線だけよこした。
「なんだ?」
「なにこれ、殆どAランク?
持久力Sなんて初めて聞くよ、さすが毎朝10キロ走ってる奴は違うね、久我」
明らかに褒めているとは言えない口調の姫坂に久我はため息をつく。
だが、いつもの調子に戻ったようだ。
用紙をそのまま手にし、姫坂の退室を促す。
またこんなことがあってはこちらも疲れる。
久我は、自分だけ健診を行ってロビーで待つより、姫坂を各測定室にさっさと押し込んで終わらせた後、同時に健診を受けた方が早いという考えに至った。
「ちょっと、それどうするのさ?返してよ、僕の」
「お前一人で行かせたらいつになったら終わるかわかんないからな、測定室には俺が提出する。
ロビーで待つよりその方がずっと早そうだ」
「…悪かったね、油を売ってて」
「あぁ、ずいぶん安くて出来の悪い油を長時間売ってたな」
「っ……」
「行くぞ」
まわりがざわりと騒ぎ出した。
あの姫坂を宥めたと久我に話題が集中した。
扉に二人がさしかかったときだった。
仁村が、口を開いた。
姫坂ではなく、久我にである。
「久我って、まさか、久我正治?!」
「え?」
その言葉に反応したのは、久我もだが姫坂もだった。
姫坂は仁村と久我を交互に見やる。
久我は視線を自身の背後、仁村に向けた。
「っく、まさかあの天才テニス少年で有名な久我正治クンがこんなところにいるなんて思わなかったぜ?
なぁ?莫大な資産もけっちまって、右肩故障で再起不能!!
ははっ、愚かな野郎だぜ、運も無ぇな。
落ちるとこまで落ちたな、久我ぁ!」
「っ!」
「……な、なんでお前が怒るんだ……よ?」
動いたのは久我じゃなく姫坂だった。
相手の、仁村の胸ぐらを掴む。
口しか出していなかった姫坂が手を出したとあって、仁村だけじゃなく周りを驚かせた。
その手を、久我がはずさせる。
「よしておけ、相手にするだけ無駄だ」
「けどっ!」
「確かに落ちるところまで落ちたかもしれないが。
ここにいる時点でお前も同じだろう」
「……っ!!」
仁村が黙る。
久我の言葉は正しく、だからこそ黙らせるだけの威力があった。
「それに仕事に関しては“上手くいっている”
そういった点では、お前と違って恵まれているだろうな」
納得がいっていない様子の姫坂の背を追い出すように久我はその場を後にする。
押さないと今にも止まって戻りそうな相手を促しながら測定室へと歩く。
「君あんなこと言われて悔しくないの?!」
「いちいち相手にしなくても良いだろ?」
「だからってっ!!………っ―――……」
「どうした?」
「っなんでもないっ!」
「なら早く受けて来いよ、…残りは体力使うものばかりだな」
「…わかってるよ」
「因みに、今日健診を受けないとなると、明日以降は内診担当者がうちのグループの救護班になるそうだ。
終了時間まであと2時間だな、早く終わらせた方が良いんじゃないのか?」
「っ、行ってくる!」
姫坂はすぐさま測定室へと駆け込んだ。
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