梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】三章 nuisance (2年次4月)

nuisance -2-

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「さっきの姫坂愛良だろ?」
「あー、あのやたら顔の綺麗な」

「仁村の奴、ひでぇこと言ってたな」
「けど、姫坂も負けてなかったぜ?」
「あれは見物し甲斐があったかもな、どっちが勝つか」

「馬ー鹿、んなんやってたらこの項目今日中に終わらねーって」
「ははっ、だなー」


(……遅かったか)
向い側からきたおちゃらけた2人組みの会話を耳に久我はため息をつきたくなる。
だが、とりあえず居場所だけでもわかりそうだ。

「なあ、その姫坂はどこにいたかわかるか?」
「ん?あぁ……まだあっち、健診受付前のロビーにいたぜ?な?」
「おぅ、…あれは関わらない方がいいぜ?当分終わらねぇだろうし、巻きぞい食うだけだ」

「何?お前あいつ狙い?よしといた方がいいぜ?
普通の男とは一味違うプライドの高さだ。
顔は綺麗でも男の中の男だな、あれは。
以前のパートナーは全滅だもんよ」
「そいうや、その噂、最近聞かないよな?」
「だな、今はどうしてんだろ。
あの調子じゃぁパートナーも無理だろうな、俺ならぜってーやってけねぇ~」

2人してげらげら笑うその状況に、自分の相方は随分な言われようだと(しかし、間違ってはいないだろうと)呆れたくなる。

「…俺がそのパートナーなんだが」
「げ、マジ?」
「嘘だろ?」
「一応、1年の秋からは続いてる」

「おぉ、すげー」
「やるじゃん、お前」

「先ほど問題起こす前に一緒に回れと知り合いに言われたんだけど。でも…遅かったみたいだ。
―――悪いけど、とりあえず先に行く」

「…頑張んなー」
「なぁ、とめられるかだけでも見てかね?」

「あー、面白そうだよな?そーすっか!」

久我は後ろからそんな言葉を聞きながらも、先を急ぐ。
少し行くと、確かに聞きなれた相方の冷ややかな声と、もう一人罵声を飛ばしているような声を交互に耳にすることになった。

足早にそちらへと向かう。
誰も止めないのなら、自分が止めるしかない。


「何してんだよ」

あたりがしんと、静まり返る。
普通にしていても、なにやら底知れぬ威圧感を与えると以前綾瀬に言われた久我だが、こんなときはその威圧感も役に立つ。

静まり返ったその場が、今度は久我の出現によってざわりと騒がしくなった。

姫坂は久我の出現に眉を顰める。
久我には以前のパートナーが何人いただとか、何故解消にいたったかなどなにも話してはいなかったのだ。
説明するのは躊躇われた。
男に迫られたなど、恥もいいところだ。

時間をさかのぼること1時間前。
姫坂は仁村を目にしたが、はじめは無視を決め込んでいた。
その前に春名も目にし、相手は手を振ってきたが無視をした。
春名に関しては肩を竦ませた後、苦笑いで通り過ぎていったが、ここではそうもいかなかった。

相手、仁村は妙にしつこい男だったのだ。


『姫坂じゃねぇか、久しぶりだな』
『………』

『なんだなんだ?無視かよ?
つれねぇーなぁ、以前のパートナーに向かってそれはねぇんじゃねぇかぁ、あ?
……っち、聞けよ!こいつ今までのパートナー全部1度の仕事で解消だぜ?
人のことその気にさせといて、ヤラせねぇんじゃ腹立つと思わねぇ?!』

業と大声を上げる仁村に、姫坂もいい加減頭にきたのだ。
プツン、と姫坂の中で切れたものがあった。

『勝手にその気になったのはそっちだろ?
嫌だなぁ、被害者面されちゃ。
たいがい迷惑なんだよね、ほっといてくれるかな』

余裕の笑みを浮かべながら述べる姫坂が、仁村の怒気を買うだけにいたったのは言うまでも無い。

『余裕こいてんじゃねぇぜ?
お前なんて力づくでいきゃ後ろからつっこんでアンアン言わせてやれんだ』
『冗談もそこまでくると面白くないよね。
その力づくでこれる勇気もなかった君に、今何を言われようとも痛くも痒くも無い』

二人の会話はどんどんエスカレートしていく。

『男娼になったらどうだよ?あ?
お前のとりえなんて見てくれだけじゃねぇか、中身は幻滅モノだもんよ、なぁ?!』
『この仕事で食べられなくなったらそれもいいかもね。
生憎無能な君とは違って、ハッキングの腕前が組織内1位を争っているから仕事が絶えないんだ。
中身も外も幻滅な君より救いがあって良かったよ、あぁ、ごめん、つい本当のこと言っちゃった』

『っぐっ……きさまぁ~っ!!』
『何?まだなにかあるの?
負けた奴が吠えても滑稽にしかみえないからやめておいたら?
ほら、君、見てくれも良くないから、これ以上周りから悪く思われたくないだろ?』

『その面、ぶっ壊してやるぜ。
無理矢理やりゃこっちのもんだしなぁ?そうだろ?!
泣いて懇願するまで尻の穴に突っ込んでやる!』

このような会話は姫坂が一番嫌気がさす会話だった。
更なるダメージを与えてやると姫坂は口を開く。
開いたその時。
相方である久我の出現によりそれがかなわなかった。

言われたままでは納得がいかないのが姫坂である。
怒りの矛先は、とめられた久我に移った。

「邪魔しないでくれるかな、君には関係ない」
冷ややかに述べるも、久我はそんな相方の態度など気にする男ではなかった。

「あぁ、お前がどこで誰とどうこうしてようと、俺には関係ないけどな。
けど、それはどこまで終わったんだよ?
2人同時に提出しろっていわれていたの、忘れたわけでは無いだろ?」

「あぁ、なら先に君渡して良いよ。僕があとからリーダーに謝っておくからさ。
それなら問題ないだろ?」

姫坂の怒りの矛先が自分に向いたことなど久我にはお見通しであった。
八つ当たりもいいところだが、他人に向けられるよりもはるかにましだと思っている。
他人に向けられる怒りよりも自分に向けられた怒りの方がこの場をなんとかする自信があった。

「今日終らせろよ。学校もある」
「煩い、僕に指図するな!
君もこの男とかわらないっ!
初めて組んだ相手が僕だもんね、面倒な奴と組まされて迷惑してるんだろ?
パートナー解消の申請だせば?通るかも―――」

「姫坂っ、いい加減にしろよ!」
「っ……」

今まで姫坂相手に久我が本気の怒りを見せたことは極稀である。
大抵姫坂が怒りをぶつけ、その内容は久我にとって呆れるものが多かったからそれらはあしらってこれた。
だが、今姫坂が口にした内容は久我の怒りを買うことになる。

姫坂は初めて久我の怒りを買い、言葉に詰まると同時に、驚きで目を丸くした。
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