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【本編】第四章 the past (2年次10月末・bule drop後)
the past -1-
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姫坂の朝のルーティンは、まず相方に起こされること3回目で渋々布団を抜け出しすところから始まる。
ぼんやりとした頭で、ベッドの上に座り込むこと10秒ほど。
目が閉じそうになるところで、頭の上にワイシャツが置かれ、制服一式が横に投げられるのだ。
「……眠い」
「寝る前にパソコン弄るからだ。早く寝て、朝やればいいだろ?」
「僕は君と違って夜の方が捗るんだよ」
「どーだか。早く着替えろよ?」
相方はその後、いつも簡易キッチンへと姿を消していく。
(そういえば、久我に着替えるところを見られることってないかも)
のろのろと着替えをしながら、姫坂はふと今までを思い出す。
同室になって約1年。
その間、姫坂は久我の着替えるところを目にしてはそのルックスに劣等感を感じることもしばしばあるが、
自分が着替えるところを見られていると感じたことはなかった。
何かと理由をつけて着替えを見られたり、ちらちらと視線をよこしてきたりした今までの相方とは違う。
仕事前では、作業をして背を向けていたりすることが多いし、朝はその場からいなくなる。
気にならなかったが、気にならなかったことがむしろ不思議なくらいだ。
「………不自然に感じないところが、不自然というか」
(春名あたりに何か聞いたのかもしれないな…)
あのお節介な糸目の関西弁のことだ。
相方変更の多い自分に、久我に理由を話したかもしれない。
シャツとズボンを着終わったころに、はちみつがけのトースト半分、たまご、ヨーグルト、グリーンサラダ、リンゴジュースがのったトレイが運ばれてきて、部屋の中央にある小さなダイニングテーブルに置かれる。
因みに、部屋の間取りは、久我が来る前に綾瀬の勧めで大改造した。
部屋は縦長で12帖ある。
奥が窓際で小さいがバルコニーがあり、真っ白で丸い小さなテーブルと椅子がひとつずつある。
これは、どこの部屋も同じ広さで、同じ形だ。欠員がでないかぎり2人部屋だ。
本棚を衝立に、窓際の奥が姫坂のスペースで、手前の出入り口側が久我のスペースになっている。
本棚の横に小さなダイニングテーブルがある。椅子はない。
このテーブルを使う時は、デスク用の椅子を使用している。
ベッドは一番奥のバルコニー横の壁際と、出入り口に近いドアの横、対角線上に配置している。
ダイニングテーブル以外は、お互いプライベートの空間が出来るような作りだ。
以前は、窓際近くの壁際に机、その横に本棚、ベッド、クローゼットと続き、左右対称の配置だった。部屋の中央にまるまるスペースがあり、この配置は最初からのもので、大抵の部屋はこの配置になっている。
『姫ー、前から思ってたけどさ、部屋真ん中から奥と手前に分けたほうがいいんじゃない?そうしてる奴もいるよ?』
『けど、そしたらどちらかが窓際独り占めになるでしょ?』
『そんなの、姫が窓際使えばいいじゃん。あとからくる奴の方が姫より絶対早く起きるだろうし、ケチ付けるんだったらそんときはそんときだよ』
それもそうだな、と姫坂は綾瀬の勧めでその配置にした。
動かす際、こっそり組織の開発部が作った手袋、リフターグローブをふたりして使用したので楽々動かすことに成功。
この手袋があれば、重いものを軽々と動かすことが出来るのだ。
一体、どういう仕組みなのかわからないが、A班の開発部が作った手袋だ。
窃盗班である姫坂は、発売してすぐに購入した。
『えー、こんなんあるの?すごい便利じゃん!俺も欲しいー、真に相談してみよ』
綾瀬が興奮しながら使うくらいには、出来のいいものなのだ。
この部屋の間取りを見た時の久我の反応は、姫坂にとって拍子抜けするほどだった。
『奥が僕で、手前が君のスペース。バルコニーは、小さいけどテーブルと椅子があるんだ。
使う時は勝手に通って使って、僕は使ってないから。
バルコニーの窓は防音効いてるけど、普通に開けてる人もいるから意外と煩いし』
『奥がバルコニーなのか?』
『そうだけど……、窓際が良かった?』
『や、出られることに驚いただけだ。俺は朝走るから、出入り口に近い方が助かる』
(バルコニーになってるのはその方が仕事の時に抜け出しやすいから、だろうなあ、きっと)
雛鳥たちにとってはその方が楽だ。
わざわざワイヤーを使わずとも、バルコニーを伝って出入りできるのはありがたい。
実際姫坂も相方も仕事時はこちらもよく使用する。
デスク用のキャスター付きの椅子に座り、トレイに目を落とす。
今日の卵はスクランブルエッグらしい。
「ねー、毎朝大変じゃない?」
お気に入りのリンゴジュースを一口飲んでから、姫坂は相方に声をかけた。
姫坂は、久我の来る前まで、朝はリンゴジュースだけで済ませていた。
昼は弁当かパンを買い綾瀬たちと共にするが、夜は通販購入したブロックタイプの栄養食ですませるか、こっそり出歩くかしていて食堂はほぼ利用しない。
食堂はじろじろと見られることが多いし、頻繁に赤い液体物が目に入るから困る。
最初は、夜だけは作ることもあった。
だがそれをすると、俺のも作ってくれ、はたまた今夜はこれが食べたいだの色々と注文が入り、さらに毎日一緒に食べようとする上になにやら勘違いする相方が2人続いたため3人目で辞めた。
ストレスが異常に溜まったのは言うまでもない。
「そう思うなら一度で起きてくれよ」
心底呆れたようにそう言って、トレイの横にランチクロスに包まれた弁当が、トンと置かれる。
箸箱まで刺さっている。
「そうじゃなくて!毎朝これもそれも大変じゃないのかって話だよ!」
トレイと弁当を指さし、姫坂は久我を睨みつけた。
そんな風に姫坂が睨んでも、久我は表情を変えない。
「またそれか。何度も言うけど、自分と同じものを2つ作るくらい別に手間じゃない。
夜だって交代で作ってるだろ?それに、弁当のメインは昨夜お前が作った唐揚げだ。
口答えより、その口に飯を運べよ、飯を」
「………」
しかめっ面でトーストを頬張る姫坂を確認してから、久我はコーヒー片手に自分のデスクで新聞に目を通し始めた。
久我は、寮に入ってから3日間は食堂を利用していた。
だが、もともと煩いのが好きじゃない上に決まられた時間内に済ませるということに窮屈さを感じ、4日目からは自炊となった。
一緒につるむようになった葉室要と王寺優成が食堂を利用せず自炊派だったこともあり、その方が自分も精神的に楽だと倣うことにしたのだ。
そして、5日目に相方、姫坂の食事事情を知り、叱り飛ばして今に至る。
「あ」
気が付いたように、久我が姫坂に目を向けた。
珍しいこともあるものだと、姫坂は久我を見やる。
「何?」
「そろそろ、はちみつ切れる」
「わかった。買っとく」
「そうしてくれ」
そういって、また新聞に目を落としてコーヒーを飲み始めた。
この部屋にテレビはない。テレビはないが、テレビや新聞はスマホで見てもいいんだし、大体の生徒はそうしている。
新聞を取る方が珍しいし、取っている生徒もいるがごく一部だ。
コーヒーもコーヒーだ。朝からしっかりドリッパーで注いでいる。
豆からひいたわけじゃないというが、ドリップ式のコーヒーパックでもインスタントでもない。
朝から10キロ走りこみ、シャワーを浴びて、食事も弁当も作った上で、これだ。
(どこからそんなやる気と余裕がくるのか、本当、謎だよね)
程よいと感じる距離感にはとても助かっているが、相方への理解に共感できない姫坂だった。
ぼんやりとした頭で、ベッドの上に座り込むこと10秒ほど。
目が閉じそうになるところで、頭の上にワイシャツが置かれ、制服一式が横に投げられるのだ。
「……眠い」
「寝る前にパソコン弄るからだ。早く寝て、朝やればいいだろ?」
「僕は君と違って夜の方が捗るんだよ」
「どーだか。早く着替えろよ?」
相方はその後、いつも簡易キッチンへと姿を消していく。
(そういえば、久我に着替えるところを見られることってないかも)
のろのろと着替えをしながら、姫坂はふと今までを思い出す。
同室になって約1年。
その間、姫坂は久我の着替えるところを目にしてはそのルックスに劣等感を感じることもしばしばあるが、
自分が着替えるところを見られていると感じたことはなかった。
何かと理由をつけて着替えを見られたり、ちらちらと視線をよこしてきたりした今までの相方とは違う。
仕事前では、作業をして背を向けていたりすることが多いし、朝はその場からいなくなる。
気にならなかったが、気にならなかったことがむしろ不思議なくらいだ。
「………不自然に感じないところが、不自然というか」
(春名あたりに何か聞いたのかもしれないな…)
あのお節介な糸目の関西弁のことだ。
相方変更の多い自分に、久我に理由を話したかもしれない。
シャツとズボンを着終わったころに、はちみつがけのトースト半分、たまご、ヨーグルト、グリーンサラダ、リンゴジュースがのったトレイが運ばれてきて、部屋の中央にある小さなダイニングテーブルに置かれる。
因みに、部屋の間取りは、久我が来る前に綾瀬の勧めで大改造した。
部屋は縦長で12帖ある。
奥が窓際で小さいがバルコニーがあり、真っ白で丸い小さなテーブルと椅子がひとつずつある。
これは、どこの部屋も同じ広さで、同じ形だ。欠員がでないかぎり2人部屋だ。
本棚を衝立に、窓際の奥が姫坂のスペースで、手前の出入り口側が久我のスペースになっている。
本棚の横に小さなダイニングテーブルがある。椅子はない。
このテーブルを使う時は、デスク用の椅子を使用している。
ベッドは一番奥のバルコニー横の壁際と、出入り口に近いドアの横、対角線上に配置している。
ダイニングテーブル以外は、お互いプライベートの空間が出来るような作りだ。
以前は、窓際近くの壁際に机、その横に本棚、ベッド、クローゼットと続き、左右対称の配置だった。部屋の中央にまるまるスペースがあり、この配置は最初からのもので、大抵の部屋はこの配置になっている。
『姫ー、前から思ってたけどさ、部屋真ん中から奥と手前に分けたほうがいいんじゃない?そうしてる奴もいるよ?』
『けど、そしたらどちらかが窓際独り占めになるでしょ?』
『そんなの、姫が窓際使えばいいじゃん。あとからくる奴の方が姫より絶対早く起きるだろうし、ケチ付けるんだったらそんときはそんときだよ』
それもそうだな、と姫坂は綾瀬の勧めでその配置にした。
動かす際、こっそり組織の開発部が作った手袋、リフターグローブをふたりして使用したので楽々動かすことに成功。
この手袋があれば、重いものを軽々と動かすことが出来るのだ。
一体、どういう仕組みなのかわからないが、A班の開発部が作った手袋だ。
窃盗班である姫坂は、発売してすぐに購入した。
『えー、こんなんあるの?すごい便利じゃん!俺も欲しいー、真に相談してみよ』
綾瀬が興奮しながら使うくらいには、出来のいいものなのだ。
この部屋の間取りを見た時の久我の反応は、姫坂にとって拍子抜けするほどだった。
『奥が僕で、手前が君のスペース。バルコニーは、小さいけどテーブルと椅子があるんだ。
使う時は勝手に通って使って、僕は使ってないから。
バルコニーの窓は防音効いてるけど、普通に開けてる人もいるから意外と煩いし』
『奥がバルコニーなのか?』
『そうだけど……、窓際が良かった?』
『や、出られることに驚いただけだ。俺は朝走るから、出入り口に近い方が助かる』
(バルコニーになってるのはその方が仕事の時に抜け出しやすいから、だろうなあ、きっと)
雛鳥たちにとってはその方が楽だ。
わざわざワイヤーを使わずとも、バルコニーを伝って出入りできるのはありがたい。
実際姫坂も相方も仕事時はこちらもよく使用する。
デスク用のキャスター付きの椅子に座り、トレイに目を落とす。
今日の卵はスクランブルエッグらしい。
「ねー、毎朝大変じゃない?」
お気に入りのリンゴジュースを一口飲んでから、姫坂は相方に声をかけた。
姫坂は、久我の来る前まで、朝はリンゴジュースだけで済ませていた。
昼は弁当かパンを買い綾瀬たちと共にするが、夜は通販購入したブロックタイプの栄養食ですませるか、こっそり出歩くかしていて食堂はほぼ利用しない。
食堂はじろじろと見られることが多いし、頻繁に赤い液体物が目に入るから困る。
最初は、夜だけは作ることもあった。
だがそれをすると、俺のも作ってくれ、はたまた今夜はこれが食べたいだの色々と注文が入り、さらに毎日一緒に食べようとする上になにやら勘違いする相方が2人続いたため3人目で辞めた。
ストレスが異常に溜まったのは言うまでもない。
「そう思うなら一度で起きてくれよ」
心底呆れたようにそう言って、トレイの横にランチクロスに包まれた弁当が、トンと置かれる。
箸箱まで刺さっている。
「そうじゃなくて!毎朝これもそれも大変じゃないのかって話だよ!」
トレイと弁当を指さし、姫坂は久我を睨みつけた。
そんな風に姫坂が睨んでも、久我は表情を変えない。
「またそれか。何度も言うけど、自分と同じものを2つ作るくらい別に手間じゃない。
夜だって交代で作ってるだろ?それに、弁当のメインは昨夜お前が作った唐揚げだ。
口答えより、その口に飯を運べよ、飯を」
「………」
しかめっ面でトーストを頬張る姫坂を確認してから、久我はコーヒー片手に自分のデスクで新聞に目を通し始めた。
久我は、寮に入ってから3日間は食堂を利用していた。
だが、もともと煩いのが好きじゃない上に決まられた時間内に済ませるということに窮屈さを感じ、4日目からは自炊となった。
一緒につるむようになった葉室要と王寺優成が食堂を利用せず自炊派だったこともあり、その方が自分も精神的に楽だと倣うことにしたのだ。
そして、5日目に相方、姫坂の食事事情を知り、叱り飛ばして今に至る。
「あ」
気が付いたように、久我が姫坂に目を向けた。
珍しいこともあるものだと、姫坂は久我を見やる。
「何?」
「そろそろ、はちみつ切れる」
「わかった。買っとく」
「そうしてくれ」
そういって、また新聞に目を落としてコーヒーを飲み始めた。
この部屋にテレビはない。テレビはないが、テレビや新聞はスマホで見てもいいんだし、大体の生徒はそうしている。
新聞を取る方が珍しいし、取っている生徒もいるがごく一部だ。
コーヒーもコーヒーだ。朝からしっかりドリッパーで注いでいる。
豆からひいたわけじゃないというが、ドリップ式のコーヒーパックでもインスタントでもない。
朝から10キロ走りこみ、シャワーを浴びて、食事も弁当も作った上で、これだ。
(どこからそんなやる気と余裕がくるのか、本当、謎だよね)
程よいと感じる距離感にはとても助かっているが、相方への理解に共感できない姫坂だった。
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