梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】第四章 the past (2年次10月末・bule drop後)

the past -2-

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一方、久我も久我で、相方、姫坂のこだわりについては、おおよそ共感できるものではないと思っている。
赤いものが駄目だというのはわかった。
理由は知らないが、血が駄目だと、あんな真っ青な顔をして言われたら絶対に避けなければならないくらいは。

『赤いものは駄目だから、極力避けてほしい。小物とか文房具とかは…そういうのならいいけど、液体は絶対やめて、トマトジュースとかほんと無理だから、絶対ね』
『は?赤いもの?…トマトが嫌いとかじゃなくて?』
『色が駄目なんだ。血が、駄目』
『…わかった。気を付ける』

それは、わかった、理解した。
だが、赤いのが苦手なのにりんごが好きというのもよくわからないし、トーストのこだわりも理解はしたが全く共感できない。
イチゴジャムは赤いから駄目は、まだわかる。
だけど、ママレードは苦いから好きじゃない、りんごジュースを飲むからリンゴジャムは微妙。
チョコレートは好きだけど、ビターが好き、液体のチョコは甘すぎて好きじゃない。
ピーナッツは好きだけど、ピーナッツバターは好きじゃない。
朝から肉は食べられないからベーコンとかいらないし、第一、パンは甘い方がいい。
これで、どうしろと?と思ったが、はちみつかな、というのでそれに従うことにした。

そのことを久我が王寺に話したときの反応は、大笑いされただけだ。
勿論、血が駄目だとか色が駄目だとかは姫坂のプライベートなので端折って一切伝えていない。
『は?俺も大概だけど姫坂もひでぇな!』

自分も大概だ、というところが王寺らしい。
因みに久我は、王寺のことを優成、と名前で呼んでいる。
王寺と呼ばれるのが嫌いだから、と言われれば、そうか、と応えるのみだ。
まあ、陰口で王子様、とコソコソ話されているのをガンを飛ばす様を見れば、なるほど納得がきく。
王子様、と言いたいのもなんとなくわかるが、王子様というより中身は王様だと久我は思っている。
久我にとって、下心なく自分に遠慮がない態度なのは、新鮮にも楽だ。

特異体質を知ったところで、気味がられることも、あてにされたり利用されることもない。
むしろ、心配された。
それに対しては、姫坂もだが。

久我の特異体質というのは、記憶力が異常に良い、というものだった。
一度見たものや聞いたものは忘れない。
それこそ、忘れたくても忘れられないくらいに、記憶力が良い。
組織のテストでは、記憶力はSをたたき出しているが、記憶力テストでSというのは一定数いる。
組織には記憶力のことはとくに報告していないので、記憶力は優秀だ、くらいに思われているだろう。
だが、久我の場合、異常なのだ。
現在異常さを知っているのは、久我が知る限り、姫坂、王寺、春名、秋元の4人だ。

通常それを聞いたら、便利だとかテストが楽だとかノートがいらないだとかうらやましいと思われるか、
ぽろっと話題に出したことだったのに覚えているなんて自分に気があるんじゃないかと思われるか、
そんな小さなことまで覚えてるなんて細かい男だと思われるか、の3パターンだった。

春名と秋元も、2人して、へー、くらいにしか反応しなかったところを見ると、一般的な反応とは言い難い。

久我が、最初に自ら口にしたのは、姫坂へだった。
ワークルームは半地下になっていて、その入り口は2か所あり、部屋のフローリングの床下に1つと、脱衣所の奥の壁に1つある。
開閉は特殊で、脱衣所の方が正規の入り口となっている。
洗面台の扉を開くと、一部に指紋認証機能が付いており、それが発動すると同時鏡に映った顔から、虹彩認証が発動するものだ。
こちらは壁の一部が扉になって開き、数段の階段を下りた後、ワークルームの扉へとつながっている。
部屋のフローリングの床下は、より複雑で、本棚にある一部の本を抜き差しし、特定の場所に正しく入れ替えた後、キーとなっている本のページに
もう一方のキーである栞を挟み、正しい位置に差し込むと開く、というものだ。
メモにも残せないし、もちろんスマホにももちろん残せない。
頭で覚えてもらうしかないのだが、今までの相方達は、姫坂が何度言ってもフローリングの床下は覚えてもらえず、何度も聞き返されてそのたびに実践するが、使われたためしがなかった。
一回しかやらないから、と前置き、姫坂は以前の相方たちには決してやらなかった態度で、さくさく本を移動させた。
いけ好かない態度の久我が困ればいいと思ったので、意趣返しの意味も含んでいた。
別の本に挟んであるキーである栞を抜き取り、キーとなっている本のページに挟みこみ、所定の棚に戻して、床下の扉を開いて見せた。
床下が開き、3段ほどの階段が現れる。奥に進むと、ワークルームの天井から入れるのだ。
それを見た久我は、わかった、と一言言っただけで、本当に分かったのか実際やってもらって手際よくできたので、記憶力良いんだね、くらいに思った。

問題は、その数日後だった。
『…姫坂、今日、本棚弄ったか?』
『え?弄ってないけど?』
『これと、これと、これ、あと、、、これもだな、少しだけ朝より奥まってる。それと、俺の机にあるノートと文房具の位置も若干違う。
姫坂はそういうことしないって思うが、誰か来たのか?』

『あ…ごめん、多分、ノートの方は西園寺だと思う。そっち久我のスペースだから触らないように言ったんだけど、逆効果だったかも』
『なるほど。で、本棚は?』
『んー……わからない。一緒にきた八尋は断りなくそんなことしないし。でも、それ君の勘違いとかないの?』
『ない。記憶力に関しては信用してくれ』
『すごい自信だね』
『まあな。一度見たものは絶対に忘れない。忘れたくても忘れられないくらいには良いから』
『は?』
『だから、そういう体質だってこと』
『うそでしょ?』
『本当だ。なんなら組織の規則概要、そらで一字一句間違えずに全部言えるぞ』
『それって…凄く生きづらくない?』
『さあ?これが俺の普通だから、実感したことないけど』

こんなことがあったのだ。
因みに、結局本棚の問題はその後わからなかったのだが、仕方なくキーを新たに作り直すことにした。
これは姫坂にとって、誤算だった。新しく覚えるのに苦労したのだ。
またこんなことがあっては困る、と、姫坂は、久我に了承を得たうえで、本棚の上に監視カメラを設置した。
自分たちがいないときだけ発動させるものだ。
その後、そういったことはなかったが、なぞはなぞのまま残されていて、久我にとっても姫坂にとっても小さな棘がささったままだった。
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