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【本編】第四章 the past (2年次10月末・bule drop後)
the past -6-
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綾瀬のスマホに久我から連絡が入ったのは、授業が終わってすぐだった。
久我はリーダーに連絡を取り、車を呼んだらしい。
まもなく組織に用意されたダミーの母親が姫坂の元へやってくるだろう。
姫坂の状態はあまり良い状態でないようだ。
「姫坂の奴、どうだったって?」
「うん、意識戻ったけど、念のため母親が迎えにきてそのまま一緒に病院行ったみたい」
嘘は苦手な綾瀬だが、この程度は顔色を変えずにすらすらと言えるようになってしまった。
実際は、すでに寮に戻っていることだろう。
姫坂に何があったのか、綾瀬には今一状況がつかめていなかった。
けれども、久我なら分かっているかもしれない、と思う。
姫坂とパートナーになって1年、久我は、自分よりもきっと近い場所にいるはずだ。
(姫があんな風になるなんてーーー)
今まで見たこともなかった。
綾瀬の知る姫坂は、大抵に穏やかに笑っていて、時々文句を言ったり、怒ったりして。
だから綾瀬は姫坂が組織に入っていると知ってびっくりしたのだ。
今思えば、姫坂は過去にふれないし、どんな暮らしをしているのかなど 生活についてもふれることはなかった。
そういう話を持ち出さないし、また相手にも話題にならないよう気をつけているみたいだった。
綾瀬はうっかり通っていた中学の話や住んでいる場所の話題になったりで内心ひやひやしながらごまかすことが多かったが、
姫坂はそういう状況にすらならないようにしているというのだがら凄い。
久我のようにあまり話をしないというのなら別だが、姫坂は綾瀬や西園寺、八尋以外の他の生徒にもよく話しかけられる。
大抵が聞き役に徹するというが、そこからアドバイスをすることも少なくない。
“あいつはある意味大物だ”と言っていた久我の言葉を綾瀬は思い出した。
あの独特の威圧感がある久我ともう1年も一緒に生活して仕事までこなしているんだから、確かに大物なんだろうと思う綾瀬だった。
「やっほい、きたよん」
『あぁ、今開ける』
「姫の具合、どう?」
「たいしたことはないと思うが、念のため先ほどまで救護班に来てもらっていた。
心因性のものだろうから、身体的には問題ないらしい」
「そっか…あ、コレ、お見舞い、久我と姫の分。
ワックの新作。
今日2人で行こうって言ってたんだ」
「………ありがとな」
複雑そうな顔で礼を言う久我の心境は、 綾瀬の言葉よりも、渡された食べ物についてだ。
久我はジャンクフードはあまり好まない。
「ここで食べていー?」
「ああ、テーブル使ってくれ」
「おっけー」
久我は嬉々として食べ始める綾瀬を横目に軽くため息をつくと、簡易キッチンへと向かい、コーヒーを2つ用意し、その1つを相手に差し出した。
目の前には座らずに、デスク近くの自分の椅子へと腰を下ろす。
朝食時の姫坂と、同じ距離だ。
「さんきゅ」
「それで、一応確認しておきたいんだけど」
何を、とは聞かなくても分かる。
久我は言葉が足りないところがあるが、周りにいる者は足りない言葉を読み取って自身で解釈出来る人間だった。
姫坂はそんなことで疲れはしないし(呆れはするが)綾瀬は鈍感だからか、全く気にした風もない。
鷹司に限っては、疲れもするがそういう人間だと知っても尚プライベートな話をするくらいだから相手の性格を割り切っているのだろう。
まぁ、鷹司は綾瀬以外の人間と話すのは多かれ少なかれ疲れるのだが。
「んー、俺もよくわかんないんだよね。
暗幕が落ちてきたのは確かだけれど、どこから落ちてきたのか、誰が落としたのか。
場所から言って音楽室か地学室だと思ってさ、とりあえず授業終わった後確認しに行ったんだけれど暗幕はずれてる教室なんてなかったし」
「…2人とも落ちてくるまで気がつかなかったのか?
話に気をとられていたとしても、普通気配で気がつくだろ?」
久我の言うことはもっともだった。
一般人がやることだったら普通は気がつく。
組織の人間であるものならば、人の気配にも意識にも敏感だ。
しかし、これは故意にやったという場合だ。
場所が遠ければ人の気配は他人にとけ込んでしまうし、自分たちに向けられていない意識を感じ取るのは難しい。
学校ならなおさらだ。
「故意ならね。
ーーー俺は事故だと思う。
………久我?なんか思い当たるものでもあんの?」
「いや、考えすぎかもしれない。
……姫坂は、ーーーー赤い色が苦手なんだ」
言ってもよいか躊躇するも口にした、そんな印象を綾瀬は受けた。
これは、きっと姫坂の過去に関わることなのだろう。
「…それを知ったとしてさ、こんな試すようなことする意味ないじゃん?
それとも他に心当たりとか?」
「……お前は、なんともないんだな?」
「ほへ?うん、何ともないけど?
………なんかあったのか?」
相手の質問は少々変な質問だ。
暗幕が落ちてきたからと言って怪我を心配するような人間ではない。
「俺の昔の動画が裏掲示板にあがっているらしい。
まあ、それは普通に検索かけたら出てくるだろうから、俺だけなら気にとめないんだ。
ただ…、他にも過去に関わるものを受け取ったっていう奴がいたって話だったから」
「………なんでそんなこと!ーーー真っ!
ちょっとごめん、電話するっ!」
久我は苦い顔をしたまま、斜め向かいの綾瀬を見やる。
ここで電話をするというのだから、聞かれたらまずい内容でもないのだろう。
「もしもし、真?
あのさ、なんともない?変わったこととか……うん、俺は何ともない。
なんかあったんなら隠してないで言えって。
へ?写真?………だって、あの写真は施設に1枚あるだけじゃんっ!
うん、うん……俺は何ともないんだけど、姫坂と久我が………」
そこまで言うと、綾瀬は久我を見やった。
綾瀬の様子を見ていた久我だったから、そこで目がかち合う。
「真、呼んで良い?」
「あぁ、かまわない」
目的は何なのだろうか?
心当たりの人物が見えないだけに、気味が悪い。
酷く濃い靄がかかっているように思えた。
久我はリーダーに連絡を取り、車を呼んだらしい。
まもなく組織に用意されたダミーの母親が姫坂の元へやってくるだろう。
姫坂の状態はあまり良い状態でないようだ。
「姫坂の奴、どうだったって?」
「うん、意識戻ったけど、念のため母親が迎えにきてそのまま一緒に病院行ったみたい」
嘘は苦手な綾瀬だが、この程度は顔色を変えずにすらすらと言えるようになってしまった。
実際は、すでに寮に戻っていることだろう。
姫坂に何があったのか、綾瀬には今一状況がつかめていなかった。
けれども、久我なら分かっているかもしれない、と思う。
姫坂とパートナーになって1年、久我は、自分よりもきっと近い場所にいるはずだ。
(姫があんな風になるなんてーーー)
今まで見たこともなかった。
綾瀬の知る姫坂は、大抵に穏やかに笑っていて、時々文句を言ったり、怒ったりして。
だから綾瀬は姫坂が組織に入っていると知ってびっくりしたのだ。
今思えば、姫坂は過去にふれないし、どんな暮らしをしているのかなど 生活についてもふれることはなかった。
そういう話を持ち出さないし、また相手にも話題にならないよう気をつけているみたいだった。
綾瀬はうっかり通っていた中学の話や住んでいる場所の話題になったりで内心ひやひやしながらごまかすことが多かったが、
姫坂はそういう状況にすらならないようにしているというのだがら凄い。
久我のようにあまり話をしないというのなら別だが、姫坂は綾瀬や西園寺、八尋以外の他の生徒にもよく話しかけられる。
大抵が聞き役に徹するというが、そこからアドバイスをすることも少なくない。
“あいつはある意味大物だ”と言っていた久我の言葉を綾瀬は思い出した。
あの独特の威圧感がある久我ともう1年も一緒に生活して仕事までこなしているんだから、確かに大物なんだろうと思う綾瀬だった。
「やっほい、きたよん」
『あぁ、今開ける』
「姫の具合、どう?」
「たいしたことはないと思うが、念のため先ほどまで救護班に来てもらっていた。
心因性のものだろうから、身体的には問題ないらしい」
「そっか…あ、コレ、お見舞い、久我と姫の分。
ワックの新作。
今日2人で行こうって言ってたんだ」
「………ありがとな」
複雑そうな顔で礼を言う久我の心境は、 綾瀬の言葉よりも、渡された食べ物についてだ。
久我はジャンクフードはあまり好まない。
「ここで食べていー?」
「ああ、テーブル使ってくれ」
「おっけー」
久我は嬉々として食べ始める綾瀬を横目に軽くため息をつくと、簡易キッチンへと向かい、コーヒーを2つ用意し、その1つを相手に差し出した。
目の前には座らずに、デスク近くの自分の椅子へと腰を下ろす。
朝食時の姫坂と、同じ距離だ。
「さんきゅ」
「それで、一応確認しておきたいんだけど」
何を、とは聞かなくても分かる。
久我は言葉が足りないところがあるが、周りにいる者は足りない言葉を読み取って自身で解釈出来る人間だった。
姫坂はそんなことで疲れはしないし(呆れはするが)綾瀬は鈍感だからか、全く気にした風もない。
鷹司に限っては、疲れもするがそういう人間だと知っても尚プライベートな話をするくらいだから相手の性格を割り切っているのだろう。
まぁ、鷹司は綾瀬以外の人間と話すのは多かれ少なかれ疲れるのだが。
「んー、俺もよくわかんないんだよね。
暗幕が落ちてきたのは確かだけれど、どこから落ちてきたのか、誰が落としたのか。
場所から言って音楽室か地学室だと思ってさ、とりあえず授業終わった後確認しに行ったんだけれど暗幕はずれてる教室なんてなかったし」
「…2人とも落ちてくるまで気がつかなかったのか?
話に気をとられていたとしても、普通気配で気がつくだろ?」
久我の言うことはもっともだった。
一般人がやることだったら普通は気がつく。
組織の人間であるものならば、人の気配にも意識にも敏感だ。
しかし、これは故意にやったという場合だ。
場所が遠ければ人の気配は他人にとけ込んでしまうし、自分たちに向けられていない意識を感じ取るのは難しい。
学校ならなおさらだ。
「故意ならね。
ーーー俺は事故だと思う。
………久我?なんか思い当たるものでもあんの?」
「いや、考えすぎかもしれない。
……姫坂は、ーーーー赤い色が苦手なんだ」
言ってもよいか躊躇するも口にした、そんな印象を綾瀬は受けた。
これは、きっと姫坂の過去に関わることなのだろう。
「…それを知ったとしてさ、こんな試すようなことする意味ないじゃん?
それとも他に心当たりとか?」
「……お前は、なんともないんだな?」
「ほへ?うん、何ともないけど?
………なんかあったのか?」
相手の質問は少々変な質問だ。
暗幕が落ちてきたからと言って怪我を心配するような人間ではない。
「俺の昔の動画が裏掲示板にあがっているらしい。
まあ、それは普通に検索かけたら出てくるだろうから、俺だけなら気にとめないんだ。
ただ…、他にも過去に関わるものを受け取ったっていう奴がいたって話だったから」
「………なんでそんなこと!ーーー真っ!
ちょっとごめん、電話するっ!」
久我は苦い顔をしたまま、斜め向かいの綾瀬を見やる。
ここで電話をするというのだから、聞かれたらまずい内容でもないのだろう。
「もしもし、真?
あのさ、なんともない?変わったこととか……うん、俺は何ともない。
なんかあったんなら隠してないで言えって。
へ?写真?………だって、あの写真は施設に1枚あるだけじゃんっ!
うん、うん……俺は何ともないんだけど、姫坂と久我が………」
そこまで言うと、綾瀬は久我を見やった。
綾瀬の様子を見ていた久我だったから、そこで目がかち合う。
「真、呼んで良い?」
「あぁ、かまわない」
目的は何なのだろうか?
心当たりの人物が見えないだけに、気味が悪い。
酷く濃い靄がかかっているように思えた。
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