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本編
-74- 大事なこと オリバー視点
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私が研究結果をまとめるためのこの部屋と、タイラーが資産管理の計算等に使っている執務室に、それぞれ梟の置物に模した魔法具が置かれています。
この魔法具は受信機能があり、驚くべきことに、そのまま対話が可能なのです。
白い梟の嘴がパクパクと動き、瞬きしながら首をかしげる様子は、まるで本当に生きているかのように見えます。
この魔法具は、こちらから送信することは出来ないものの、大変便利な代物です。
受信機を置く際、送信機も置くかと聞かれましたが、それは遠慮しました。
アレックスはとても忙しい人です。
タイミングがつかめませんし、私の都合で手を止めてしまうのはいかがなものか、と思ったからです。
友人とはいえ、私は子爵家の三男で、アレックスは侯爵家の御当主です。
私からの急ぎの用があれば、宮廷まで直接文を届ければその日のうちに見てもらえます。
アサヒがぽかんと口を開けて、まじまじと梟を見つめています。
姿があちらに映らないことには感謝したいですね、全く気がないとはいえ、このような可愛らしい姿を見るのは私だけで十分です。
『今少し大丈夫か?』
「ええ、大丈夫ですよ」
『ハンドクリームと、リップクリームの件だが、短期間で想像以上の物を作ってくれて本当に助かった。
物を見たコナーが喜びの悲鳴を上げてたぞ、ありがとうな』
「いいえ、今回のものに関しては、提案してくれたのは全てアサヒですから」
『そうか。…そこにいるのか?』
「いますが、受信機のことを説明していなかったので、驚いて固まってしまってます。…アサヒ、大丈夫ですか?」
「え、あ、コレ、この梟、喋んの?」
「アレックスが作った魔法具で、通話が出来るんですよ」
「へえ……なんで嘴も目も首も動くんだ?」
「それは、遊び心でしょう」
「ふーん……っ、これ、向こうに姿が見えたりとかっ」
じっと梟の瞳を覗き込んでいたアサヒが、慌てて距離を取りました。
焦ったように第二ボタンを占めています。
それは、先ほど口づけの最中に私がはずしてしまったボタンですね。
そのままだと、美しい鎖骨が見えますし、屈むと可愛らしい乳首が目に入ってしまうのでそろそろ閉めたほうが…とは思っていましたが。
慌てる必要は全くありません。
「見えませんよ。大丈夫なので安心してください」
『…悪い、邪魔したか?』
「っしてないです!そういうんじゃ……っ、お前が変な言い方するから、アレックス様に誤解されちまっただろうが!」
アサヒが真っ赤になって私の二の腕を叩いてきますが、全く痛くないので恥ずかしいだけなのでしょうね。
本当に可愛らしい。
「変な言い方なんてしてないでしょう?そうやってアサヒが焦るから、誤解したんですよ」
「だって聞いてねーもん、梟が喋るなんて。瞬きもすりゃ写ってるかもって思うじゃん」
「それは…すみません」
『ははっ。誤解して悪かった。アサヒ、本当に良いものをありがとう』
「いえ…蜜蝋は、元の世界では普通に使われていたので、俺が考えたものではないんですけど」
『ああ。レンも蜜蝋の使いどころについては口にしていたが具体的にどうすれば蜜蝋が取れるまでは知らなくてな。
アサヒなら知ってるかもしれないとは言っていたが、相談する前に商品になるとは思わなかった』
「…オリバーで特許をとること、許可していただけますか?」
『ああ、それは構わない。書類もこちらに届いたが、アサヒでなくていいのか?せめて代理はアサヒにしたらどうだ?』
「私が特許を取ればより敵が増えますから。その……もし、跡継ぎが出来たら考えたいと思います」
『わかった。なら、代理はひとまずエリソン侯爵領としてこちらでサインを入れる』
「ありがとうございます」
跡継ぎ。
私とアサヒの子供、ですか…。
アサヒが、さらっと言えずに、頬を赤らめて恥ずかしそうに口にするから、私まで恥ずかしくなってしまいます。
ああ、本当に可愛らしい。
交渉相手の前ではこのような素を見せることなどしませんが、気を許している相手だといちいち可愛らしい反応で困ります。
『それで、急なんだが明日の午後一で、キャンベル商会に来られるか?もし時間が取れるなら、コナーが迎えの馬車を用意すると言っていたが』
「明日ですか?随分急ですね」
『せめて三日後にしたらどうだと言ったんだが、それだと忙しくなるらしくてな。文を出す時間もないから俺がこうして直接話しているわけだ』
「あなたを自分の従業員のように扱えるのは流石ですね。…でも、そうですね、でしたらしょうがないですね」
『都合が悪ければ断るが?』
「いえ、都合は悪くありませんよ。ただの私のわがままですから」
『…それを聞いてもいいか?』
「ピアスとブローチが昨日届いたばかりなんです。それをつけて最初に出かける先が、キャンベル商会の応接室になるのは非常に残念だと」
『ああ……なら、別の日にするか?』
「そうですね……」
「あの、アレックス様も同席されるんですか?」
『ああ』
「それならば、明日で構いません」
私が答えを出すより前にアサヒが答えを出してしまいました。
アサヒが構わなくても私が構うんですが……一緒に外で歩いてみたいと言った言葉を覚えているでしょうか?
「そうやってお前が残念がってくれるだけでいいよ。外歩くのは、その後出来るだろ?
明日別に急ぎの予定とかねえじゃん。
用事が終わったら、その足でお前の行きたいところに行こう?」
「ありがとうございます、アサヒ」
ああ、覚えていてくれたようですね。
というか…アサヒは、私のことだとちゃんと覚えていてくれるみたいですね。
何気ない一言であっても、仕草であっても、ちゃんと。
アサヒは、重要なことは覚えていますが、そうでないと覚えない傾向があります。
その匙加減はアサヒの基準で、他人にとって一般的であってもそうでない場合があるのです。
アサヒにとって大事なことと思われているのが、私はとても嬉しく思うのです。
+++++++
思いのほかオリバー視点が長引いてしまいました(><)
次回より、キャンベル商会へ戻ります。
この魔法具は受信機能があり、驚くべきことに、そのまま対話が可能なのです。
白い梟の嘴がパクパクと動き、瞬きしながら首をかしげる様子は、まるで本当に生きているかのように見えます。
この魔法具は、こちらから送信することは出来ないものの、大変便利な代物です。
受信機を置く際、送信機も置くかと聞かれましたが、それは遠慮しました。
アレックスはとても忙しい人です。
タイミングがつかめませんし、私の都合で手を止めてしまうのはいかがなものか、と思ったからです。
友人とはいえ、私は子爵家の三男で、アレックスは侯爵家の御当主です。
私からの急ぎの用があれば、宮廷まで直接文を届ければその日のうちに見てもらえます。
アサヒがぽかんと口を開けて、まじまじと梟を見つめています。
姿があちらに映らないことには感謝したいですね、全く気がないとはいえ、このような可愛らしい姿を見るのは私だけで十分です。
『今少し大丈夫か?』
「ええ、大丈夫ですよ」
『ハンドクリームと、リップクリームの件だが、短期間で想像以上の物を作ってくれて本当に助かった。
物を見たコナーが喜びの悲鳴を上げてたぞ、ありがとうな』
「いいえ、今回のものに関しては、提案してくれたのは全てアサヒですから」
『そうか。…そこにいるのか?』
「いますが、受信機のことを説明していなかったので、驚いて固まってしまってます。…アサヒ、大丈夫ですか?」
「え、あ、コレ、この梟、喋んの?」
「アレックスが作った魔法具で、通話が出来るんですよ」
「へえ……なんで嘴も目も首も動くんだ?」
「それは、遊び心でしょう」
「ふーん……っ、これ、向こうに姿が見えたりとかっ」
じっと梟の瞳を覗き込んでいたアサヒが、慌てて距離を取りました。
焦ったように第二ボタンを占めています。
それは、先ほど口づけの最中に私がはずしてしまったボタンですね。
そのままだと、美しい鎖骨が見えますし、屈むと可愛らしい乳首が目に入ってしまうのでそろそろ閉めたほうが…とは思っていましたが。
慌てる必要は全くありません。
「見えませんよ。大丈夫なので安心してください」
『…悪い、邪魔したか?』
「っしてないです!そういうんじゃ……っ、お前が変な言い方するから、アレックス様に誤解されちまっただろうが!」
アサヒが真っ赤になって私の二の腕を叩いてきますが、全く痛くないので恥ずかしいだけなのでしょうね。
本当に可愛らしい。
「変な言い方なんてしてないでしょう?そうやってアサヒが焦るから、誤解したんですよ」
「だって聞いてねーもん、梟が喋るなんて。瞬きもすりゃ写ってるかもって思うじゃん」
「それは…すみません」
『ははっ。誤解して悪かった。アサヒ、本当に良いものをありがとう』
「いえ…蜜蝋は、元の世界では普通に使われていたので、俺が考えたものではないんですけど」
『ああ。レンも蜜蝋の使いどころについては口にしていたが具体的にどうすれば蜜蝋が取れるまでは知らなくてな。
アサヒなら知ってるかもしれないとは言っていたが、相談する前に商品になるとは思わなかった』
「…オリバーで特許をとること、許可していただけますか?」
『ああ、それは構わない。書類もこちらに届いたが、アサヒでなくていいのか?せめて代理はアサヒにしたらどうだ?』
「私が特許を取ればより敵が増えますから。その……もし、跡継ぎが出来たら考えたいと思います」
『わかった。なら、代理はひとまずエリソン侯爵領としてこちらでサインを入れる』
「ありがとうございます」
跡継ぎ。
私とアサヒの子供、ですか…。
アサヒが、さらっと言えずに、頬を赤らめて恥ずかしそうに口にするから、私まで恥ずかしくなってしまいます。
ああ、本当に可愛らしい。
交渉相手の前ではこのような素を見せることなどしませんが、気を許している相手だといちいち可愛らしい反応で困ります。
『それで、急なんだが明日の午後一で、キャンベル商会に来られるか?もし時間が取れるなら、コナーが迎えの馬車を用意すると言っていたが』
「明日ですか?随分急ですね」
『せめて三日後にしたらどうだと言ったんだが、それだと忙しくなるらしくてな。文を出す時間もないから俺がこうして直接話しているわけだ』
「あなたを自分の従業員のように扱えるのは流石ですね。…でも、そうですね、でしたらしょうがないですね」
『都合が悪ければ断るが?』
「いえ、都合は悪くありませんよ。ただの私のわがままですから」
『…それを聞いてもいいか?』
「ピアスとブローチが昨日届いたばかりなんです。それをつけて最初に出かける先が、キャンベル商会の応接室になるのは非常に残念だと」
『ああ……なら、別の日にするか?』
「そうですね……」
「あの、アレックス様も同席されるんですか?」
『ああ』
「それならば、明日で構いません」
私が答えを出すより前にアサヒが答えを出してしまいました。
アサヒが構わなくても私が構うんですが……一緒に外で歩いてみたいと言った言葉を覚えているでしょうか?
「そうやってお前が残念がってくれるだけでいいよ。外歩くのは、その後出来るだろ?
明日別に急ぎの予定とかねえじゃん。
用事が終わったら、その足でお前の行きたいところに行こう?」
「ありがとうございます、アサヒ」
ああ、覚えていてくれたようですね。
というか…アサヒは、私のことだとちゃんと覚えていてくれるみたいですね。
何気ない一言であっても、仕草であっても、ちゃんと。
アサヒは、重要なことは覚えていますが、そうでないと覚えない傾向があります。
その匙加減はアサヒの基準で、他人にとって一般的であってもそうでない場合があるのです。
アサヒにとって大事なことと思われているのが、私はとても嬉しく思うのです。
+++++++
思いのほかオリバー視点が長引いてしまいました(><)
次回より、キャンベル商会へ戻ります。
応援ありがとうございます!
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