異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-465- 杖

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今朝はいつも通りにアレックスと朝食を食べてお茶をして、その後少しダンスをしてからお見送り、それからセオに稽古をつけて貰った。
かわりない朝を過ごしてると思う。
本当にいいお天気で、こうして外で身体を動かすのも気持ちがいい。

相変わらず手きびしいのに優しいセオは、一発も入れさせてくれないのに、僕を褒めてばかりだ。
体術の技術が上がったか?と聞かれたら、良く分からない。
けれど、人に向けるのを躊躇しなくなってきたと思う。
これは、相手がセオに限り、だ。

セオが僕よりずっとずーっと体術に長けていて、風のスキルも持っているから絶対にケガさせないってわかるからだ。
稽古中に演技でズルをしてまで一本を取りたくない。
体術で演技をしたのは、試験のときの一度きりだ。
ズルだと言われいようと、武器は武器。
使う時には使うけれど、それは、ここぞと言う時だけしか使いたくない。

まだ、短剣は許可が出ていない。
今は、僕は棍を使って、セオは素手での稽古。
自分も相手も魅せる動きから、相手を敵とみなし自分を守るための動きにシフトするのは思った以上に難しかった。

技術的な上達は兎も角、意識の切り替えは出来るようになった。
そして、体力も、少しついてきたと思う。
もともと体力がないわけじゃなかった。
見た目よりずっと根性も体力もある、と師匠に言われてきたし、舞台共演者からも『レン君全然へばらないね』なんて言われてきた。
ただ、後者は武道をやっているからという理由より、単なる若さが原因だと思われていた。

「近いうち、レン様のコンをちゃんと作ってもらいましょうね」
「え?」
「それ、ただの木の棒ですし。武器屋より、魔道具店ですかねえ、頼むとしたら。杖扱いになるかもしれません」
「杖?」
「ええ。魔力の通りが良い素材を使って、付与も色々つけて貰いましょう。
武器自体の性能を上げるのは、技術力を上げるよりずっと簡単で楽ですし、今と同じ力で底上げできます」
「確かに」

セオの言う通り、棍自体の性能を上げることができたら、防御力も戦闘力も今よりぐっと高くなるはずだ。
物に頼るのはけして悪いことじゃないっていうのも聞いている。
アレックスは魔法士で魔力制御も優れているから杖を使わないけれど、魔道士は杖を使うことが多いと聞いた。

杖は、素材も大きさもまちまちで、その性能によって自分の魔力も左右されるらしい。
杖に興味がないわけじゃない。
寧ろ、興味がある。

ファンタジー要素が満載だし、元の世界だと、漫画やアニメの世界でしかないものだったし。
こっちの世界で棍に馴染がなくても、杖は珍しいものじゃないならその方が頼みやすいのかもしれない。
なんか、作ってもらうのがとっても楽しみになってきた。

「丁度いいですから、お茶の時間にでもスペンサー公へご相談するのが良いかもしませんね」
「うん」
「そういえば、今朝、アレックス様とのダンスはいかがでしたか?今日、スペンサー公とは上手くいきそうです?」

セオが深刻さゼロな表情で聞いてくる。
揶揄ってもいないし、ただ、どうだったかを聞いてきただけだ。
けれど、思わずむっとした顔になってしまったのは、朝のやり取りが原因だ。
アレックスとじゃない、セバスとのだ。

今日の午後はエリー先生とお父様が来られる日。
お父様とのダンスだけじゃなくて、アレックスのダンスも相手してもらう。
セオの風のアシストが無くても踊れるようになったワルツは、アレックスとだとまだ失敗することも多い。
ダンスはお互いの息が合わないとうまくかみ合わない。
タイミングが少し早くても遅くても、自分でフォローがしずらい足運びとターンだ。

セオの様に風のアシストがあれば軸がずれても修正が効くけれど、アレックスが相手だと力技になっちゃう。
乗り切ることが出来てもどうしても不自然さが出てしまう。
そうすると、その後に続くダンスにもぎこちなさが続いてしまって、一度つまずくと最後まで中々挽回がしづらい状況だった。
上手くいけば、そのまま上手く続くんだけれどね。

アレックスのせいだとか僕のせいだとかじゃないって思ってるのだけれど、セバスは、アレックスのせいだと言う。
そして、それはアレックス自身も、俺のせいだ、と本気で思ってる。

ダンスは一人で踊るものじゃない。
二人で踊るものだ。
セバスはすぐアレックスのダンスにケチをつける。
ケチ……っていうと語弊があるかもしれないけれど、一つ一つの動作にも細かい指摘が入るんだ。
だんだんアレックスの気持ちが下がっちゃうこともある。
今朝がそれだった。
嫌々踊ってうまくいくわけないじゃないか。

「何か、ありましたか?アレックス様に言いづらいことがあっても、俺には遠慮せず言ってくださいね」

セオがさっきと違って、凄く心配そうな顔で見てくる。

「あ、ううん、アレックスとは何もないんだけれど。セバスとあった」
「爺さまと?」
「だって、セバスがアレックスのダンスにすぐケチ付けるんだよ?
アレックスの気持ちがどんどん下がって、あれじゃうまくいくものもうまくいかないよ」


セバスを叱ったのは初めてかもしれない。
お願いは今までたくさんしてきたし、初回は八つ当たりをしたこともある。

『セバス、次からアレックスの気持ちが下がるような指摘をしないで』
『ですがレン様、今の状態ではとてもじゃありませんが完成には遠いと思われます。時間も足りておりません』

セバスの言うことはもっともだった。
けれど、僕には僕の言い分がある。

『良くしようとしてくれてるのは分かるよ?時間が足りないっていうのも、現状から考えれば言いたいのもわかる。
でもね、嫌々踊ってうまくいくわけないでしょう?』
『……仰る通りです』

『出来ていないことを出来ていないってわざわざ指摘しなくても、アレックス自身が一番分かってることだよ。
どうしたらよりよくなるかだけを分かりやすく伝えるようにして。
セバスは僕のことをいつもそのままでいいって言ってくれるけれど、僕が少し変えることで良くなるようなら僕が変えるから。
ダンスは二人でするものだ、そうでしょう?』
『その通りでございます。つい色々と口にしてしまい、申し訳ございません』
『ううん、僕も強く言ってごめん。いつもならいいんだ。けれど、今のアレックスはダンスに苦手意識が強いし卑屈になりかけてるから』

僕とのダンスが嫌になったら困る。
それが一番困る。
でも、次からはきっと大丈夫だ、多分。

「セバスを叱っちゃった」
「あー……なるほど」
「ダンス以外なら良いんだけれど、アレックスがダンスに対して苦手意識が強いから。これ以上卑屈になってほしくないんだ」
「爺さまの指摘は適格ですからねえ、たまに抉られます」
「でしょう?アレックスの気持ちを下げるような指摘をしないように言ったんだ。出来ないものを出来てないって言わないでって」
「今回ばかりは、レン様が断然正しいです」
「僕はアレックスとのダンスが一番好きなんだけれど、それを強いてると思うと素直になれなくなりそうだし」
「焦らなくても大丈夫ですよ、まだ時間はたくさんあります」
「うん、そうだね」

セオの言う通りだ。
時間も足りていないとセバスは言うし、今の出来から言ったら僕もそう思うけれど、時間がないわけじゃない。
まだ、本番まで1ヶ月以上ある。


「この後、場所は予定通りコンサバトリーで大丈夫ですか?」
「うん」

この後すぐ、レナードの話を聞くことになっている。

どのくらい時間が欲しいのかは聞けなかった。
すぐに済む話かもしれないし、長くなるかもしれない。
それを時間で区切りたくなかったから午前中にしてもらった。
時間はいつでもいいとアレックスからもセバスからも聞いていたからね。
エリー先生とお父様が帰られた後でも時間が取れるんだけれど、なるべく早い段階で落ち着いてゆっくり話が出来る状態を作ってあげたいと思ったんだ。
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