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女性恐怖症の公爵令息ブルーノの場合
-4- 食事
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「初対面の人間と食べるの苦手な人もいるだろ?特に、ブルーノ様は公爵家のご長男だ、警戒してもしかたない」
「………」
普通に、咎めもせず、非難もせず、同情もせずに告げられて、何も言えなくなった。
彼女は、女性と食事も共にできない相手だと知っても、『しかたない』ですませるのか?
こちらから、呼びだしておいて?
「私は毒や薬を使う気なんてこれっぽっちもないし、私自身が慣らされてもいるし、ある程度見わけもつくから心配しなくてもいい……って言っても安心はできないか。ひとりで食べるのは気が引けるけど、腹は減ってるから頼ませてもらう」
そう言って、彼女はなれたようすで店員を呼び寄せ、おすすめのコースを頼んだ。
「私にも同じものを」
店員がこちらに目を向けてきたので、そう答えた。
また自然に言葉に出来たことに自分で驚いてしまった。
彼女、クリスティーナ嬢は、驚いたような表情から嬉しそうな笑みに変えた。
その向けられた笑みが、褒められたような気持ちにさせてくれる。
「あなたのことは、予め聞いていた」
「ん?」
こちらも話さなくてはフェアじゃない。
そう思い、口を開く。
「あ、いや……その、十五まで男として育てられた、と。普段も男性の格好をしているようだから、女性を毛嫌いしている私でも一緒に食事くらいは出来るだろうと、父が」
「ああ、そういう。で?どう?出来そう?」
「確かに男性の格好をしているからか、思った以上に安心している」
出来そうかと聞かれて、素直に答えた。
「あなたからの女性特有の嫌な視線もない。香水臭くもないし、胸がないから吐き気もしない」
「胸がないは誉め言葉じゃないな!」
明るく笑い飛ばされて、己の失言に気が付く。
女性相手に、それも、見合い相手の女性だ。そんな相手に対して『胸がない』等と。
「まあ、吐き気がしないなら良かったよ。でも、そっか…胸があるだけで吐き気がすんのか」
私の内心の焦りは、ほんの一秒足らずで終わった。
彼女は怒りもせず、傷つきもせず、本気で私のことを心配している様子を見せてくる。
「正しくは、目に入ってしまうと、腕を取られた時の感触を思い出し、薬を盛られた時を思い出す」
「あーなるほど…それは辛いな」
女性の、それも初対面にも関わらず、己の弱音を吐ける自分にも驚くが、彼女の前では自然でいられた。
本気で心配してくれているのがわかる。
「フラッシュバックか」
「フラッシュバック?」
「嫌な経験をすると、ちょっとしたきっかけで思い出すってこと。小さい時に暗いところに閉じ込められたことのある奴が、今も暗闇が苦手だとか、そういう感じ」
「ああ。それに近いのかもしれない」
その後も、ぽつりぽつりと胸の内を語る。
最初に情けないところを晒してしまったからか、緊張も不安もなくなっていた。
食事が運ばれて、初めの一口は少し勇気がいったが、驚くほど自然に喉を通った。
ちゃんと、味もするし、味わうことが出来ている。
「あ、美味いなこれ!」
お手本のように美しい所作で口へと物を運ぶ彼女だが、時折本当に美味しそうに笑う。
食事をこんなにも美味しいと感じるのはいつぶりだろうか。
少なくとも女性相手に食事を楽しむのは初めてかもしれない。
諸外国との関係性、国の政治や産業について、彼女は本当に詳しかった。
質問すれば、現状自身が把握していることを告げた後、己の見解を含めて答えが返ってくる。
そのどれもが、明るい未来ある言葉だ。
これが、私にとってはとても新鮮だった。
仕事柄懸念事項に目を向けることが多いのだ、彼女の話は思いがけないほど魅力的だった。
特に、東の大国、タイル帝国についてだ。
海を隔てて距離がある。
だが、大国であるからこそ、少しずつこの国にも物が流れてきている。
一度タイル語の手紙の翻訳を殿下から頼まれ、辞書片手に調べてみたが二行で諦めてしまった。
訳したところでさっぱりだったのだ。
手紙の出どころすら分からなかった。
手紙はこの国とのやり取りがあったわけではない。
商人がなんの手紙かどこの国の手紙かもわからず、ただ見た目が美しい封書と記号のような文字で、『珍しい貴重な手紙』として売っていたらしい。
それを、物好きな殿下がどこからか手に入れたものだった。
訳したところで全く意味が分からなかったし、文官に訳を任せたところで私とほぼ同じ回答が返ってきたのだ。
クリスティーナ嬢はそんな難解のタイル語に明るく、日常会話や手紙の翻訳なら問題なくこなせるらしい。
訳した文章はまだ覚えていた。
「『黄金の風が、いかなる歌を運ぶのか──我が魂は、未だ届かぬ甘い旋律に耳を傾ける』」
「ああ、それはさ『あなたの国の文化にはとても興味があります』って言ってるよ」
「なぜそうなるんだ?」
「ははっ本当、中二病なんだよなあ、言葉が。あ、ごめん、あとは?」
「『天の羅針盤が示す吉兆の方角に、砂漠を渡りし我が影が、そなたの大地に落ちるはいかなるときか』」
「『訪問したいから、良い時期はいつですか?』って聞いてる」
「難解だな」
「面白いよな。直訳しちゃうと、おかしな文章になるんだ」
面白そうに笑うクリスティーナ嬢は、タイル帝国の織物やランプも好きらしい。
本も読んでいるようで、実際に訪れてみたいようだ。
文化も身分制度も独特だが、見たこともない砂漠という一面砂の大地が広がってる場所があったり、黄金の宮殿があったりすると聞く。
楽しそうに語る彼女の話に耳を傾け、その国境や他国との情勢を聞かれては私の知りうることを話した。
私の話に彼女もまた、興味深そうに聞いてくれた。
「………」
普通に、咎めもせず、非難もせず、同情もせずに告げられて、何も言えなくなった。
彼女は、女性と食事も共にできない相手だと知っても、『しかたない』ですませるのか?
こちらから、呼びだしておいて?
「私は毒や薬を使う気なんてこれっぽっちもないし、私自身が慣らされてもいるし、ある程度見わけもつくから心配しなくてもいい……って言っても安心はできないか。ひとりで食べるのは気が引けるけど、腹は減ってるから頼ませてもらう」
そう言って、彼女はなれたようすで店員を呼び寄せ、おすすめのコースを頼んだ。
「私にも同じものを」
店員がこちらに目を向けてきたので、そう答えた。
また自然に言葉に出来たことに自分で驚いてしまった。
彼女、クリスティーナ嬢は、驚いたような表情から嬉しそうな笑みに変えた。
その向けられた笑みが、褒められたような気持ちにさせてくれる。
「あなたのことは、予め聞いていた」
「ん?」
こちらも話さなくてはフェアじゃない。
そう思い、口を開く。
「あ、いや……その、十五まで男として育てられた、と。普段も男性の格好をしているようだから、女性を毛嫌いしている私でも一緒に食事くらいは出来るだろうと、父が」
「ああ、そういう。で?どう?出来そう?」
「確かに男性の格好をしているからか、思った以上に安心している」
出来そうかと聞かれて、素直に答えた。
「あなたからの女性特有の嫌な視線もない。香水臭くもないし、胸がないから吐き気もしない」
「胸がないは誉め言葉じゃないな!」
明るく笑い飛ばされて、己の失言に気が付く。
女性相手に、それも、見合い相手の女性だ。そんな相手に対して『胸がない』等と。
「まあ、吐き気がしないなら良かったよ。でも、そっか…胸があるだけで吐き気がすんのか」
私の内心の焦りは、ほんの一秒足らずで終わった。
彼女は怒りもせず、傷つきもせず、本気で私のことを心配している様子を見せてくる。
「正しくは、目に入ってしまうと、腕を取られた時の感触を思い出し、薬を盛られた時を思い出す」
「あーなるほど…それは辛いな」
女性の、それも初対面にも関わらず、己の弱音を吐ける自分にも驚くが、彼女の前では自然でいられた。
本気で心配してくれているのがわかる。
「フラッシュバックか」
「フラッシュバック?」
「嫌な経験をすると、ちょっとしたきっかけで思い出すってこと。小さい時に暗いところに閉じ込められたことのある奴が、今も暗闇が苦手だとか、そういう感じ」
「ああ。それに近いのかもしれない」
その後も、ぽつりぽつりと胸の内を語る。
最初に情けないところを晒してしまったからか、緊張も不安もなくなっていた。
食事が運ばれて、初めの一口は少し勇気がいったが、驚くほど自然に喉を通った。
ちゃんと、味もするし、味わうことが出来ている。
「あ、美味いなこれ!」
お手本のように美しい所作で口へと物を運ぶ彼女だが、時折本当に美味しそうに笑う。
食事をこんなにも美味しいと感じるのはいつぶりだろうか。
少なくとも女性相手に食事を楽しむのは初めてかもしれない。
諸外国との関係性、国の政治や産業について、彼女は本当に詳しかった。
質問すれば、現状自身が把握していることを告げた後、己の見解を含めて答えが返ってくる。
そのどれもが、明るい未来ある言葉だ。
これが、私にとってはとても新鮮だった。
仕事柄懸念事項に目を向けることが多いのだ、彼女の話は思いがけないほど魅力的だった。
特に、東の大国、タイル帝国についてだ。
海を隔てて距離がある。
だが、大国であるからこそ、少しずつこの国にも物が流れてきている。
一度タイル語の手紙の翻訳を殿下から頼まれ、辞書片手に調べてみたが二行で諦めてしまった。
訳したところでさっぱりだったのだ。
手紙の出どころすら分からなかった。
手紙はこの国とのやり取りがあったわけではない。
商人がなんの手紙かどこの国の手紙かもわからず、ただ見た目が美しい封書と記号のような文字で、『珍しい貴重な手紙』として売っていたらしい。
それを、物好きな殿下がどこからか手に入れたものだった。
訳したところで全く意味が分からなかったし、文官に訳を任せたところで私とほぼ同じ回答が返ってきたのだ。
クリスティーナ嬢はそんな難解のタイル語に明るく、日常会話や手紙の翻訳なら問題なくこなせるらしい。
訳した文章はまだ覚えていた。
「『黄金の風が、いかなる歌を運ぶのか──我が魂は、未だ届かぬ甘い旋律に耳を傾ける』」
「ああ、それはさ『あなたの国の文化にはとても興味があります』って言ってるよ」
「なぜそうなるんだ?」
「ははっ本当、中二病なんだよなあ、言葉が。あ、ごめん、あとは?」
「『天の羅針盤が示す吉兆の方角に、砂漠を渡りし我が影が、そなたの大地に落ちるはいかなるときか』」
「『訪問したいから、良い時期はいつですか?』って聞いてる」
「難解だな」
「面白いよな。直訳しちゃうと、おかしな文章になるんだ」
面白そうに笑うクリスティーナ嬢は、タイル帝国の織物やランプも好きらしい。
本も読んでいるようで、実際に訪れてみたいようだ。
文化も身分制度も独特だが、見たこともない砂漠という一面砂の大地が広がってる場所があったり、黄金の宮殿があったりすると聞く。
楽しそうに語る彼女の話に耳を傾け、その国境や他国との情勢を聞かれては私の知りうることを話した。
私の話に彼女もまた、興味深そうに聞いてくれた。
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